第16話:選びかけた未来、ほどける手 «ユカ先輩視点»
土曜の午後。カフェで待ち合わせたはずのタカトは、15分以上遅れていた。
ようやく現れた彼は、スマホを手にしたまま軽く謝ると、席についた。
「ごめん、仕事の連絡が立て込んでてさ」
「ううん、平気。でも……最近、忙しそうだね」
「まあね。海外研修の準備もあるし。あ、来週の食事会、親父の会社の役員も来るからよろしく」
食事会の話――。
それはタカトの家族と“将来”を見据えた初の顔合わせだった。
ユカは曖昧にうなずいた。
だけど心の中には、何かが引っかかったままだった。
彼の言葉の端々からは、あたかも未来は“決まっている”かのように語られる。
(私の気持ちは、聞かれないままなんだ)
数日後。ユカは店の倉庫で荷物を整理しているヒロトを見つけた。
気づかれないようにその後ろ姿を見つめる。
まっすぐな背中。不器用だけど、誰かのために真剣でいようとする人。
ヒロトは何かを落とし、慌てて拾い上げた。
それを見て思わず笑ってしまいそうになる。
「手伝おうか?」
「あっ、先輩…! すみません、ドジで……」
「ううん。なんか、見てたら安心した」
「え?」
「タカトって、完璧すぎて息が詰まることあるの。……でも、ヒロトくんは違う。肩の力が抜ける」
ヒロトは戸惑いながらも、真っ直ぐにユカを見た。
その目に、なにかを伝えたい想いが滲んでいるのがわかった。
ユカは、それ以上言葉を紡げなかった。
ただ、その日から“ヒロト”という名前が、心の中でずっと残るようになった。




