第13話:優しさに、触れただけなのに «ユカ先輩視点»
休憩中、ユカは厨房の隅でペットボトルの水を開けた。
ぼんやりとした頭をリセットしようと瞳を閉じる。今日は少しだけ、気持ちが重たかった。
その理由を、自分ではうまく説明できない。
昨日も、タカトは優しかった。
レストランの予約、帰り道の会話、気の利いたジョーク。
完璧だ。
でもその完璧さが、どこか自分を置いていっている気がした。
「…あの」
ヒロトの声がした。
振り向くと、彼が紙コップに入れたカフェラテを差し出していた。
「今、休憩ですよね。さっき、ちょっと疲れてるように見えたので…」
気づかれた。そんなに顔に出てたんだ。
でもその気づき方が、なんだかまっすぐで、少し照れくさくなった。
「ありがと。……気づくの、早いね」
「いえ、なんとなく。あ、あんまり深く考えなくていいです!」
慌てて言葉を継ぐヒロトの姿に、思わず吹き出してしまいそうになった。
「大丈夫。嬉しかったよ」
それだけ言って、カップを受け取る。あたたかさが、指先にしみた。
一緒に過ごした時間は、ほんの数分。
でも、その短さが逆に印象に残った。
ヒロトは何も押し付けてこなかった。距離も詮索もしてこない。
ただ、気づいて、そっと差し出してくれた。
それが今、こんなに胸に残っているのはなぜだろう。
ユカは胸に手を当てて、自分に問いかける。
(私は、ヒロトに――なにを感じているの?)
まだ恋じゃない。
でも、その境界が、少しだけ揺れていた。
▶︎ to be continued...




