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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
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ある程度の量の回収物を降ろし終えると、今度はそれらを車に積み込み、ソールが言っていた通りに大きな魔石に全員で魔力を充填し、車は夕暮れの中を町へと戻っていった。


その夜、町がすっかり静まりかえり、道行くものは猫やネズミくらいになったころ、ティアはこっそりと部屋を出た。人目に付かないように注意しながら、町外れの人家もまばらなところまで歩き、木立の影に隠れるとイシュヴァの姿へと戻り、服も黒一色のものに変えた。さらに頭をショールに包み、再度周囲に人の気配がないのを確認すると、勢いよく空に飛び出し、星空を翔けていった。


やがてこの世界の境界にたどり着くと、塔の内側へと入った。


たった3日ぶりだというのに、塔の内側の世界がひどく懐かしく感じる。扉の向こうの世界とは違い、塔の中には音も色もにおいもない。けれどその「がらんどう」がいとおしい。今すぐ塔の下まで降りていって、この愛しい空間の主であるウルヴァルドに会いに行きたい。

でも今会いに行ったら自分の決心が鈍りそうな気がする。世界の終わりを二人で迎えたい、と、自分はきっとそう思ってしまう。後ろ髪を引かれる思いで目当ての扉を探し、ウルヴァルドがいる塔の底を見ないようにしてさっと扉の向こうに飛び込んだ。

イシュヴァが飛び込んでいった時代は、最先端の扉から250年前、あの機械が捨てられていったころの世界だ。



「これは……。」


イシュヴァは言葉を詰まらせた。まだ太陽は高い時間帯のはずだが、暖かな日光は黒煙に遮られ、代わりに地表に燃え盛る炎が喉を焼くような熱と赤光をもたらしている。

戦争だ。

逃げ惑う声、絶望の嘆き、それでもなお壊れゆく家屋を守ろうとする者の切望。“崩壊” であるイシュヴァには、これは人間の長年の営みの中で数えきれないほど感じてきたものだ。

正直に言えば、予想していない事態ではなかった。ソールは「いくつかの町が滅びた」と言っていた。長い歴史のなか、自然災害や気候変動や疫病など様々な原因で文明が滅びていったが、その中の一つに戦争だってあった。だから、目の前の光景に驚きはしない。……けれど見ていて気持ちの良いものなんかでは決してない。苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、イシュヴァはあのゴミ捨て場の座標へと向かった。


道中、いくつかの町を見かけた。どこまでも人間の生活圏は広がり、工場や家屋が集まっている区域の周辺には畑が広がっている。山の斜面すらも畑となっていて、その分、森林はずっと狭く、ちょこん、ちょこん、と緑の染みのように点在しているだけのところも多い。

バステクトのある時代とは違い、この時代はやはりたくさんの町ともっとたくさんの人間がいたようだった。しかしイシュヴァの視界に入る町のいずれもが燃えていて、あるべき活気などとは程遠いところばかりだった。そうした光景を見る度に、イシュヴァの足取りは重くなってくる。


うんざり重い心を引きずりながらたどりついたゴミ捨て場は、戦火の激しさは落ち着いていて、そこには何台もの車がやってきては粗大ゴミを捨て、そしてまたどこかへ戻っていっての繰り返しだった。上空からその蟻の行列のような車列を辿ってみると、ひとつの町に行きついた。イシュヴァは目立たぬようにそっと近くの緑地に降り立った。


その町は山の裾野と川に挟まれた町で、人間の生活圏の外れに位置していた。裾野の途中までは宅地や田畑が広がっているものの、より山に近づくと緑の濃度が高くなり、赤々と燃えていた町々に比べると比較的自然が多い。

だからだろうか、戦闘の跡は生々しく、煙が未だ燻り倒壊した建物が多いが、道中の町はそれこそ完膚なきまでに破壊しつくされていたのに対し、雨風を凌げる程度には原型を保っている家屋もいくつかはある。人々はそうした残った建物に身を寄せ、入ることのできなかった者は道の端に壁を背もたれ代わりにして座り込んでいる。

いずれにせよ、人々の顔には疲労が色濃く浮かび、これから彼らを待ち受ける未来を悟っているようであった。片付けをするものの動きは緩慢で、壊れた家屋から割れてしまっている家具のほか、未来でバステクトの住人が回収することになるであろう、様々な機械を外へ運びだしていた。それらは一旦町の広場へ集められ、続々と到着する車に乗せられてはあのゴミ捨て場へと運ばれていく。


イシュヴァは人波に紛れて町に入り込み、歩きながら町の様子を見回っていた。町の住人たちには余裕はないのか、または戦争下の混乱で人の出入りが激しいのか、見知らぬイシュヴァを不審がるどころか、一瞥もくれなかった。町の様子を観察するには有難い限りではあるが、敵に対する憎悪すらもなく、ここまで人々に気力が無いのは気にかかる。


歩いているうちに、ひときわ人が多く集まる大きな通りに出た。

雑多な敷物が狭い通行路を残して敷き詰められ、その上に1~2人が座りこみ、その前に商品が並べられている。商品のほとんどは食料だ。敷物の周辺を歩き回る人々も切羽詰まった表情をしていて、小脇に荷物を抱えながら商品を吟味している。交渉に入ると荷物を開いて提示し、商品と物々交換をしていく。交換する物品は服や貴金属、あるいは酒や煙草、果ては何かの錠剤など様々だ。

読んでいただきありがとうございます。

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