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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
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昔々、まだ世界に魔法が溢れ、神と人が近かったころ。


箱の女神が人間の青年と恋に落ち、子を儲けて幸せな家族を築きました。けれども神と人の寿命は違うのです。女神にとってはほんの少しの時間を共に過ごしただけで、伴侶の男はこの世を去りました。


残された箱の女神は、男との子供やその子孫を、男の分まで愛し慈しみました。女神の愛の庇護の下、子孫たちは栄え、やがて一つの町を作るまでになりました。その頃には愛した男の面影を残す者もすっかりいなくなっていましたが、それでも子孫がいるその町を女神は愛したのです。


やがて時が過ぎ、世界から魔力がなくなり始めました。多くの人間は魔法を失いました。けれども女神の血を受け継いだ子孫たちは魔法を使い続けることができたのです。女神の子孫たちは便利なその力を使って町をさらに発展させました。

ほかの町の人たちはその町を妬み恐れ、さまざまな方法で攻撃しました。始めのころは魔法で戦いを有利に進めていましたが、数の力には勝てません。



(500年前の世界で聞いた話と同じね。確かこのあと、迫害された子孫らを守るために箱の女神が自身を建物に変え、子孫たちをその中に住まわせて守ったという話だったはずだわ。)

老職員の話を聞きながら、ティアは同じ建物の中で聞いた話を思い出していた。そんなティアの様子を気にもせず、老職員は話を続けた。



そんなとき、町の者がひらめきました。

そうだ、もっと魔法を使える人数を増やせばいい。

彼らは箱の女神にお願いしに行きました。どうか、多くの子を産んでくれないか、と。より強い魔法を使える人間を増やすしかこの町を守り切る方法はないのだと。



(――え?)

以前聞いたものから突然大きく内容が変わり、そして内容にティアは動揺した。

やはり老職員はそんなティアを気に留めることもなく、話を続けていく。



箱の女神は悩みました。愛するあの男以外の子など産みたくはない。けれどそうでなければ愛するあの男の子供たちが築いてきたこの町を守り切れない。

女神は町の者の提案を受け入れました。新たな自分の子を慈しむ間もないほど、次々に子を産みました。そのおかげで町は守られました。


しかしより強い力は、より強い危険を招くのです。どんなに子を産んで町を守っても、新たな敵がやってくるのです。


女神は疲れていきました。愛する男以外と交わる苦痛。兵器として、あるいは自分同様に魔力を持つ子を産むために使われていく我が子たち。それでも愛するあの男の子孫と、彼らが作ったこの町を守るにはそうするしかないのです。苦しい気持ちを押し殺して、女神は子を産み続けました。



我慢して我慢して我慢して、女神はついに耐えきれなくなりました。それでも愛した男の子孫のことは諦められなくて、彼らを守るための建物に自分の体を変えました。

町の人たちは驚きましたが、箱の女神が変化した建物は安全だったので、喜んでこの建物に移り住みました。こうして町の人たちは『箱の民』となりました。


『箱』の中こそ安全でしたが、食べ物もなければ水もなく、閉じ籠もって生きる訳にはいきません。けれども外には敵ばかりです。


『箱の民』は戦いを続けざるを得ませんでした。長く続く戦いに疲れ、『箱の民』は安寧を求めるようになりました。自分たちを攻撃するのは魔力を持たない人間たち。魔力を持つ人間だけの国があれば、きっと安心して暮らすことができるはず―。


これが『箱の民』の願いとなりました。


願いを叶えるためにも、もっと魔力をもつ人間が必要です。だから箱の女神と同じように、人間を愛した神々に「お願い」して、子供をたくさん儲けてもらうことにしました。

神が愛した者を人質にとって。命だったり、人間らしさだったり、健やかな体だったり。


愛した者を守るため、神々は『箱の民』との子を作り続けました。そして箱の女神と同じように耐えきれずに壊れていったのです。

けれど壊れた神は、それはそれで「使えた」のでした。


豊穣の神は鍬になりました。この鍬で土を耕せば溢れるほどの作物ができました。

戦いの神は剣になりました。この剣で戦うと面白いほどに敵が倒れていきました。

糸紡ぎの神は糸車になりました。この糸車で紡いだ糸はとても丈夫で美しいものでした。

水の神は水瓶になりました。いつでも綺麗な水が手に入りました。



神はもういなくなりましたが、これなら『箱』の中に閉じ籠もっていても平気です。自分たちはここで安全に暮らしながら、魔力を持たない奴らを消してしまおう。そしたら世界は自分たちのものになる。


魔力を持たない連中は随分と技術を発展させた。陸を駆け海を進み空を飛んだ。

許せない。許せない。

魔力を持たないあいつらがあんな便利な生活をしていることが許せない。

あんな文明は壊してしまおう。自分たちのものにしてしまおう。


都合の良いことに、あいつらはいつだって小競り合いを続けてる。

だからそれをちょっと煽ってやれば、ほら、どんどん戦いは広がっていく。

なにも自分たちが手を下すことなんてない。あいつらは勝手に殺し合って自滅しているだけなのだから。

読んでいただきありがとうございます。

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