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数日後。
ラ・カンテの定休日、昼食後にアニスは一人街へと出かけた。特に何か目的があったわけではないが、ブラブラと買い物を楽しんだり、雑貨屋を覗いたり、気になったお菓子を買ったりと、麗らかな日差しが降り注ぎ穏やかな風が吹く気持ちの良い休日を満喫していた。大通り沿いの川辺に置かれたベンチに座る人たちも同じようにこの恵まれた天気を楽しんでいるようで、近くで買った軽食を片手におしゃべりに興じていたり、本を読んでいたりと、各々の時間をゆったりと過ごしていた。
ちらちらと葉の隙間から日が射し込む木陰を選んで大通り沿いを歩いていると、花屋の前で真剣な顔をして悩んでいるマルクを見つけた。もとから良かったアニスの気分は思いがけない想い人の登場でさらに浮上し、歩調を早めてマルクに近づき、声をかけた。
「こんにちは、マルク。花屋にいるなんて珍しいね。どうしたの?」
「おっ、おおう!? ああ、アニスか。」
あまりに真剣に悩んでいたからか、いきなり話しかけられ驚きに跳ね上がったマルクだが、声の主がアニスであることに気が付くとすっと落ち着きを取り戻した。
「ああ、ティアに買おうと思ってさ。」
「ティアに? あ、お見舞い? まだ部屋に謹慎中だもんね。」
「あー、お見舞いか、そうとも言えるかもしれないけど、そういうんじゃなくってさ……。」
マルクは言葉を探して、後頭部をバリバリと搔きながらうーん、とうなった後、ぱっと顔を上げた。
「上手い言い方が思いつかないから単刀直入に言うけどさ、俺、ティアが好きなんだよ。だから告白しようと思うんだ。ティア、花祭りで花を持ち帰ってたろ? てことは花は嫌いじゃないんだろう。だから、告白するとき花束を渡そうかと思ってさ。」
ーヒュッ、と、のどから音が出るのを抑えるのに精いっぱいだった。
好きな人から直接突きつけられた片思いのピリオドに、カラフルだった世界が突然灰色になったように感じる。でも、どこかアニスは冷静でもあった。
―うん、知ってた。
だって、いつもと違う服を着たティアをあんなに見つめて、ティアのために牛の勉強までして。
私の料理は何度食べたって「うまい」以外の言葉なんか出てこなかったのに。
私に興味がないって、気づきたくなかったけど、気づいてた。だって私は、マルクを見てたから。
ああ、それでも。
好きな人が自分以外の誰かを好きだって、直接言われるのは、ちょっと、辛いなあ。
「そ、そうなんだ。……でも、ティアは故郷に大切な人がいるって言ってたよ。だから……。」
「えっ。そうか……まあ、そういうこともあるよな。でもやっぱり俺は告白してくるよ。」
「どうして? ティアには大切な人がいるのに……!」
「俺はティアに好きな人がいるからって諦めたくないんだ。今近くにいるのはそいつじゃなくて俺なんだから、いつかこっちを向いてくれるかもしれないだろ。」
―今度こそ、目の前が真っ暗になった気がした。
どうやってマルクと分れたのかは覚えてない。
どうにか泣かないように、走ると目立ってしまうから大股で早歩きで、顔を見られないように下を向いて、ラ・カンテに向かった。
泣きそうになるのをこらえて時々息を止めながら早歩きをしたから、店に着いたころにはすっかり息が上がって、髪は乱れてしまった。
ああ、店の扉を見たら涙が堪え切れない。
ぐちゃぐちゃの顔で「Close」の札がかかっている扉を勢いよく開けた。
「リズ……! リズ、わ、私……‼」
「すまんね、今日は休......アニス⁉ どうした?」
定休日の店は薄暗く、奥の席に一人まったり過ごしていたソールが座っていた。
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