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外側を小さく見せているのか、内側を拡張しているのか、建物の中は不自然なほど外観と内観の大きさが異なっていた。魔法で何か施していることは明白だ。
入口から入った正面に大きな階段があり、踊り場で左右に分かれて上階へと続いている。踊り場こそないものの階下へ続く階段も同様に左右にそれぞれに造られている。イシュヴァの位置からはあまり良く分からないものの、ホールからは左右対称に廊下やそれに沿って部屋が配置されているようだ。構造としては宮殿に近く、装飾もそれなりに壮麗だ。だが、それに反してのっぺりした印象を受ける。まるで、絵を描いた紙を組み立てた箱のような―。
「おや、これは……。いやはや、お待たせいたしました。」
入ったきりキョロキョロと中を観察していたイシュヴァの下に、小太りでたれ目の小男がホールの左脇にある部屋から出てきて歩み寄ってきた。服装は300年後の世界でバステクトの前身に訪れてきた3人組と同様ではあるが、彼らが身につけていた肩帯はなく、細かな装飾も控え目であることから、この小男は彼らよりも地位が低い者と推察される。
男はイシュヴァの近くにつくと軽く会釈をし、挨拶をしてきた。
「私は入団希望者の案内役のハリス、と申します。ここ最近は入団希望者などとんと現れずこのまま役目を終えるものかと思っておりましたが……。あなたのようなお若い方がいらっしゃるなとは夢にも思っておりませんでした。さ、まずはお茶でも飲んで一息お入れください。ここに来るまでお疲れでしょう。」
腰は低いが押しが強い。イシュヴァはそのまま案内しようとするハリスを呼び止めた。
「あ、あの、入団希望という訳ではないわ。ここに来たのは偶然というか―。」
「偶然?」
「ここに魔法に関する集団がいると聞いてきたの。私も魔法を使えるから、どんな集団なのか気になって。それでここまで来たのだけれど、たまたまあの碑文を読み上げたら扉が開いてしまったの。」
「そうでございましたか。ですが、魔法を使えるのでしたらやはり我らについて案内いたしましょう。入団するかどうかはその後考えていただければ。」
ハリスは一瞬残念そうな顔を見せたが、すぐににこやかな顔に戻した。先ほどまでの前のめりの圧も収まったのでイシュヴァはほっとする。
まずは簡素な応接室に通され、お茶を飲みながら説明を受けることになった。
使いの者などはいないようで、ハリスが手ずから慌ただしく部屋から出ていって茶を入れてくれると言う。お茶を待つ間、イシュヴァはキョロキョロと部屋を見回していた。テーブルを挟んでソファが置いてあるだけで、特に置物や絵や花が飾られているということもない。テーブルやソファも至ってシンプルなもので、部屋は寒々としている。ハリスが言っていた通り、この部屋に通されるべき入団希望者がほとんどいないため、体裁だけ最低限整えているだけで普段は全く使われていないのだろう。
ほどなくしてハリスが茶器を乗せたトレイを持って応接室に戻ってきた。不慣れに焦りが重なり、ティーポットからお茶がこぼれているし、カップはガチャガチャと音を立てている。
「いやぁ、お待たせしました、何分不慣れなもので……。カップや茶葉の場所も探さねば分からぬ始末でして。」
「いいえ、気を遣わせてしまって申し訳ないわ。」
「いやはや、すみませんな……。」
ハリスが茶を置き、腰を落ち着けるのを待ってイシュヴァは会話の口火を切った。
「ええと、貴方がたの集団……まどろっこしいわね、何か呼び方はないの?」
「そうですな、特に決まっている呼称はありませんが、我らは時折自分たちのことを『箱の民』と呼ぶことがあります。」
「『箱の民』……。どうして『箱』なのかしら。」
そう聞いた途端、ハリスはよくぞ聞いてくれたとばかりに得意気な顔をつくる。
「実は、我らは箱の神の庇護を受けているのですよ。」
「箱の……。」
「ふふ、突然そう言われて驚かれたでしょう。我ら『箱の民』全員が箱の神の血を持っているわけではありません。直接血を引いているのは我らの中でも極々僅か……5人もおらぬでしょう。ですが、我らが住まうこの建物そのものが箱の神の御体なのです。」
「……どういうこと?」
おそらく、ハリスは入団希望者が来た時にはこの話をしようと温めてきたのだろう。もったいぶってカップを置き、ひとつ息を吸うと
「我らがいかに『箱の民』となったのかをお話ししましょう。」
と言って語り始めたのだった。
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