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転生したらしい

 目覚めると俺は大声で泣いていた。

 悲しいとかではなく、ただただ苦しかったのである。


「************!!!」


 誰かの声が聞こえた気がするが、その声は自身のサイレンのような大音量の号泣によってたちまちかき消されてしまう。

 苦しい、痛い、まるで全身の皮膚が焼けたように熱く、ヒリヒリと痛む。

 何とか状況を把握しようと目を開けようと試みるも、それすらかなわない。

 肺はつい先ほどまで溺れていたかのように苦しく、肺は正常な呼吸を拒み、全力で泣くことによって何とか息をしているような感じだ。

 

 そんな状況がどれだけ続いただろうか。

 しばらくし、呼吸もできるようになり、泣き疲れた俺は強烈な睡魔に襲われる。

 耳元で誰かがささやく。


「****」


 何を言っているのかはさっぱりであるが、それは確かに慈愛に満ちた優しい

 

 まるで母のような声であった。



ーーーーー



 それから一カ月の月日が流れた。


 最初は何が何だか訳が分からなかったがようやく状況を把握した。

 俺は生まれ変わったらしい。


 まるでおとぎ話や宗教的な話ではあるが、実際の所そうだとしか言いようがない状況なので素直に受け入れることにした。

 小さい手、小さい足、思うように動かない体。

 首が座っていないので、頭すら動かすことができないため、抱きかかえられて自分の体が視界に入るまで、全身強打、粉砕骨折で全身の神経がマヒして意識だけがある状態なのではないか? などと勘違いしていたが、生まれ変わって数週間でやっとその事実に気づくことができた。

 どうして前世の記憶が残っているのか?

 これは正直俺の知りえることではない。

 神様の手違い、はたまた世界のバグ、魂の存在といったところかと想像もしたが、実際のところの真偽は不明である。

 これは考えてもしょうがないと早々に考えるのをやめた訳だが、もう一つ気になることがある。


 この家、なんだが様子が変なのだ。


 決して白い仮面をかぶった某ユーチューバーのセリフのパロとかではない。


 まず、建築様式が明らかに現代の者ではない。

 なんというか、例えるならばファンタジー作品などでよく見る中世ヨーロッパ風とでもいおうか?

 家電らしきものも見当たらないし、照明に至ってはオイルランプときた。

 まずもって日本ではないと断言していいだろう。

 

 それに言語も違う、両親の顔立ちも西洋風の整った顔立ちで、はっきり言って美男美女である。

 服もなんだか民族衣装っぽいが、俺は好きだ。


 だが変ではないか?


 現代において、技術の発展したヨーロッパの国々の中で、このような生活を営む家があるだろうか?

 まああるかもしれないが、そうなると貧乏なのかと考えるのが普通だが、家の内装は貧相というよりもお洒落って感じだし、この一カ月でこの家には少なくとも二名以上のメイドっぽい人がいるのを確認しているのでまずもってその可能性は低いだろう。


 もしかして… と、現実離れした半分妄想のような可能性が何度も脳裏をよぎったが、その考えが確信に至るのは、もう少し後の事であった。



ーーーーー



 生まれ変わり半年が経った。

 やっと体を少しは動かせるようになったが、頑張って体を起こすくらいが精いっぱいだ。


 この半年で、一つ大きな進展があった。

 言葉をなんとなく理解できるようになったのだ。

 自分でもびっくりだったが、毎日家族やメイドさんの話を聞いていると、いつの間にか理解できるようになっていた。

 やはり、脳が若いからだろうか?

 それとも、留学のように、その言語がスタンダードに使われる場に身を置くことで言語の習得が早くなるあれだろうか?

 どちらにしろ構わないが、やはり言葉がわかるというのはとても大きな進展といえるだろう。

 

「だーだー…うー」


 まあしゃべれるわけではないのだが。


 何とかしゃべることができないかと発声練習をしていると、扉の向こうからドタドタといった騒がしい足音が近づいてくる。

 その足音が扉の前まで迫ってきたと思うと、勢いよく扉が開け放たれ、烈火のような赤髪の少女が部屋に飛び込んできた。

 姉である。


「アル!!呼んだ!?呼んだわよね!?」


「だー…あ…」


 呼んでないよ!?と言いたいとことではあるが、生憎まだしゃべることはできない。

 それに、姉ーー「エマ」は、弟である俺ーー「アルマ」に呼ばれたと思って目をキラキラと輝かせている。

 ここでそっぽ向いて、姉を追い払ってしまうのもかわいそうだし、俺は少々ブラコン味の強い姉に、少しの間付き合ってやることにした。


 姉の年齢は5歳らしい。

 つい先日、姉は得意げに「わたし今日5歳になったの!!もうおとなのおねえさんなのよ!!」なんて言って嬉しそうにはしゃいでいたので、間違いないだろう。

 姉は俺が声を出せば、すぐに部屋に飛び込んできて俺にちょっかいかけてくる。

 本人は、俺の面倒を見ているつもりなのだろうが少々過敏すぎて面倒くさいというのが正直な感想だった。

 だがいいところもある。

 俺が漏らせばすぐさま駆けつけて、パンツとシーツを替えてくれるし、何よりよく絵本を読んでくれるので、言葉の理解がとても捗る。

 

 少しめんどくさいと思うこともあるが、いい姉を持ったものだと思っておこう。



ーーーーー



 それから少し経った頃、俺はハイハイができるようになった。

 俺は久しぶりに、自由に移動できることに感動した。

 あれはいつだっただろうか? そう、ステージ選択型か横スクロールのゲームしか知らなかった俺が、初めて母親に買ってもらったゲーム機でオープンワールドのゲームを触った時の感動に匹敵する。

 いやそれ以上だな。

 体が自由に動くことにこれ以上感謝したことは人生で一度もないだろう。

 

 まあそれはいい。

 今日は、まだ行ったことのない部屋の散策でもしてみようか。


 この家にはたくさんの部屋がある。

 ここ数週間探索を続けているが、この家に一体いくつの部屋があるのかはまだ把握しきれていない。

 はっきり言ってこの家はでかい、チョーでかい。

 俺の体が小さいからというのもあるだろうが、それ以上にこの家はでかかった。

 屋敷、といっても差し支えないレベルだ。


「あら、アルマ?部屋を抜け出してきちゃったの?メッ!よメッ!」


 探索が進んでいないのにはいくつか理由があるが、これがその一つ、「メイドさんの妨害」である。

 この屋敷には、今確認できているだけで5人のメイドさんがいる。

 実際の所どうかは分からないが、白黒の服を着て、いかにもメイドって感じであるから、今のところそう断定している。

 

 メイドさんにつかまると、大抵部屋に戻されるか、母親の所へ連れていかれる。

 俺を抱えて向かっている方向をみるあたり、今回の場合は後者だろう。


「奥様、旦那様、またです」


「またですか… この子ったら、あまり泣かないし、目を離しているとすぐに部屋から逃げ出すしで少し心配なのよね」


「ははっ、まあ元気なのはいいことじゃないか。将来は冒険者にでもなるのかもな」


「もう、ルイスったらそんな楽観的な…」


「まあまあ、アルもやっちまったって顔してるしさ」


「生まれて間もない子がそんなこと考えるもんですか」


「っはは」


「ふふふ」


 うん、夫婦の仲が良さそうなのはいいことだ。

 ただ、あんまり親に迷惑をかけるわけにもいかないので、屋敷の探索はもうしばらく後になりそうだ。

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