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第29話:まだ名前のつかない関係で《ユカ先輩視点)
あれから何度か、ヒロトくんのカフェを訪れている。
「たまたま近くに来たから」と言っているけど、正直もう自分でもわかってる。
彼に会いたくて、来ているんだ。
今日もカウンター席に座ると、ヒロトくんはいつも通りの笑顔で迎えてくれる。
「ユカ先輩、今日はアイスカフェラテにしますか?」
「……うん、お願い」
そのやりとりが、なんだか心地いい。
ふと、彼がコーヒーを淹れる横顔を見ていて思った。
(あの頃より、少しだけ大人っぽくなったな)
でもそれ以上に変わったのは、たぶん私の方。
彼の優しさを、素直にうれしいと思えるようになった。
昔の私なら、“期待させたくない”って距離を取ったかもしれない。
けど今は、その時間すら大切に思える。
「ねえ、ヒロトくん」
「はい?」
「……今度、ここの外じゃなくて、一緒に出かけてみない?」
彼は驚いたように目を見開いて、それから、すぐに優しく笑った。
「はい。よろこんで」
まだ名前のつかないこの関係。
でも、焦らずに歩いていけたらいいなと思う。
いつかまた、何かに名前をつけたくなった時に、
隣に彼がいてくれたら――それだけで、きっと十分だから。




