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葬儀は雨の中しめやかに行われた。
気丈なリズも流石に憔悴はしているものの、あまりに突然のことに涙が出る余裕もないまま喪主として対応していた。アニスもリズを手伝い、妊婦である上に、挨拶や仕切りに手を取られがちなリズの代わりにとくるくると動き回っていた。葬儀にはマルクは勿論のこと、同じ部隊の仲間たちやかつての同僚など多くの保安調査隊員たちが参列した。ティアも中枢区の人間を監視として一人付けることを条件として参列が許された。
「隊長は僕のくだらない悩みもなんだかんだ言いながら聞いてくれてー」
「ソールがいると部下が育つと評判だったんですがー」
「一度装備品を忘れたらしこたま怒られたことがあるんですよ、安全第一の姿勢はその時に叩き込まれましたー」
次々にリズに挨拶にくる隊員たちの話は、ソールの面倒見の良さを語るものばかりだった。その中には、花祭りで安産祈願と言って花を贈ってくれた者も多くいた。
「隊長の隊は働きやすいって羨ましがられたもんです。それが、こんなことに……。最近、隊長はなにか様子が変だったんです。みんな心配してたんですが、なんでもないってなんにも話してくれなくて……。最後の任務でも、なんだか急にぼーっとして、それであの獣に……って、あ、すみません……。」
「いいや、話してくれてありがとね……。職場でなにかあったんじゃなかったのかい? うちじゃ特に心当たりもないから、仕事で悩んでるんじゃないかと思ってたんだけど……。」
「ご自宅でも様子がおかしかったんですね。それって、この一月くらいですか? 確かに仕事は忙しくはなりましたけど、あんなに思い詰めるほどのことは、ここ一月じゃ多分なかったと思いますよ。」
「それじゃ一体……。嫁だってのに、アタシには言えなかったのかね……。」
リズと同僚の隊員の会話は、リズのすぐ後ろにいたアニスにも聞こえていた。
この一月。
二人にはない心当たりが、アニスにだけはあった。
あの夜があったせいでソールは命を落とした。
アニスは唇を固く引き結んで震えながら大粒の涙を流した。葬儀という場で、その涙の意味を理解するものは誰一人としていなかった。
ソールの棺は職員の手によって、街の奥、中枢区の奥のさらに奥にある、森と街の境の静かな墓地に運ばれていった。ここは手入れされた木々や草花が生い茂る緑地で、バステクトの住人にとっては、大切な人がこのような美しい場所で眠っているのだ、という慰めの地でもある。
緑地の中には小さくとも装飾の凝った、祈りのための白い建物があり、ひんやりとした温度が保たれているその中で2~3日安置されたのち、故人は葬られる。遺族はその間、静かに故人との最後のひとときを過ごすのである。
今日はその最後の日だった。リズはソールの手を取って大きくなった腹を撫でさせると、そっと棺の中に戻した。そして花祭りで隊員たちからもらった安産祈願の花束の半分をその手に握らせた。
「これ、アタシとアンタに、って渡されたからね。半分はアンタの分だよ。ちゃんと元気な子を産めるよう、見守っといておくれね。」
それがソールとの最後だった。リズの目の前で棺は閉じられた。埋葬は人手や時間がかかるため職員によって後日行われ、それが終わると遺族に連絡がくるようになっている。
リズは職員たちによろしく、と頭を下げると、祈りの建物を後にした。中枢区を通りすぎ、列車に乗って、駅からは歩いて帰る。トボトボ、ぼんやりとしていて、気が付いたら家だった。帰り道のことは覚えていない。
「ただいま。」
誰もおかえりを返してくれない空間に声を投げかける。今までだって、ソールが家を空けていれば、帰宅時に誰もいないことなんていくらでもあった。なのにどうして、今日はこんなにもがらんどうなんだろう。なんだか動く気が失せ、近くにあった椅子に座って、ただぼんやりと虚空を見つめた。
は、と顔を上げると、窓に差し込む光が随分と長くなっており、日が傾き始めていることに気が付いた。昼食を食べていないことに思い当たり、食欲は湧かなかったが腹の子のことを考えると何も食べないのも気が引けた。こんな時間なのでとりあえず軽く済ませ、夜はしっかりと食べよう。まずは何を食べようか、と、ようやくのそのそと動き始めた。
動き始めはしたものの調子が戻るはずもなく、軽食を用意し、味も大してしないまま完食、椅子に座ってぼーっとしているといつの間にか夕飯時になっていた。
食器の片付けもしていない自分にため息をはき、適当に野菜や肉を鍋に入れて煮ただけの夕食を作る。別に美味しくもなんともないが、少なくとも栄養はあるだろう。なんとか口に突っ込み、残った分は明日に持ち越し。明日も気力があるとは思えなかった。そうしてまたぼーっとしていると、あっという間に夜になった。
もう今日はなんにもする気にもなれないし、かと言って無為に一日を過ごしたことにも嫌気がさしてきた。
「……もう、今日は寝ちまおう……。」
自分の独り言がやたら大きく聞こえる。そのことに気が付かないフリをして、リズは早々に横になった。
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