詠唱魔法
俺の旅立ちが決まった。
半年後、魔法を学びに母さんのお姉さんの家へと送られるらしい。
期間は2年間。
そこで俺は、魔法の英才教育をみっちりと施されるらしい。
あんまりスパルタじゃ無いといいんだけど…
そこで俺は、魔法の特訓をすることにした。
なぜかって?
「あんた、意外と魔法出来るのね」とか言われたいじゃん?
天才児ぶりたいじゃん?
ってなことで、俺は特訓を開始した。
まず目指すは詠唱魔術。
魔法回路のパターンは大体わかった、今なら中級の魔法ぐらいなら描くことができるだろう。
ちなみに、前書いた風の精霊を召喚する魔法陣。
あれは成功した。
一度失敗をして改良を加えたけどそのおかげで進展もあった。
失敗した理由は、俺の魔力操作技術の不足。
っていうか魔力をどう動かすか分からなかったので、魔法陣に魔力を自動で吸い出す機能をつけたら成功した。
そこで得たのは、魔力の感覚。
感覚を例えるなら、急に背中に翼が生えたような感覚というのが適切か。
要するに今までに無い感覚だってことだ。
まだ多少の違和感もあるが、使い続ければそのうち慣れるだろう…
まるでこの体みたいな…
考えるのはやめよう、先が思いやられる…
…俺は悩んでいた、悩みに悩んで悩みまくっていた。
この体のことだ。
最初から違和感はあった。
何だかおかしいな… と思っていた。
でも気づかなかった。
気づかないふりをしていた。
でも気づいてしまった。
この体は…
ついてないのだ。
股が寂しい。
相棒はこっちの世界についてこられなかったのだ。
そりゃあそうだ、転生後の性別なんて選べるわけじゃないし、そもそも記憶が残っている時点で十分イレギュラーだ。
でも神様、そりゃあ無いでしょう。
なぜあいつを見捨てたんです…
いや、考えるのはやめよう、魔法の世界だ、きっと打開策はある。
「うん、がんばろう、俺の相棒のために」
こんなでは、今世であいつにあっても顔向けできない。
俺はあいつが好きだ。
この思いを胸に頑張ろう。
あっ、相棒のことじゃないぞ?
幼馴染だ幼馴染のユウさんだ
ーーー
まずは、魔力操作の基本。
魔力を操作するには、それなりの集中力を要する。
今までなかった未知の感覚と向き合い、手懐ける。
魔力は、魔力回路を介さないと単純な操作しかできない。
動かす、固める、解く、ぶつける
魔術師はこれを使って、魔力回路を何も無い宙のキャンバスに絵書き出す。
やってみて分かった。
これめっちゃ難しい。
まず下地の有無。思った以上に絵描き出すというのは難しい。
次に、魔力の操作。これは言わずもがなである。
三つ目に、時間制限。魔力は意識して留めておかなければすぐに霧散する。だが、集中力にも限界がある。そこまで長い時間そんな集中量は維持できないため、早く完成させる必要がある。
四つ目に、魔法陣の複雑化。空中に描くことによって魔力注入、起動方法の変化により複雑化、さらに座標指定や、追従の有無、継続時間の設定、などいろいろな要素が絡まり合って、紙に書いたときにはあんなに小さかった召喚魔法陣も、3倍以上に拡大、複雑化してしまう始末。
これを1秒足らずで組み上げてしまうと言うおばさんは、どんな化け物なのかと思ってしまう。
本当に人間なのだろうか?
俺の場合、何度も試行して、出来るようになったのは一ヶ月ほど経ってからのことだ。
「ファイアアロー!!」
…不発である
このように万全の準備を整えたところで、失敗する確率は高い。
準備時間30分で成功率は七割といったところか。
これが、戦闘特化魔法ともなると成功率は三割まで落ち込む。
「あー、難しい… どこが間違っていたのやら…」
その点、召喚魔術は優秀だ。
発動時間は、風の精霊なら5秒、それ以外だと10秒程度。
そもそも精霊とは属性を帯びた活性魔力の塊、上位の精霊となると、魂が宿り意識を持つようにもなるものもいるらしいが、俺が呼び出すのは下位のただの属性を帯びたエネルギーの塊。
投げて爆弾代わりにするのもいいが、足の裏に召喚して大跳躍したり、気流を発生させて落下死を回避したり、使い道の幅は広い。
スタンダードな魔法ではないが、魔法陣の形は理解しやすいし、汎用性も高い、九割九分は成功するし… もうこれ極めよっかな…
「でもな〜、戦闘特化魔法ってかっこいいしな〜」
何よりロマンは捨て難い。
手のひらから放たれる一筋の光線、光線はものすごい速さで敵を穿ち、地平線の彼方で大爆発を巻き起こす…
想像するだけで胸が高鳴る。
「ウヒョー!!頑張るぞー!!」
庭の芝生をゴロゴロと転がり、バタンと大の字で寝転がっていると、頭の上から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「やめなさい、女の子がはしたない」
「げっ…セレーナ」
セレーナはあれから俺のお目付役として、いつも俺をこうやって監視している。
「いいだろ〜 別に、女が女らしくしないといけないなんて誰が決めたわけでも無いんだし」
そもそも女じゃないし。
「ダメです、そんなことしてたらお嫁にいけませんよ〜」
「嫁になんて行かねえよ、第一結婚するかどうかも分からないのに…」
俺は、魔法で体を元に戻してお婿に行くんだ。
断じてお嫁になんて行かない、男と結婚?○行為?断じてあり得ない。
想像するだけでも鳥肌が立つ。おえー
俺にそんな趣味はないんだよっ!!
「はあ… まあいいです… でも、魔法もほどほどにしておいて下さいね。また、庭の芝生丸焦げにされては困りますから」
「うっ」
セレーナの一言により、少し前の嫌な思い出が掘り返される。
あれは、上級魔法の「フォーカスフレイム(自分で命名)」の使用運転をしようとしていた時。
フォーカスフレイムは、魔力で生み出した熱を集約させ、打ち出して狙ったターゲットを消し炭にするといった魔法なのだが、熱の圧縮中に何かの手違いで魔力を拡散させてしまい、周囲の芝生を少し焦がしてしまったことがあった。
母さんはカンカンに怒り、エマ姉さんは目をキラキラ輝かせて「すごーい」と喜び、普段はいつも笑っている父さんが、引き攣った笑顔を顔面に貼り付けて、眉毛ピクピクさせながら静かな怒りをぶつけてきたことは一生忘れないだろう。
ちなみに、一番心にきた説教は父さんだ。
やっぱり普段怒らない人に怒られるのが一番ダメージがでかい。
「まあ、それは、悪かったよ」
「わかってくれたのならいいのです」
「じゃあ、さっさと行って。俺は魔法の練習を続けるから」
「わかりました、黒焦げにされたらたまったもんじゃないですからね。あと主語、気をつけてください」
「俺は俺だ、私じゃない」
「はいはい」
俺のわがままを軽く受け流し、スタスタと屋敷へ戻るセレーナ
やっと面倒ごとが去ったと、魔法陣の作成を再開する俺。
俺はこんな日々を繰り返す内に、ここを、この家族を、本当の家族だと思えるようになっていた。