3
神々が去っていくにつれ、できることが少なくなっていった。
鏡の神が去り、向こうの様子を映し出せなくなった。
伝令の神が去り、神々の領域と扉の向こうの間で会話ができなくなった。
風や雷といった自然現象を司る神々が去り、彼らのものを再現して見せることができなくなった。
彼らが去っていくときも、ウルヴァルドは「そういうこともあるだろう。」と静かに穏やかに受け入れた。神々のほとんどが去ったころ、イシュヴァは扉の向こうに行くことをやめた。多くの神々が魅力的な世界を選び、ウルヴァルドが離れることができない場所を捨てていったのだ。そうした場所に行き、魅力を感じていると示すことは彼への裏切りだと思ったのだ。
こんな状況でも、彼は向こうの世界について楽しげに聞いてくれるだろうし、仮にイシュヴァが向こうの世界を選びここを去ったとして、他の神々と同様に穏やかに受け入れるだけだろう。だから、これはイシュヴァの意思表示だ。あの魅力的な世界よりも、自分はウルヴァルドと共にいることを選んだのだ、と。
だから、今になってウルヴァルドを一人残していく決断をするのは心苦しくて仕方なかった。
あの領域に居残って、塔が崩れるに任せ世界の終わりを二人で迎える選択肢がよぎらなかったわけではない。しかし、彼が永遠とも思える長い期間、たった一人で織り上げてきたものが壊れていくのを、何もしないで眺めているのは我慢がならなかった。
それにしても。塔の先に行くと言ったとき、寂しい、とか、そういった言葉を少しだけ期待していた、なんて。ウルヴァルドがどんな反応をするかなんて分かってたのに。
思っていたよりも女々しい自分に苦笑しつつ、イシュヴァは高度を上げていき、やがて塔の先端―最も時間を積み重ねた、“最先端”の扉の前に行きついた。
「……なに、これ……」
思わず絶句した。扉の周りの壁にいくつもの大きな亀裂が入っている。原初の海の水から作られたレンガで作られた塔は普通であれば損なわれることなどない。この状態はどう考えても異常だ。
「この中で何か起こっているのは間違いなさそうね。」
決意に息を吐き、扉の中に飛び込んでいった。
読んでいただきありがとうございます。
面白い、続きが気になるなど思っていただけましたら
下の☆☆☆☆☆で評価してくださると嬉しいです。励みになります。