62(最終話・エピローグ)
はらはらと落ちてくるレンガの塵をぼんやりと見上げていると、凄まじいスピードで何かが落ちてきた。
―イシュヴァだ。
イシュヴァはそのまま大きな水飛沫をあげて原初の海へと落ちた。
受け身も取れずに着水し、思い切り水を吸い込んだらしい。ウルヴァルドが駆け寄ると、水面に出てきたイシュヴァは立つこともできず四つん這いで大きく咳き込んでいた。
「イシュヴァ、大丈夫か?」
ウルヴァルドは何が起きたのか全く分からず混乱もしていたが、まずはイシュヴァだ、と横に跪いて背中に手を当ててやった。咳がようやく治まっても、イシュヴァはゼーゼーと肩で息をしている。そして側にいるウルヴァルドの顔を見ると、みるみる涙が溢れ大粒の涙がこぼれ始めた。
「ごめんなさい……! わ、私、間に合わなかった……!!」
落ち着いたイシュヴァから話を聞いたウルヴァルドは、内容を咀嚼するように考え込むと、
「……そうか、そうだったのか。」
とだけ、ポツリと呟いた。
「私、崩壊を食い止めるためにここを出たわ。でも、結局原因が分かった時には遅かった。何もできなかった。ごめんなさい、あなたの塔を守るどころか切り裂いてさえしてしまって―。」
そこから先は言葉が出なかった。
そんなイシュヴァに、ウルヴァルドは優しく微笑んだ。
「いいんだ、君が行動しなければ塔は完全に崩れていただろう。幾ばくかは形を残している。君は立派に世界を守ったんだ。」
「でも―。」
「それに、僕は君が戻ってきてくれたことが何よりも嬉しいんだ。どんな神が扉の向こうに行ってしまっても、僕はそれを受け入れてきた。でも、君がいなくなってからの時間はあまりにも空虚だった。塔はまた作り直せば良い。そしてその時は君と一緒がいい。僕と一緒に、新たな世界を作ってくれないか。」
「……私は崩壊の女神よ。またあなたの作る世界を壊してしまうかもしれないわ。」
「言っただろう、崩壊は再生の始まりだと。僕と君がいれば、きっと世界は何度だってやり直せるさ。」
ウルヴァルドは「次に作る世界は崩壊しない」とは言わなかった。「崩壊しても良いのだ」と言ったのだ。それはすなわち、イシュヴァの性質を丸ごと受け入れたということに他ならない。
イシュヴァはそれを理解し、ウルヴァルドの告白を泣きながら笑顔で受け入れた。
崩壊を免れた神々領域に近い時代の扉からは、その時代に留まって過ごしていた神々が異変に気付いて顔を出し始めた。長い間静寂に包まれていた神々の領域は、本当に久しぶりに、多くの神々の話し声で満ちた。
彼らはみな、ウルヴァルドとイシュヴァを祝福したのだった。
◆
【エピローグ】
どこまでも続く花畑。
夢見心地の空の色。
その中に、ふわふわの女の子がただ一人。
水鏡で水晶と塔の世界を見ています。
そうしてぽつり、ひとりごと。
「ああ、この世界は、嫌だな……。」
これまで読んでいただきありがとうございました。
一章はこれで完結です。
一章の内容は以降の話と直接は関係ないため、これで一度完結とさせていただきます。
二章以降については現在書き溜めておりますが、多忙により相当の時間がかかると思います。
お手数ですが、続きを待っていただける方はブックマーク等をお願いします。
■二章:「タマカタの病巣」あらすじ
家庭環境が悪く、学校にもバイト先にも居場所がない少年・和樹は、夜の病院の屋上から飛び降りようとしていた。そのとき、一人の少女が声をかけた。
「私ももうすぐ死ぬの。だから、死んだ後にさみしくないように死ぬ前に友達になってほしい」
その数日前、少女は悪魔の事務所を訪れていた。
悪魔に死後の魂を渡す代わりに、願いを一つ叶える「タマカタ」。
生涯一度きりの少女の願いは「死ぬ前に恋をしてみたい」だった。




