村一番のおてんば娘
「エリナちゃん、また木に登って!降りてきなさい!」
村のおばさんが下から大きな声で叫んでいる。私は大きな樫の木の上で、風に揺られながら遠くの山々を眺めていた。
「もうちょっとだけ!」
手を振って答えると、おばさんは困ったような顔をして首を振った。
十歳になった私は、村の男の子たちにも負けないくらい元気だった。木登りも、川遊びも、虫捕りも大得意。おばあちゃんは「お転婆すぎる」って苦笑いしているけれど、私は外で遊ぶのが一番楽しい。
「エリナ、危ないからそろそろ降りておいで」
下からおばあちゃんの優しい声がした。私は慌てて木を降り始めた。おばあちゃんを心配させるのは嫌だから。
「ごめんなさい、おばあちゃん」
地面に飛び降りると、おばあちゃんが苦笑いしながら私の頭を撫でてくれた。
「本当にお猿さんみたいな子ね。でも怪我をしたらどうするの」
「大丈夫!私、猫みたいに身軽だもん」
そう言って見せようと塀の上を歩いていたら、案の定足を滑らせて落っこちた。
「きゃあ!」
お尻を強く打って、涙が出そうになった。でもおばあちゃんの前では泣かないって決めてるから、必死に我慢した。
「ほら、見なさい。そんなことするから」
おばあちゃんが駆け寄って、私の体をくまなく調べてくれる。その手はいつものように温かくて優しい。
「痛くない?怪我はしてない?」
「うん、大丈夫」
本当は少し痛かったけれど、おばあちゃんが心配そうな顔をしているから、元気に笑ってみせた。




