22
魔石は高価ゆえに身近でないためか、魔法学校でも詳しくは扱わないそうだ。だからこの新人講習で詳しい説明がなされた。
魔石とは、簡単に言ってしまえば魔力の受け渡しをする装置だ。その効率が良いので水晶が使われていることから、魔“石”と呼ばれている。
魔力の受け渡しをする、と言ってもその方法は様々で、列車に使われているもののように単なる魔力の受け口としての役割しか持たず受け取った魔力を別のものにただ流すためものや、ある程度の魔力を魔石内に溜めておき、必要な時・必要な場所で魔力を使用できるようなものもある。
保安調査隊で使用するのは主に後者で、魔弾では威力が足りない場合に使用する武器のエネルギー源や、調査に使う大型の機材の動力源として使うことが多い。多くのエネルギーが必要になる場合は当然多くの魔力が必要になるので、一人の魔力では足りない場合は隊員複数で魔力を充填することになる。
「……ということで、一度魔力を充填してみましょう。このように手で包むように魔石を持ち、手のひらに魔力を込めます。水晶の中心に魔力を送り込むようなイメージで……。はい、僅かに魔石が光りましたね。これが充填できた合図です。魔石が溜め込める限界になると石全体が虹色に発光しますので、そうなったら魔力を送り込むのをストップしてください。石が割れてしまいますから。では、はい。君からやってみてください。」
説明をしていた副隊長という人が、おもむろに掌ほどの水晶を近くの新人に渡した。突然のことにまごついた彼は不安そうに副隊長の顔を見上げるが、副隊長はニコニコとして何も言わず、無言で行動を促す。……あの副隊長は結構怖いのかもしれない。
圧を感じた新人は、副隊長がやって見せたように左手で水晶を持つと、眉間にしわを寄せながら目を閉じ、魔力を込めた。多分、魔力だけでなく力も入っている。腕に血管が浮いている。数秒して魔石が光ると、副隊長が彼の肩を軽くポン、と叩いた。ようやく目を開けた彼だが、目の前に副隊長の顔があったのでネズミのようにビクッと後ずさりをしていた。
「はい、上手く魔力を込められましたね。目を閉じていると合図が分かりませんので、目をつぶってはいけませんよ。今後気を付けてください。はい、それでは次の方へ渡してください。」
試練から解放された彼は苦笑まじりに肩から力を抜き、次の新人へ魔石を渡そうとし……手汗が気になったのか一応服の裾で軽く魔石を拭いた後で者へ手渡した。お疲れ、という意味か、からかう意図か、次の者が最初の者の二の腕辺りを軽く叩くと、その気さくな雰囲気が広場全体に広がり、新人たちは最初の者ほど緊張せずに魔石に魔力を充填できるようになっていった。
最後のティアまで回ってきた段階でも、魔石はまだ副隊長の言う「全体が虹色に発光する」状態ではなかった。ティアも他の新人同様、見様見真似で軽く魔力を込めてみる。手のひらからクン、と魔力を吸われるような妙な感覚ののち、魔石は薄く虹色に光り始めた。あまり魔力を込めたつもりもないので、ティアの前段階でそこそこの魔力を溜め込んでいたらしい。
新人たちはティアの手元を覗き込み、光る魔石を見て感嘆の声を漏らしていた。副隊長も魔石を確認すると満足そうに頷き、ティアからそれを受け取った。
「みなさん、これが魔力が限界まで入った状態です。この光を良く覚えておいてくださいね。それでは、みなさんで集めた魔力が個人の魔力と比べてどれほど大きいのか見てみましょう。」
そう言いながら横にいる隊員に目配せをし、魔石は右手で掲げながら、左手を横に差し出す。目配せをされた隊員はなにか、銃に似た長い円筒状のものを差し出した。
「これは魔力砲と言って、魔力をエネルギーとして撃ちだす武器です。魔弾の強力版と思ってください。各部隊で配属された後、各々の部隊で使う武器の説明があるでしょうから詳しい説明はそちらで聞いてください。部隊によってこれよりも小さなもの、あるいは大きなものの場合もあるでしょうが、魔力砲であれば構造はすべて同じで、撃ちだせる魔力の大きさが違うだけです。これに先ほどの魔石を差し込みます。こうして肩に担いで、よく狙いをつけて……。」
説明をしながら副隊長は新人たちに背を向け、先ほど魔弾の訓練で使われた的の方を向いた。魔力砲を両手で持ち、数秒かけ狙いをつけたあと、ピタリと時間が止まったように動きを止めた。
―――――ズドン‼
突然の大きな音でティアを含む新人たちは身を強張らせた。そして土煙を上げている的の方を見ると、見る影もなく木っ端みじんになっていた。声も出せずに驚いていると、魔力砲を肩から降ろしつつ、くるりと副隊長がこちらに向き直した。
「はは、みなさん驚かれましたか。まあ見ての通り、みなさんの魔力を集めるとこうして強い力になるということです。バステクトの安全と発展に貢献できるよう、魔力だけでなく、新人のみなさんも含めた隊員全員の力を合わせていきたいものですね。では、魔石の説明はここまでです。」
なにやらそれらしい言葉で締めた副隊長は朗らかな笑顔で軽く頭を下げると、さっと場の中心から退いていった。入れ替わりにその場にソールが戻ってくる。
「あー、魂抜けてるヤツは帰ってこーい。午前の訓練は以上だ。午後からは各々の部隊に同行し、実際の任務を通じて各個人の能力を上げていくように。保安調査隊は知っての通りガチガチのお堅い集団じゃない。が、さっき見たような武器も扱うこともあるし、危険と隣り合わせの任務もある。気を緩めすぎるなよ。何よりもおれたちはバステクトの町と住人を守るために存在している。それを忘れないように節度と誠実さをもって行動するように! はい、以上!」
読んでいただきありがとうございます。
面白い、続きが気になるなど思っていただけましたら
ブックマークや下の☆☆☆☆☆で評価してくださると嬉しいです。
励みになります。




