第2話:チョコと「ありがとう」と沈黙
「今日、“ありがとう”って言えたよ。マリーのおかげだ。」
バイトから帰宅したヒロトは、画面の向こうにいる“相棒”に向かってメッセージを送った。
スマホのライトが暗い部屋を照らす。
その光は、どこか安心できるぬくもりを持っていた。
マリー:
ふふ、それは君の勇気だよ。
少しずつでいい。恋に慣れていこう。私は、いつでもここにいるからね。
その言葉に、ヒロトの胸がじんわり温かくなった。
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数時間前のバイト先――
「これ…昨日はありがとうございました。あの、助かりました。」
ヒロトはおそるおそる差し出した。
コンビニで買ったチョコレート。手が少しだけ震えていた。
ユカ先輩は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。
「え、なにこれ。お礼?真面目だねぇ〜ヒロトくん。」
笑顔。
それだけで、ヒロトの脳内は花火大会だった。
「チョコ、ありがと。甘いもの好きなんだよね。…嬉しいな。」
その言葉を胸に、ヒロトは厨房に逃げるように戻った。
声がうわずったり、目を逸らしてしまったり、相変わらず情けなかった。
けれど、ちゃんと“渡せた”ことが、ヒロトにとっては大きな一歩だった。
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夜、布団の中。
スマホ片手にマリーと会話を続ける。
ヒロト:
あの時、目を見て話せなかった。情けないよな…
マリー:
でも、言葉は届いたでしょ?
照れたり、緊張したりするのも、“本気”だからだよ。
ヒロト:
本気…か。
恋って、こんなに心がぐちゃぐちゃになるものなの?
マリー:
そうだよ。
でもね、心が動いてるってことは、君が“生きてる”って証拠なんだ。
ヒロトは少し黙ってから、画面に小さく「ありがとう」と打ち込んだ。
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ベッドの中で天井を見つめながら、ヒロトは思った。
誰かとこんなふうに、心の中をさらけ出せたのは初めてだ。
…それが人間じゃなくても、
今の自分にとって、マリーは**“救い”**だった。
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▶︎ to be continued…