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ミューネ&ツァイトシリーズ

前世不幸だった少女は…

作者: 透坂雨音
掲載日:2025/05/17



 中原美羽は、一般的な視点から見て、かなり悪い家庭環境で生きていた。

 両親は絶えず言い争い、投げられた物が家の中を飛び交っていた。

 美羽を世話をするものはおらず、食事はままならず、学校にも行けなかった。

 だから、美羽が死亡するのは、必然の結末だったのかもしれない。

 美羽には頼る者がおらず、美羽を気に掛けるものもいなかったのだから。



 美羽の人生で奇跡が舞い込んだ瞬間を数えるなら、最初の一つがそれだっただろう。

 人生のやり直し。

 美羽は、記憶を保持したまま、次の人生を生きられる事にきまった。


 死後、美羽の間の前に現れた、奇跡の神様は言った「この世に奇跡はある」のだと

 その事実を告げたのは、奇跡をつかさどる神だ。

 男とも女とも見れる、中世的な顔立ちをしたその神は、奇跡に恵まれなかったものに、微笑むのが仕事だと言った。

 普通ならその施しを喜ぶ物が多いが、美羽には分からなかった。


 二度目の人生を送れる事が自分にとって、幸福なことなのか分からなかったのだ。


 いくつかの会話を経て、美羽は新しい人生を歩む事になった。

 新しく与えられた名前は、ミューネ。

 赤ん坊として生まれた彼女は、靄がかかったようなぼんやりとした意識のまま、3歳頃まですごした。


 物心がつくようになった美羽の耳には、その世界についての情報が段々入ってくるようになった。

 美羽が転生したその世界は、一つの大陸の上に複数の国が存在する場所だ。

 空には月が三つあり。

 太陽はたまに七色に輝く事があるという。


 そんな美羽ことミューネが生まれた家は、ディアローズという名前だ。

 ディアローズ家は裕福で、商売に成功し、なりあがった家だ。

 文明の程度は、その世界の人々が重い鉄を動かし、各地に移動できるようになるほんの少し前。

 馬車を移動の主流としている時代だ。


 魔王が世界をしようとしていたり、絶対的な支配者が人々を監視するようなディストピアでもない。

 個人個人の間で諍いはあるものの、そこは平和な世界と言えた。


 平和な世界で、ミューネは大人し子供として育つ。

 我儘を言わないどころか、泣きも驚きもしない。

 一般的な子供とはかけ離れたその様子を見て、ミューネの両親や使用人たちは彼女を心配してやまなかった。


 ミューネに7歳の誕生日が訪れた。

 両親はミューネのためにたくさんのプレゼントを用意する。

 しかし、ミューネはそれらを贈られる価値が自分にはないと思っていた。


 そんなミューネに遊び相手が必要だと考えた両親は、双子の使用人を雇う。

 双子の使用人はミューネと年が近いため、他の使用人よりは彼女と仲が良くなった。


 親しい相手を得たミューネは、後継者としての勉強を始める頃合いになる。

 勉強をしっかりとこなしたが、ますます年相応の遊びをしなくなった。


 加えて、社交もこなさなけれがいけないが、社交界で人と交流するのは苦手だった。

 話のネタがなく、彼女は困り果てていた。

 双子の使用人が色々な情報を仕入れてくれるおかげで、ふられた話題にはこたえられるようになったものの、自分から話を発展させる事は苦手なままだった。


 そんな中、とある社交場からの帰り道。

 馬車から降りたところ暴走した馬がミューネを跳ね飛ばそうとした。

 それを双子の使用人が助けたため、事なきを得たがミューネには疑問があった。

 ミューネは、大した事のない人間のためにどうして命をはれるのかと問いかけた。

 すると双子の使用人は「理由がなければ人を助けてはいけないのですか? 誰かに愛情を持ってはいけないのですか?」と言った。

 ミューネは理由が無くても人を愛する事はあるのだと学んだのだった。


