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開けているバステクト周辺以外は、広葉樹と低木の茂る、木漏れ日の気持ち良い風景が延々と窓から流れていく。車を走らせるための道は木々を切り取っただけの獣道にも似たもので、時折車体が大きく揺れてお尻が痛くなる。荷台にもともと積んであったクッションはこのためのものだそうで、クッション近くに座っていた隊員が手渡してくれた。ティアは有難くそれを使わせてもらい、幾分か快適に過ごすことができるようになった。
窓も開けて良いということだったので近くの窓を開けていると、バステクト周辺では聞こえなかった鳥の鳴き声が、いつの間にか聞こえてくるようになってきた。ティアの知る生に満ちた森がきちんと存在していることに安堵すると共に、どうしてバステクトの周辺の森はあんなにも生き物の気配がしないのか、という疑問が頭をもたげてくる。それでティアが少し難しい顔をしたからだろうか。ソールが気遣わし気に話しかけてきた。
「ティア、気分が悪くなったら早く言えよ。車が初めてならこの道は酔うだろ。」
「え? ああ、いえ、なんでもないわ。少し考え事をしただけ。お気遣いありがとう。」
「そうか? なら良いが。まだ目的地まで半分ってとこだ。無理はするなよ。」
「そういえば調査ってどんなことをするのかしら。きちんと聞いていなかったわ。」
「ああ、そういえば説明してなかったか。難しいことはない。言っちまえば、ゴミ回収だな。」
「……ゴミ回収?」
「詳しいことは知らんが、大昔に滅びた町がいくつかあったらしくてな。今から行くところはそうした町のゴミ捨て場だったらしい。これがおれたちとは違う技術を持っていたようで、捨てられたモノのうち状態の良さそうな機械を回収して、構造の研究を行う。結果バステクトでも使えそうの類のものは修理・改造して使うんだ。この車もそうだぞ。ま、研究や修理をするのは中枢区の研究所でやるんで、おれたちはゴミ回収係ってワケだ。」
「……ふうん。どうして町がいくつも滅びたりしたのかしら。」
「さあな、そのへんは分かってないのかもしれん。おれも聞いたことはないな。」
ソールは片眉をあげ、肩をすくめて答える。どうやら本当に知らないようだ。これ以上聞いても情報は得られないだろう。だが、どうしてあんなに大勢いた人間たちがいなくなったかの手がかりな気がして、ティアは町がいくつか滅んだ、ということは胸に留めておくことにした。
そしてティアにはもう一つ、聞いておくべきことがあった。
「話は変わるのだけれど。」
「ん?」
「パンって、普通はどうやって焼くのかしら。」
「パンん?」
思わぬ方向からの質問に、ソールの声は上ずっている。
「あー……そりゃオーブンで焼くんだろうが……。おれよりリズかアニスに聞いた方が良いだろうな。店でやってるだろうし。」
「……そう。」
それからは特に会話らしい会話はなく、穏やかな森の中をまたしばらく走ったところで車は止まった。
車のドアが開くと、日差しが遮られていた中に慣れた目が、外のまぶしさでチカチカする。数度の瞬きの後、ティアが目にしたのはいくつもの小山だった。よく見ると小山はたくさんの四角いモノが不規則に積み重なってできていて、自然のもののようになだらかではない。あの四角いモノの一つ一つ全てが、かつての人間が捨てた機械だというのだから、その量にティアは圧倒された。
呆然として口を開けているティアをよそに、ソールはテキパキと指示を出していく。
「よーし、作業開始だ。いつも通り安全のため二人一組で作業にあたれ。ティア、今日は説明も兼ねておれと組むぞ。次回からはまた別のやつと組むかもしれんから、作業内容をよく覚えておけ。と言っても、さっきも言った通り難しいことはないけどな。」
「ええ、よろしくお願いするわ。」
今日の作業は小山の一つでの回収作業だ。4組の隊員たちがそれぞれ小山にのぼり、手近なゴミ、もといかつて使われていた機械を抱えて下に降ろしていく。
「まずは表面近くのゴミの撤去作業だ。表面近くはボロボロになってるモノがほとんどでな、使い物にならないんで持ち帰らない。山の下の方にあるものも潰れてたり腐食が進んでるモノが多いから同様だ。だから回収するのは山の内側にある一部だけだ。ここらにある小山のいくつか……あの辺りのがそうだな。あれは持ち帰らない本当の“ゴミ”を集めて積んでるやつだ。」
「全部の山で回収するわけじゃないのね。随分とたくさんあるからこの人数で作業したらとてつもない時間がかかるものかと思ってしまっていたわ。」
「あと回収作業が残っている山は今日のを含めると1、2、3、……、5つくらいか。だいたい2~3週間くらいかかる目算だな。」
「回収が終わったらどうするの?」
「別の部隊が同じような場所が無いか探してる。それが見つかればそっちで回収するし、見つかってなけりゃおれたちも探し回るか、別の任務が入るか、だな。」
「なるほど。」
時折ソールと声を掛け合いながら山の表面のモノを降ろしていくと、徐々にかつての原型を比較的保っているモノが表れてきた。当然ティアには皆目なんの機械なのか分からないモノばかりだ。
「ソール、これはどういうモノなの?」
「分かるのと分からないのがあるな……。これは “デンシレンジ” とかいうモノらしい。昔の調理道具なんだと。こっちは分からん。研究所で調査して使えそうならそのうち町で見ることがあるかもな。どっちにしろ高いから、おれたちにゃ関係はないが。さ、喋ってないで作業するぞ。とりあえずここらのモノを車の近くまで持っていってくれ。」
「分かったわ。」
他の組も同様の作業を進めていくため、自然と隊全員で協力してリレーのように車の側へ回収物を運んでいく流れとなった。作業中、ティアは回収物の側面に刻印された “製造年”の表記を見つけた。中にはその部分が腐食していたり、おそらく何か貼り付けられたものが汚れてしまっていたりして読み取れないものがあったが、幸運にもいくつかは年号が読み取れる。おおよそ10年ほどのバラつきはあるものの、今から250年ほど前だ。
(一番新しいものが2XXX年、ね。きっとこの年の近辺で何かが起こったんだわ。)
ティアはこの年号をしっかりと記憶した。
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