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中枢区は商業区に比べると文明が大きく進んでいる、という印象で、大きな四角く白い建物が乱雑に並べられ、その間を埋めるように巨大な煙突がところどころに建っている。建物の間には列車の上に通っていたような魔道線が幾重にも張り巡らされ、商業区では見なかった機構に魔力消費量の多さが伺える。魔道線の枝分かれを辿っていくと、背の高い円錐の建物に行きつく。あれが魔力を「作って」いる場所だろうか。
足早に行き交う人々の顔は無機質で、人間らしい感情に溢れた商業区の活気さとは無縁のようだった。彼らはすれ違う人にも目もくれず、各々の目的の建物に素早く入っていく。あれらの建物は一体何だろうか。ソールの話ぶりからも感じていたことではあったが、実際に目の当たりにすると、中枢区の住人と商業区の住人はハッキリ分かれているというのに納得する。同じ町なのにどうしてこんなに違うのだろう。
疑問は尽きず、今ここで質問してもキリがなさそうだ。一旦ソールの案内を聞き、それでも解決できなかったら改めて尋ねることにした。
「まずは役所にいって魔力測定と住民登録だな。こっちだ。」
そういってソールは歩き始めた。マルクとティアもそれに続いて歩き始める。
「魔力測定はどうやってするの?」
「簡単だ。装置に手を当てるだけでいい。不安であればおれが手本を示すから、それと同じようにやりゃいい。」
「ソールは商業区の中では魔力が多いほうだからさ、測定器の光が強いんだよ。俺はちょっとしか光らないのになぁ。」
リズのお茶と列車での爆睡でやや回復したマルクが口を挟む。よくは分からないが、魔力量に応じて光の強弱が変わるようだ。
「バステクトの人たちは全員やるのかしら? 何のために?」
「ああ、基本的には学校に入る前、普通であれば2~3歳のころに全員測るな。とはいえ、基本的には親が魔力を使えればその子どもの魔力がゼロ、ってことはないから、あくまでも確認だな。中には魔力がないはずの子供が魔力持ちだったんで、浮気がバレたって事例もあったそうだ。」
それは笑えない話ね、とティアは苦笑を相槌とした。
「魔力の有無は直接就ける職業に関わってくるからな。中枢区の仕事は基本的にはかなりの魔力量がないとダメだ。多少魔力がある程度であれば運転士や技師、保安調査隊で優遇される。魔力が全くなければ、農業をやったりウチのみたいに食堂をやったり、だな。」
「技師や保安調査隊で優遇されるのはどうして?」
「さっき魔石の話をしたろ? 同じように魔石を動力としている装置も珍しいがなくはない。多少魔法の心得があった方が、対応できる案件が多くなるからな。保安調査隊の場合は単純に装備の問題だな。」
「装備?」
「飛び道具がな。持ち運べる矢の本数には限りがあるし、作るのにもコストがかかる。それだったら魔弾を飛ばして攻撃する方が数に制限がなくて安上がりってわけだ。」
「矢? 弓矢ってことよね? 銃は使っていないの?」
「銃……? ああ、たまに発掘されることがあるやつだな。詳しくは知らないが、見たことはないな。」
ふうん、と曖昧に相槌を打つティアの胸には、人間は千年以上銃を手放さなかった割には、随分とあっさりしたものね、という違和感が去来した。だが、ソールが足を止めたため、その違和感をじっくり捉える暇はなかった。
「ここが役所だ。」
役所の中には長いカウンターがあり、カウンターの向こうに所狭く並べられた机で、職員が多くの書類と格闘している。カウンターのこちら側には椅子が並べられ、いくつかの座席では町民が名前を呼ばれるのを待っていた。役所には商業区の住人も来るという話だったが、だからだろうか、駅に出た瞬間に感じた中枢区の無機質さは幾分か和らいでいるように見える。
ソールはずんずんと進んでいくと、「住民課」と書かれたカウンターの前で立ち止まり、そこに立っている職員に話しかけた。
「移民だ。魔力測定と住民登録を頼む。今は寮を仮住まいとしてるから、保護済みの様式でよろしく。」
「かしこまりました。それではこちらの番号札を持って測定室へお進みください。」
ソールは数歩離れたところで待っているティアとマルクに振り返ると、身振りと目線で「着いてこい」と示し、さらに奥へと進んでいった。ちら、と隣のマルクを見上げると頷くので、ティアもソールに従って進んでいく。行きついたところは小部屋で、部屋の真ん中には大きな水晶玉のようなものが台座に置かれている。数分待っていると、たれ目の如何にも人の良さそうな職員が部屋に入ってきた。
「いや~、お待たせしました。本日の測定員のメージです。番号札をお見せいただけますか? ……はい、21番、と。では水晶玉に手を当ててください。」
いまいち要領を得ず、ソールの顔を見上げる。
「これがさっき言った測定器だ。魔力があれば水晶玉が光るし、なきゃなんの反応もない。」
「言われただけだと良く分かんないだろ。こんな感じだ。」
横から口を挟んだマルクが水晶玉の前に進むと、軽く広げた手のひらを当てた。すると水晶玉が青く弱弱しい光を放つ。
「驚いたわ。これ、何でできているのかしら。」
「これもさっき話したな。ざっくり言っちまえば魔力を動力源とする光源装置だ。手を当てた人間の魔力量に応じて段階的に光量が変化するようになってる。魔力がないと光らないのを逆に利用したモンだ。」
「ソールはどのくらい光るの?」
ティアの質問にちょっと片口を上げて応えると、ソールが水晶玉に手を当てる。マルクが話していたように、さきほどよりも強い光が放たれる。
「結構違うものね。」
「な? ソールの魔力、結構スゴイもんだろ?」
なぜかマルクが誇らしげにソールの魔力量を自慢してきたところで、メージが咳払いをしてきた。
「さて、そろそろ測定をいいですかな?」
「ごめんなさい、待たせてしまったわね。物珍しかったものだから。」
いよいよティアが水晶玉の前に進む。
問題はどのくらい光らせるか、よね。
おそらく何もせずにそのまま手を当ててしまうと、これまでにないほどの強い光になってしまうだろう。魔力量が重要な意味を持つこの町で、それは厄介なことになりそうな気がした。かといって魔力が全くないというのも、なんとなく神としては癪に障る。いろいろ考えた末、ソールと同じくらいの魔力量に見せかけることにした。
手のひらの表面の組織を崩壊させ、水晶玉になるべく魔力が伝わらないようにする。何層か崩壊した組織を重ねて―たぶん、これくらいが良い具合のはず―
水晶玉に手を当てると、思惑通りソールと同程度の光が出る。
「おお、これはなかなかですね。ソール隊長と同程度とは。」
「ティアも魔力強いんだなー! 羨ましいよ。」
「魔力測定は以上で終わりです。はい、こちらの書類をカウンターに提出してください。」
メージは測定結果を記した書類を手渡し軽く一礼すると、足早に部屋を出て行った。
「おれたちもさっさと行くぞ。これから中枢区の案内もせにゃならんのだ。役所にいつまでも居てもしょうがないからな。」
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