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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
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翌朝。

今日は寝過ごすことなく、想定していた時間にぱっちりと目を覚ましたティアは、昨日同様ベッドから出て歩きながらサッと魔法で身支度を整えると、アニスと一緒に買ったグレートブレッドのパンを朝食にすべくテーブルへ向かった。


ティアはこれまで、温かい食事を摂るという経験がほとんどなかった。そもそも神であるから食事が必要ないというのもあるし、神に捧げられる神饌は酒や野菜・果物、魚や肉といった、料理というよりは素材そのものが多かったからである。神饌は美味しいし不満があるわけではないのだが、バステクトに来てから食べたような人間と食すものと同じ“料理”はティアにとっては新鮮で、今朝のパンも、内心昨日から楽しみにしていたのだった。


(ラ・カンテで食べたパンは少し温かかったわ。)

その温度を思い出しながら、一つパンを手に取り魔法で温めると、機嫌よく口の端を上げながら勢いよくカプリと噛り付いた。

(……あら?)

何かが、違う。パンは美味しいしラ・カンテで食べたものとほぼ同じ味が確かにするのだが、なにか一味足りない気がした。

(一体どういうことかしら……?)

せっかく楽しみにしていた朝食なのに。解決できないモヤモヤを抱えたまま買っていたパンを完食し、ティアはソールと約束していた保安調査隊の詰所へと向かった。


今日は初出勤ということで、午前中は詰所にて簡単な講習と訓練を、午後は調査部隊の任務に同行することになっていた。

詰所前のちょっとした広場につくと、ティア同様に制服を身につけていない青年たちがチラホラと集まっていた。元からの知り合いだったのかここで知り合ったのか、幾人かに分かれ、各々緊張した面持ちで会話をしていた。おそらくティアと同じく新人なのだろう。ティアに気付きじろじろと見てくる者もいる。そのうちティアに話しかけようとした者が歩き出したところで、ソールを先頭に制服を身につけた集団が広場に入ってきた。

「これから新人研修を始めるぞー。名前を呼ぶから呼ばれた順に並んでいくように。」


最後に名前を呼ばれたティアを含め、新人は10名だった。5名ずつ2列に並び、新人たちの列から家一軒分ほど離れた前方に円形の的が並べられた。


「これから魔弾の訓練を始める。的の中央を狙って撃つように。威力については強い必要はない。これは魔弾を外して何かを壊したり、人を傷つけたりしないようにする訓練だ。正確性を重視する。あんまり下手くそだと研修を卒業させられんからな。集中しろよー。」


魔弾というのは、ギュッと密度を高めた魔力を撃ちだしたもの、だそうだ。

銃で言えば、銃弾が魔力、銃身が自身の体、といったところだろうか。魔力を持つバステクトの住人は学校である程度習うため、この訓練は通常では最低限の能力を持っているかどうか見る程度のものらしい。ティアはそもそも魔弾が何たるかすら知らないので、昨日中にソールやマルクに魔弾の打ち方を聞いていた。


(腕をまっすぐ伸ばし人差し指を的に向けて、その指先に腕の魔力を集め、しっかりと集まったところで打ち出す、ね。)


前列の新人たちを見ると、上半身を乗り出して撃っている者、左手を右手の肩に添えている者、撃つ度に反動か肘が曲がる者……など、特に決まった姿勢はないようでそれぞれがやりやすいようにやっていた。

威力もまた人によってまちまちで、的を揺らすだけの者から、しっかり的に穴を開けている者まで様々だ。正確さは流石といったところか、ほとんどの者が的に当てていた。


その昔、まだ大気に魔力が満ちていたころは、体内の魔力なんて使わずとも良かったものだけれど。あの頃の人間は無尽蔵の魔力を使って何か巨大なものをたくさん作っていたわね。しまいには空飛ぶ都市まで作って。その話もウルヴァルドにしたことがあったわ。


「よーし、前列は全員問題ないな。じゃあ後列と交代だ。」

かつての世界に思いを馳せていたティアは、そのソールの掛け声で現実に引き戻された。少し慌てたものの、何食わぬ顔を取り繕って交代する。


とりあえず、こんな感じかしら。見様見真似で構えてみる。交代した前列の新人たちや、ソールと一緒にやってきた隊員たちもティアに注目しており、その視線を感じながら撃った一発目は大きく的から外れ、後ろの土壁に当たった。

ティアはむ、とした。自分だけが的に当てられないなんて格好がつかない。しかし一度試しに撃ってみた感じでは意外と狙い通りに正確に撃つのは難しかった。


だったら、と、ティアは“撃ち方”を変えることにした。魔弾を撃ったように見せかけるために指先から微弱な魔力を放ちつつ、同時に魔弾が貫通したように的の方を “崩壊” させる。やり方が違ったって結果が同じなら文句はないでしょう。どうせ他の人間には分からないのだし。


やや強引な理論で放った2発目以降は、当然のこと見事全弾命中した。ティアの腕前に注目していた観客たちは瞠目し、近くにいるものと小声で感想を言い合う。ざわついた広場はソールの仕切りで落ち着きを取り戻した。


「よーし、後列も問題ないな。次は魔石についての説明だ。副隊長、説明頼むぞ。」

読んでいただきありがとうございます。

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