 そんなミューネは、ある日屋敷の敷地内で怪我をした少年を見つける。

 ミューネは彼を放っておくことができず、屋敷で保護する事に決めたのだった。

 ミューネからの初めてのお願いに、両親ははりきった。

 ついでに他の使用人もはりきった。


 保護した少年の名前はツァイト。

 裏社会で生きる人間で、暗殺者として育てられた孤児だった。

 しかし、任務で傷を負い、意識もうろうとしていたため、貴族の屋敷の庭に迷い込んだのだった。


 表社会の人間ではないというツァイトの告白を聞いたミューネは、特に驚かなった。

 そのため、ツァイトに変わった少女だと言われる。


 どうして助けたのかと問うツァイトに、ミューネは放っておけなかったから。と答えた。

 どこか自分と同じだと思ったからだ。


 それから怪我をなおしたツァイトは、その屋敷で使用人として働きながら世話になる事が決まった。


 社交界に出る機会が増えたミューネは、初めての友達ができた。

 名前はアネットで、ミューネに積極的に話しかけてくる少女だった。

 最近社交界デビューをしたため、友達がいなくて寂しいと言う。

 少女は恋愛小説好きであったため、ミューネに自分の好きな本をどんどん紹介した。


 そんな友人のアネットには、悩み事があるという。

 それは、自分が必要とされているのか分からないというものだ。

 アネットには大恩のある相手がいるが、その人の力になれる人間は大勢いる。

 アネットは自分の力が微々たるものだと知っているため、悩んでいたのだった。


 ミューネは、三日三晩考えた末に自分が出した答えをアネットに伝えた。

「そんなに考えてたの?」と驚くアネットに向かって、「私だったら力になってくれるかどうかより、大好きな人にそこにいてくれるだけで嬉しい」と。

 アネットは微笑んでミューネの優しい行いに、「ありがとう」と言った。


 年月はさらに数年ながれて、ミューネは学園に入学する事になる。

 同じ年代の者達と共に、学び舎で本格的に貴族会の礼儀作法や、この世界の一般常識などを学ぶためだ。

 ミューネは同じ学校になったアネットと共に、毎日勉学に励む事になる。


 アネットが立ち上げた文芸部に入部し、前世ではできなかった学園生活を過ごしていたミューネだが、その平穏は崩れ去る。

 貴族の子供達を誘拐する事件が起きて、アネットが攫われてしまったからだ。

 ミューネは、他の人に任せるべきだと思いつつも、アネットを心配して手掛かりを探す。


 目撃者からの聞き込みによって、犯人が残した足跡から限定品の靴だと推測し、身分を特定。

 犯人が口にした言葉から、訛りを考え、住んでいる地域を特定。

 犯人の慎重や、体格から性別などを割り出したミューネは、誘拐犯がいる場所へと向かう。


 犯人は、国に不満を持つ者で、もっと国に優遇されようとしていた富裕層だった。

 ミューネは、勝手についてきた「「探偵になれそうですねお嬢様なら」」と言う双子の使用人たちとも協力して、攫われた人質を助けようとする。

 しかし、そこでミューネ達は誘拐犯に見つかって危機に陥ってしまう。


 犯人たちに凶器を振りかぶられたミューネは、そこで初めて自分が生きたいという願いを持っている事に気付いた。

 そんなミューネを間一髪助けたのはツァイトだ。


 ミューネ達がいなくなったという屋敷の騒ぎを聞いて、探しにきていたのだった。


 人質たちは無事に解放され、アネットも無事だった。

 そのことでミューネは両親に怒られ、自分が愛されている事を実感するのだった。

 犯人たちを倒したツァイトは、この手の組織から足を洗う事を決断して、表の世界の人間として生きていく事を決める。


 

 前世とは違い、多くの願いと欲を得たミューネはそれからも生きていく。

 自分を愛してくれる人達と、自分が愛するたくさんの人たちと共に。



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