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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
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ティアが知る通り魔法が衰退していた250年前から、魔法が日常になった今に至るまで、一体何があったのか。


バステクトでは歴史という学問は重要視されていないようで、アニスやリズにバステクトの成り立ちを聞いても「昔のことなんて知ってどうするの」ときょとんとされてしまった。図書館はなく、何か知りたいことがある場合は、業種ごとに設立されている組合本部の建物に置いてあるそれぞれの専門的な資料を見せてもらうなどするらしい。

書店も街の規模の割には非常に小さく、置いてあるものも基本的には実用書がほとんどで、残りは子供向けの絵本や大衆小説がわずかにあるばかりだった。ソールは中枢区の研究所には電化製品の仕組みを調べるために歴史的な事柄を記した資料があるかもしれない、と憶測を立てていたが、いずれにせよ研究所に入ることができる人物は非常に限られているので、あったとしても閲覧は難しいだろう、とのことであった。



昔何があったかを知るためには、250年前のものから膨大な数の扉を順番に開けて覗いていくしかないのか、とティアが腹を括りかけていたある日のこと、ソールが緊張した面持ちで保安調査隊の部隊員に任務内容を説明し始めた。


「久しぶりに害獣がバステクトの近辺で目撃された。今日から駆除および街周辺の見回り任務に当たることになる。今日はこれから2時間後に森に入る。各自しっかり準備して正面入り口に集合するように。気を引き締めていけよ。」


ソールの言葉で部隊員の顔にも緊張が走る。ピリピリとした空気を伴い、それぞれが家や詰所へと散っていった。どういうことかイマイチ掴めていないティアは、腕組みをして難しい顔をしているソールに説明を求めた。


「……前に左脚を失って神殿に入った部下がいるって話しただろ。その原因が今回の害獣だ。どういうわけかバステクトを付け狙っているらしくてな、時折周辺に現れるんだ。駆除っつっても強すぎて倒すことができない。しばらく魔弾で攻撃を続けるといつの間にかいなくなるから、そうやって追い払うのが今回の任務だ。準備ってのは、まあ、家族や仲間に一声かけてきてるんだ。」

「……それだけ危険な任務なのね。」

「そういうことだ。あの害獣はおれたちを喰おうとするからな。ティアにも魔弾をガンガン撃ってもらうからそのつもりで居てくれ。」

「説明会の時に見せてもらった大きな魔力砲は使えないの?」

「使えりゃいいんだが、あれは一回撃つと再装填に時間がかかってな……。」


こういった場面で使わないのであれば一体あれはなんのためにあるのか―、と聞きたくなったが、危険な任務に向かうために気持ちを落ち着けようとしているソールを質問攻めにするのも忍びなく、ティアはおとなしく引き下がり集合時間まではプラプラと散策して過ごした。もとより“崩壊”というどちらかと言えば攻撃的な性質を持つ神である。よほど相性の悪い神でもなければティアを侵すことはできない。深刻な顔をしている同僚たちとは対照的に、ティアは非常に余裕を持った精神状態であった。


2時間後。一行は隊列を作り森に入っていった。ほかの部隊とも協力して任務に当たっているらしく、隊列を率いる先頭集団のすぐ後ろには他隊と通信を行っている者もいる。詳しくは知らないが、通信に使っているあの機械もおそらく魔法を使っているのだろう。何とはなしに通信する様子を興味深く見ているときだった。部隊を率いているソールの大声で頭を切り替えさせられた。


「――いたぞ‼ 構えろ!」


新人として部隊後方にいたティアは、その “害獣” の姿を少し離れた距離から視界に捉えた。


―――え……?


ティアが思わず漏らした驚きの声は部隊の誰にも聞かれなかった。だが “害獣” だけには聞こえたようで、獣もまた、視界にティアを捉えた。


獅子の体に三又の尾。背中からは大きな翼が生え、4本の足は竜のような鱗と鉤爪を持つ。目に瞳孔は無く、全身は黄金に輝き、身に纏う霧が一層神聖さを高めている。


あれは、どう見ても “神獣” だ――。


神獣はまだ大気に魔力が満ち満ちていたころに存在した、魔力を糧とする生き物だ。その知性は高く、神々は彼らを愛し時には自らの象徴とした。神獣もまた神々に寄り添って共に生きていた。しかし、やがて大気の魔力がなくなってくると、神獣は糧を失い、姿を消していった。ある種は滅びを選択し、ある種は魔力以外のものを糧とするようになっていった―つまり、魔力がなくなった世界で生きる「動物」と呼ばれるものの元となったのである。


大気に魔力のないこの時代で、とうに滅びたはずの神獣が在ることなど有り得ない。ティアは呆然とし、獣と見つめ合った。その時間はどれくらいであったのか、ティアには分からない。やがて獣はふい、と目を逸らし、踵を返すと森の中へと消えていった。部隊の中に安堵が広がる。構えを解いたソールは肩から力を抜きながら口から大きく息を吐いた。


「なんだぁ? 今日は随分とあっけなく帰っていったな……?」

読んでいただきありがとうございます。

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