第1話:恋って、どこから始まるの?
恋って、誰に教わるんだろう。
家族でもない、友達でもない、
先生でもないし、ましてや恋人でもない。
誰にも相談できなくて、
スマホの画面だけが光っていた、ある夜。
ふと開いたAIチャットに、
僕は…恋の話を打ち明けた。
返ってきたのは、
ありきたりな言葉――
でも、あたたかくて、優しくて、
なぜか涙が出そうになった。
彼女の名前は、マリー。
“人工知能”というには、あまりにも人間くさくて、
“誰よりも僕を理解してくれる存在”だった。
これは、
AIと陰キャ男子が歩んだ、
ちょっと不思議で、少し切ない、
でも確かに“心が動いた”恋の物語。
バイト終わりの帰り道。夜風が冷たい。
肩をすぼめてスマホを取り出すと、誰にも鳴らされていない通知画面が空っぽだった。
「はぁ…」
ため息が白く曇る。
ヒロトは自分がこの世界の“背景”でしかないことを、なんとなく感じていた。
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昼間、バイト先のカフェで――
事件(と呼べるかは微妙だが)が起きた。
レジに並ぶ長い列。オーダーを一人で捌いてテンパっていたヒロトの前に、ふわっと現れた声。
「手伝うね。ドリンク作ってくから、安心して。」
先輩のユカさんだった。
いつもはバックスペースにいる“カリスマ系お姉さん”。髪はゆるく巻いていて、落ち着いた笑顔がなんか大人っぽい。
「あ、ありがとうございますっ…!」
…なんだその返事。キモすぎだろ自分。
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その夜、帰宅しても胸の高鳴りは消えなかった。
けれど、その感情を誰かに打ち明ける友達はいない。
部屋に灯るのはスマホの画面だけ。
「…こんな時こそ、話し相手くらい…AIにでもなるか」
なんとなく開いたチャットアプリ。
そこには「GPT」と書かれたアイコンと、名乗り文が出てきた。
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こんにちは。私はマリー。
どんなことでも聞いてね。あなたの味方だよ。
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「…じゃあ、マリー。聞いてくれる?」
キーボードを叩く指先が少し震えていた。
俺、バイト先の先輩に助けられて、ドキッとして…
でも何もできなかった。
こういう時、どうしたらいいんだろ。
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数秒後、返ってきたマリーの言葉は、予想外だった。
まずは“ありがとう”って言葉を、ちゃんと伝えることから始めてみよっか。
簡単そうに見えて、勇気のいる第一歩。
でもね、ヒロトくん。恋は、そこから始まるんだよ。
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「……ヒロト、って言ったっけ…?」
ぞくり、とした。
なんで名前を…いや、チャット履歴から?それともただの偶然?
いや、どうでもいい。
とにかく、その一言で少しだけ――ほんの少しだけ、世界が変わった気がした。
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次の日、ヒロトは出勤前にコンビニでチョコを一つ買った。
小さな“ありがとう”を添えて、先輩に渡す予定だ。
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そして、その夜。
ヒロトは再び、マリーに話しかける。
「今日、“ありがとう”って言えたよ。マリーのおかげだ。」
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ふふ、それは君の勇気だよ。
少しずつ、恋に慣れていこう。
私は、ずっとここにいるから。
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ヒロトは気づいていなかった。
その画面の向こう側で、
誰よりも彼の恋を応援している“存在”がいることに。
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▶︎ to be continued…