18
ふと、揺れる光が視界の端に入ってきた。
そちらを見遣ると、夕暮れで薄暗くなった森の中を、バステクトに向かって進んでくる光があった。
それを見ているティアに気付くと、ソールは表情を少し緩めた。
「ああ、保安調査隊が帰ってきたんだな。」
「保安調査隊? 街の取り締まりを行う組織ではないの? どうして街の外に?」
「保安調査隊はざっくり2つの部隊に分かれてる。1つはマルクが所属する、街中の取り締まりを行う警察部隊だな。もう1つがおれが所属する、バステクトの外での調査や害獣駆除なんかを行う調査部隊だ。“保安”と“調査”を担うから“保安調査隊”ってことだな。」
「二人は所属が違うから肩章が違っていたのね。」
「お、よく見てたな。所属が違うつっても割と役割分担は流動的でな。今日みたいにおれが町中での職務に当たることもあるし、逆も特段珍しいことじゃない。」
「とは言っても、そっちの部隊の手伝いをするのは魔力が多めの奴が多いけどな。俺は行かせてもらえなくってさ。」
「町の外か中かに、魔力の多寡が関係するの?」
「俺みたいに魔力が弱いと、町の取り締まりに丁度いいんだ。魔弾が人に当たっても致命傷にならないから。」
「逆に外だと魔力を要求されることも多いからな。ま、適材適所ってこった。」
「……ねえ、私は保安調査隊に入ることはできないかしら。私もソールと同じくらいの魔力だし、外の調査に興味があるわ。」
それはちょっとしたひらめきだった。森の様子がおかしいことも気にはなっていたし、町の外の調査をする仕事というのはそれを探るのにうってつけではないだろうか。それに多少の荒事があるようなソールの口ぶりではあったが、それは崩壊の性質の自分からすればちょうどいい。なにかが崩壊してしまっても、それは荒事の結果だ、と周囲が納得してくれるから。
「えっ!? ティアが同僚になるのは嬉しいけど、調査の方? 警察部隊の方が良いんじゃないか!?」
「まあ、さっき言った通り調査部隊に最近欠員が出たばかりだからおれとしたら助かるが……。 本当に町中じゃなくて外でいいのか? マルクの言う通り、中の方が安全だぞ?」
「ええ、もともといたところから歩いてきたのだし、町中よりも外の方がかえって慣れているわ。それに、所詮よそ者で外から来たばかりの私が取り締まりをしたって、よそ者が偉そうに、って思う人もいるでしょう。それなら、危険だという仕事に従事してバステクトの人の信頼を得た方が、私としても今後過ごしやすくなると思うもの。」
正直いうと口から出まかせもいいところだが、街の外を「歩いてきた」というところ以外に嘘は言っていない。マルクはまだ不満がありそうだが、ソールは少し考えると納得したように頷き、とりあえずは仮預かりということで自分の隊に入れてくれる、と言ってくれた。
「さて、今日の案内はこんなところか。また分からないことがあったら案内するから、おれかマルクに言ってくれ。」
どこかで聞いたことがあるようなセリフで中枢区の案内は終了となり、お待ちかねの歓迎会に向けて足取りも軽く、リズとアニスが待つラ・カンテへと戻るのだった。
ラ・カンテに戻ると、いくつかのテーブルが寄せてあり、その上にすでにたくさんの色どり豊かな料理が並べられてあった。
「あ、おかえりなさい! もう殆ど準備もできてるよ。」
「おお、うまそうだ。いやー、ティアが来てくれて良かったなー。」
「なに調子良いこと言ってんだい。そら、飲み物の準備くらいしな。ティア、中枢区はちゃんと案内してもらえたかい?」
「ええ、おかげ様で。商業区とは随分と雰囲気が違うから驚いたわ。」
「まあ、そうだろうね。さ、主役は手だけ洗ったら座ってな。手洗い場はあっちだよ。」
「え、そんなわけには……。と、とにかく手だけは洗ってくるわ。」
と言って戻ってきたときには更にたくさんの飲み物も並んでおり、やることはほとんどなくなってしまっていて、結局まごつきながら飲み物をグラスに注いだだけで、宴は始まってしまった。
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