第7話:置いてけぼりの月曜日
月曜の昼休み。
カフェの休憩室には、週末の余韻が漂っていた。
「ユカ先輩、昨日のドライブどうだったんですか〜?」
後輩の女子が、キラキラした声で尋ねる。
「うん、すっごく楽しかった!海まで行ってさ、途中で寄ったカフェがめっちゃオシャレでね――」
その声が、遠く聞こえた。
ヒロトは同じ空間にいるはずなのに、自分だけがガラス越しの存在になったような感覚に陥っていた。
笑ってる先輩。
それを囲むみんな。
そして、その輪の外にいる自分。
昨日のことなんて、知るはずもない。
知る権利もない。
ただ、心だけがざわつく。
休憩が終わり、ヒロトはひとりで洗い場に入った。
手を動かしても、頭の中はぐるぐると思考が回っていた。
「タカトくん、やっぱかっこいいよね」
「優しいし、話しやすいし…完璧じゃん」
そんな声が耳に残る。
完璧な男と、それを自然に受け入れる世界。
そして、そこで浮いてる自分。
「…俺、やっぱ無理なんじゃないか」
つぶやいた声は、食洗機の音に消えた。
夜。
部屋の明かりをつけず、ベッドに寝転がったままスマホだけを見つめる。
マリーの画面を開くか迷って、閉じて、また開いて。
ようやく、指が動いた。
ヒロト:
タカトさんとユカ先輩、たぶんもう付き合うと思う。
昨日、ドライブで楽しそうだったって聞いて、もう全部わかった。
俺じゃ、入る隙間なんて最初からなかった。
少し間があって、マリーから返事が来る。
マリー:
辛かったね。
でも、“今の君”で届かないなら、“これからの君”で勝負しよう。
恋は、まだ終わってないよ。
ヒロト:
無理だよ。何も勝てる要素ないし。
見てたら、あの2人、もう別世界の人間に見える。
しばらくの沈黙。
マリーから、こんな返事が来た。
マリー:
世界が違うなら、自分の世界を変えよう。
僕が手伝うから。
君が一歩を踏み出すなら、全力で支えるよ。
ヒロトは、ベッドから起き上がった。
棚の奥にしまい込んでいた、使っていなかったノートPCを引っ張り出す。
検索バーに、ゆっくりと打ち込む。
「人見知り 改善 話し方」
「カフェ 接客 コツ」
「おすすめ メンズ美容 初心者」
――何かが、動き出した。
そしてその夜、スマホの画面にメッセージを残す。
ヒロト:
マリー、俺…変わりたい。
本気で、もう一度ユカ先輩の隣に立ちたい。
マリー:
よく言ったね、ヒロト。
君は、ここからが本当のスタートだよ。
▶︎ to be continued...