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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
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歓迎会ではたくさんの話を聞いた。

ソールやマルクのオススメのお店、バステクトで催されるイベントのこと、保安調査隊のこと。

アニスやリズはティアが保安調査隊でも町の外の調査を行う調査部隊に入りたい、と言ったら驚いていたが、ケガをしないように気を付けながら頑張って、と応援してくれた。

ソールやマルクが買ってきてくれていた飲み物も果物の香り豊かな美味しいもので、季節ごとに新たな味が発売される人気の品ということだった。この店も教えてもらったので、給料をもらったら行ってみようと思う。


歓談しながら食べている最中に気が付いたが、料理はいずれも話をしながら食べやすいようになっていて、リズやアニスの心遣いに改めて感心していた。やはり食べたことのないものが多かったので、それらを質問するのも大いに盛り上がった話題であった。中でもクラッカーの上に様々な具材を乗せたもの―カナッペというのだと教えてもらった―がとても気に入り、ついついいくつも食べていると、リズが「これはアニスが作ったんだよ」と言いながら目配せをしてきた。そうか、きっとこれは―。


「ねえ、マルク、これ……えっと、カナッペというのだったかしら、すごく美味しいわ。アニスが作ってくれたのですって。もう食べたかしら?」

「へえ、アニスが作ったのか! アニスが料理担当なんて珍しい……ああ、そういえばリズが休みの間はカフェをやるって言ってたもんな。それでか。……ん、うまいな!」

「ほ、ほんとう!? 良かった!」

明らかに期待と緊張が入り混じった表情でカナッペを食べるマルクを見つめていたアニスは、その感想を聞いて破顔した。


「盛り付けも綺麗で見ていても楽しいし、いろんな種類があってどれも食べたくなるわよね。今朝もわざわざサンドイッチを作って持ってきてくれたのだけど、それも美味しかったわ。」

「サンドイッチかあ。いいなあ、今度俺にも作ってくれよ。」

「! っう、うん、頑張って作るね! あ、あのね、こっちも私が作ってみたの。うまくできてたらお店でも出そうかって話になってるんだけど……よ、良かったら食べてみてくれる? 感想、教えて欲しくって。」


そうやっておずおずと差し出してきたのは果実のソースがたっぷりとかかった、可愛らしく華やかなデザートだった。まだデザートを出してくるような段階でもないので、食べる順番としてはどう考えても不自然だ。アニスは舞い上がっているのと緊張で混乱しているようだ。リズを横目で見ると、笑っているのか呆れているのか横から口を出すのを我慢しているのか、口をモゴモゴさせた妙な顔をして、とりあえずマルクとアニスを見守っていた。ソールはというと、横目でこちらを見ながらも一人のんびりジュースを味わっていた。二人がとくに何も言わないので、ここで余計なことを言うのは得策ではないだろう、とティアは判断し、口を噤むことにした。


このちょっぴり珍妙な空気をものともせず、マルクはふーん、といってデザートを手に取るとじっくりと味わいながら一口、二口、と食べていく。アニスはそれを上目遣いで見つめていた。

「―ん、うまいな!」

「ほんと? 良かった! お店に出しても大丈夫そう?」

「大丈夫だろ! 甘酸っぱくてうまいし!」


相変わらずマルクの説明はざっくりしている。アニスはそんな素直な感想も嬉しいようで、というより、マルクから褒められればなんでも嬉しいのだろう、瞳は星のように煌めき、輝く笑顔でリズの方に顔を向けた。


「ね、リズ、マルクから太鼓判を貰えたわ! お店にも出せそうよ!」

「あー……、まあ、まずはお客の一人から合格を貰えたのは良かったね。けどティアにも意見を貰うってハナシじゃなかったかい? マルクもソールも、ウチの味に慣れちまってるからね。お店に出すなら、冷静な意見を聞いときな。」


現役の料理長であるリズは、メニュー化の是非についてはなかなかシビアなようだ。

アニスとマルクとリズ、そしてさりげなくこちらを見ているソールの4人の視線を浴びながら試食するのは居心地の良いものではなかったが、見ず知らずの自分のために力を尽くしてくれているアニスに報いるためにも、ティアは真剣に味をみることにした。


「……そうね、マルクの言う通り、とっても美味しいわ。でも、このソースは好みや状況によってはもう少し少なくても良いと思うわ。今は食後……というより、食事中だからさっぱりしたソースが美味しいけれど、これを単品で食べるとさっぱりしすぎていて満足感が足りない気がするの。ソースの下の部分はまったりしていて食べ応えがあるから、ソースは別の容器で出して、お客さんに好みの量をかけて食べてもらう、というのはどうかしら……と、思うのだけど……。」


正体を考えれば当然だが、ティアは料理には詳しくない。長々と語ってしまった後で素人考えが恥ずかしくなり、最後の方はアニスたちの反応を確かめるように尻すぼみになっていった。探るように上目遣いで4人の反応を待っていると、驚いたように目をぱちくりさせていたリズが、うなるような溜息をはいた。


「驚いたね、随分堂に入ってるじゃないか。なるほどね、ソースを分けるってのは良いかもしれないね。」

「なんだよ、ティア! 実はグルメだったのか?」

「そ、そんなことないわ。なんとなく、思ったことを言ってみただけで……。バステクトに来てから食べたこともないものばかりだし、美食家なんて、そんなものじゃ……。」

「うーん、でも、ティアの食レポはすごく参考になったなぁ! 確かに酸っぱさって好みがあるもんね。ね、また私の料理を試食してもらっていいかな!? お願いっ!」

「え、ええと……私で良ければ……。あぁ、私一人の意見だと偏りがあるかもしれないわ。マルクにも食べてもらって意見を聞いた方が良いんじゃないかしら。」

「お! 俺は大歓迎だぜ!」

「そう? じゃあ、マルクもお願い!」


なんとかアニスの恋を支援できた……と思う。横目でリズを見ると、イタズラっぽくウィインクを返してくれたので、なかなか良い応援だったようだ。

一方アニスはというと、さっそくマルクの好みのものを嬉しそうに聞いている。もしかしたら、アニスが手掛けるカフェのメニューは随分とマルクの好物が多くなるのかもしれない。


そんなワイワイとしたやりとりを見ながら、ソールは物思いに耽っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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