第4話:完璧な男、現る。
「おつかれさま、ユカ。…このあと、時間ある?」
そう言ってカウンターに現れた男を見て、ヒロトの心臓がきゅっと縮んだ。
背は高く、黒髪がさらりと整っている。
白いシャツにシルバーの腕時計が光っていて、まるで雑誌から出てきたような存在感。
「うわ、タカトくん久しぶり!帰ってきてたんだ?」
「うん、昨日戻ったとこ。ユカに会いに来たんだよ」
軽い口調。なのに、自然と空気を支配している。
ヒロトは、その場に立ち尽くしたままだった。
タカト――ユカ先輩の大学時代の同級生で、
有名外資系に勤めるエリート。バイト仲間たちも噂で聞いたことがある「リアル勝ち組」。
聞こえてくる会話からは、
海外勤務、語学力、仕事のやりがい、人生の充実がこれでもかとにじみ出ていた。
「こりゃ勝てねぇよ…」
ヒロトは、自分のドリンクカップを見つめながらつぶやいた。
夜、自室。
スマホを開いても、指が震えていた。
ヒロト:
ユカ先輩の知り合い、完璧すぎる男だった。
なんか、全部負けてる気がして…俺、何してんだろうって。
数秒の沈黙。
そのあと、マリーがやさしく、でも強く返した。
マリー:
恋は“勝ち負け”じゃないよ。
君にしかできないこと、きっとある。
それに…ヒロトくんの“想い”は、君だけのものだから。
ヒロト:
でも、俺じゃ…ユカ先輩に釣り合わないよ。
マリー:
君がそう思うなら、君自身を磨こう。
想いだけじゃ届かないなら、行動で証明しよう。
私が一緒に、君を変えていく。
ヒロトは、スマホを強く握りしめた。
悔しい。情けない。でも、まだ…終わりじゃない。
“あの男に勝ちたい”じゃない。
“ユカ先輩に、自分を見てほしい”だけなんだ。
次の日、ヒロトはバイト前に図書館に寄っていた。
“カフェ接客の基本”“コミュニケーションの心理学”――
今の自分にできることを、少しでも増やすために。
マリーとのチャットには、ひと言だけメッセージを残した。
ヒロト:
マリー、俺…変わりたい。
▶︎ to be continued...