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日が十分に高くなったころ、長の娘が言っていた “あの人たち” と思しき3人組がやってきた。
豊かに髭を蓄えた長身痩躯の老人が一人、その左右にガッシリした体系の血気盛んそうな中年の男と、色素の薄い主張が弱そうな男が控えている。彼らはローブを着込んでおり、それは集落の者たちと比べると装飾的で生地も良く、一目で生活レベルの違いが見て取れる。この集落にいること自体が場違い、と言ってもいいくらいだ。
彼らを見た集落の者が知らせに走り、迎えに出てきた娘の案内で共に長の家に入っていく。交渉、と言っていたが、どんなことが話し合われているのか家の中の様子は伺えなかった。集落の者たちも同じようで、心配そう、あるいは気がかり、といった様子で、チラチラと長の家を横目に見ながら仕事をしている。
話は日が傾き始めた頃にようやく終わった。真剣な話し合いが続いたのか、家から出てきた3人組も、集落の長やその娘も皆心なしか疲れたような顔をしている。
「それでは話し合いの結果は持ち帰らせていただく。おそらく前向きな返答になるだろう。また5日後に結果を知らせに参るが、よろしいか?」
「ええ、よろしくお願いしますぞ……。どうか、何卒……。」
「随分と疲れさせてしまったな、あいすまぬ。娘御よ、これを渡しておこう。血を流した後に飲ませれば血の戻りが早くなるはずだ。」
「父の体を気遣ってくださってありがとうございます。……どうか、よろしくお願いいたします。」
長と娘は深々と頭を下げ、3人組もまた一礼して辞去する。イシュヴァは集落を出てどこかへ向かう3人組を尾行することにした。
彼らは集落の東にある山々を回り込んでから東に向かって進んでいく。集落の外は背の高い草に覆われた草原や、まだ育ち切っていない樹木が林立する林ばかりで足元は悪い。だが、彼らはそれを意に介することなく不自然なほどにサクサクと進んでいく。
やがて集落が完全に見えなくなったころ、中年の男が会話の口火を切った。
「……想像以上に弱い魔力でしたな。」
「それは否定できぬ。本当に細々と……細々と血を繋いできたのであろうな。血もさることながら、よく我らの存在を子々孫々伝えてこられたものだ。」
中年の男に長身痩躯の老人が答える。返答を得たことで、中年の男は会話に前のめりの姿勢を示し始めた。
「本当に、あの者たちと我らを交えるおつもりか!? あの長やその子らはまだ良いにしても、他の者に至っては一滴も神の血を持っていない……! それを、長きに渡って神の血を保ってきた我らと……‼」
「そんなことは分かっておる。だが我らに残された選択肢はあまりにも少ない。この5年で我らは子を何人得ることができた? たったの4人だ。ただでさえ人の血の少ない我らは血が煮詰まりやすい。それを300年前を最後に外の血を交えずにここまで来たのだ。……このままでは濃さを保つどころか血を繋ぐことすら難しい。」
「少なくとも、あの者たちは魔法に対して忌避感や偏見を持ってはおりません。彼らが保護を求めてきたことは、我らにとって僥倖と言えましょう。」
「し、しかし……‼」
「貴殿と同じ意見の者も多かろうな。私とてこの状況を嘆いていない訳ではないのだ。元老院の長老たちもただでは納得すまい。僅かでも神の威光を感じられるような交え方を考えなくては……。」
彼らは議論しながら、急峻な山を背景に森の中に聳え立つ白い建物へと入っていった。彼らが入っていった後、他に人影がないことを確認し、イシュヴァはその入口へと近づいたが、扉は固く閉ざされており、窓のないその建物の内側を窺い知ることはできなかった。
ふと、入口の扉の上を見てみると、何らかの紋章が刻まれていることに気が付いた。真上を頂点とした正六角形の中に、時計の2時、6時、10時の角を指すY字。
「これは……賽子? いいえ、箱、かしら。」
イシュヴァの疑問に答える者はなく、呟きは森の中へ消えていった。その日はこれ以上分かることはないだろう、と早々に切り上げ、彼らが言っていた5日後に再びやってくることにした。
5日後、告知通り3人組は集落を訪れた。
今度は交渉結果の周知の意味合いを込めてか、長の家ではなく広場に皆が集まっているなか、長と3人組が対峙していた。皆の注目を浴びながら、長身痩躯の老人が高らかに宣言する。
「過日、そなたはこの集落の保護を求められた。我らはそれに応えよう。だがただの保護では終わらせぬ。我らはここにそなたらと魔法を使った新たな街を作ろうと思う。その街の名は、<神々の隠れ里>―バステクトと。
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