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母親はまだイシュヴァに対して半信半疑のようではあったが、子どもの訴えに負け、自宅へと案内してくれた。彼らの自宅は幸運にも壁が多少崩れた程度で、寝泊まりには問題がないくらいには家の形を残している。一方家の中はガラン、としていて、本当に最低限のもの以外は何もない。
「殺風景ですみません、売れるものは売ってしまったんです。お茶も出せなくて……。」
「いいえ、そんな気を遣わなくていいわ。こちらが押しかけてきたのだもの。ええと、火を熾すことはできるのかしら。」
「ええ、こちらです。」
通された調理場は、竈の周囲だけが土間になっていた。元々は床板が貼られていたものを無理やり剥がして作られたようなチグハグ感がある。
ともあれ、子どもたちは鼻歌を歌いながらイシュヴァの周りをウロついているほど食事が待ちきれないようなので、話をする前にまずはそちらの用意をしなくては、というのはイシュヴァと母親の共通見解だ。
母親の許可を取り、家の裏側で獲物を捌く。捌くのは昔ほかの神々とともに扉の中の世界で遊んでいた頃にやって以来なので、やり方を覚えているか心配ではあったが、なんとかやることができた。不要な臓物や毛皮は土に埋め、肉塊を持って調理場に戻ると、母親が竈に火を熾してくれていた。
「わぁ! 本当にお肉だ!」
「危ないからそっちに行ってなさい。……騒がしくてすみません、でもお肉なんて本当に久しぶりで……。」
「なら、なおのこと早く用意してあげましょう。私は料理なんてできないから、ここからはお願いしても良いかしら。」
「はい。といっても、塩しかないので焼くくらいしかできないんですけど。」
そう言って母親はイシュヴァから肉塊を受け取ると、適当な大きさに切り分け、手際よくフライパンに並べていく。先ほどは子どもたちが騒ぐのを咎めていたが、今の母親の横顔にも抑えきれない喜びが溢れていた。
ジュウジュウと肉が焼ける音に惹かれ、またしても子どもたちが調理場にやってきたので、イシュヴァは調理の邪魔にならぬように子どもたちに手を洗う場所に案内してもらった。そこは水瓶と水を汲むための容器が置いてあるだけの場所で、バステクトにあったような水道なんてものは無かった。子どもたちに手に水を掛けてもらいながら聞いたところによると、水は毎朝近くの井戸や水路から運んでこなくてはならないらしい。
ついでに子どもたちも手を洗ってから調理場へ戻ると、ちょうど皿に肉を乗せ、残すは配膳のみ、というところだった。わっ、と駆け寄る子どもたちは我先にと配膳を手伝う。いつもこのくらい手伝ってくれればいいのに、と苦笑しつつ、母親は配膳を子どもたちに任せて調理場に戻り、沸いたお湯をカップに注いでいった。
焼いた肉とお湯、というバランスに欠けた献立ではあったが、この親子にとってはご馳走だったようだ。子どもたちはガツガツ食べ、その子どもたちを見ている母親も食べられるのが嬉しそうで、成り行きで食卓を共にすることになったイシュヴァは、打算でこの親子に話しかけたけれど、結果間違ったことはしていなかったのだ、と少しだけ心が温まるのだった。
闇市にいって騒ぎ、イシュヴァの持つ肉を見て騒ぎ、久しぶりに満腹になって眠くなったのだろう。
子どもたちはすっかり寝てしまい、母親は穏やかに微笑みながら彼らに毛布をかけ、イシュヴァが座る食卓の対面の椅子に座った。いつの間にか日は落ち、イシュヴァと母親の顔を揺らめく蝋燭の火が照らしている。
「本当に、ありがとうございました。子どもたちがあんなに楽しそうだったのは久しぶりです。」
「いいえ、こちらも目的があってのことだから。それで―。」
「ええ、どうして戦争が起きているか、の話でしたね。うーん、どこから話したものでしょう……。どこまでご存じですか?」
「何も、と言っていいわ。なら、私から質問した方が話しやすいかしら。この町に来るときに、なにか四角い機械をたくさん捨てているのを見たわ。あれは一体なんなの?」
「ああ、家電を捨てているところですね。電化製品は使えなくなってしまったので、場所を取るだけだし殆ど捨ててしまっているんです。」
「カデン? デンカセイヒン?」
「あっ……と、伝統的な生活を営んでいらっしゃるんですもんね、そちらでは使われない物なんですね。家電も電化製品も、電気を使って動かしている機械のこと、です。色々ありますけど、多くは家の中の生活を便利にしてくれるものです。自動で洗濯してくれたり、食べ物を冷やしてくれたりとか。」
「……ごめんなさい、デンキが分からないわ。」
「ええ……電気の説明ですか……難しいですね、私も自信を持って理解しているとは言えないですし……。うーん、雷の力を使えるようにしたもの、と考えてくだされば良いと思います、多分。」
雷。確かにあれなら強い力が得られるだろう。あれを司る神は力が強くなかなかに傍若無人なところがあったが、その力を御したのであれば人間も侮れない。イシュヴァが納得した様子を見せたので、母親はあからさまにホッとした様子で説明を続けた。
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