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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
16/63

15

食事が終わり一刻ほど経った頃、店の入り口が開く音がし、二人連れの男が入ってきた。

一人はマルクだ。


もう一人はくすんだ根岸色のくせ毛を無造作に流したたれ目の男で、細い顎に無精ひげを生やし、体格はマルクよりもやや低い身長だが、よりがっしりとしている。揃いの保安調査隊制服を着ているが、肩章の色がマルクとは異なっていた。


「お、おかえり。ちょうどご飯食べてゆっくりしていたところさ。ティア、紹介するよ。こっちがウチの旦那のソール。今日の案内を頼んだから、なんでも聞いてやんな。」

「……あんたがティアか。話はリズに聞いてる。今日は中枢区を案内する。移民の保護も保安調査隊の仕事のうちだから、気兼ねしなくていい。」

「ありがとう、よろしくお願いするわ。」


「……ねえ、マルク、大丈夫?」

おずおず、といった様子でアニスがマルクに話しかけた。

それが聞こえて初めてマルクの様子を窺ってみると、目は半分しか空いていないし、奥歯で何度も欠伸をかみ殺しているようだった。


「あー、昨日、ティアをここに案内したあと、こいつもずっと一緒にいたろ? 町のパトロールのあと、昼休憩後は別の仕事が割り振られてたんだが、こいつが交代に来なかったんだよ。交代できない前の当番の奴がカンカンでな、当然だが。そいつとシフトを交換したんで、こいつはほとんど寝ちゃいないんだよ。」

「ええ、無理しない方が良いんじゃないの?」

「いや……だいじょぶ……自分のせいだし……」

「甘やかすなよ、アニス。これは懲罰の意味合いもあるからな。まったく、くっちゃべってて仕事ほっぽりだすバカがどこにいるんだ。」


溜息をはき眉根を寄せ、呆れた様子でソールが事情を説明する。

マルクの肩を持ちたいアニスは当然同情的だが、口調からしてマルクよりは上の立場にいるのであろうソールは厳しい。


リズはやれやれと苦笑して席を立つと、ほどなくして湯気の出るカップを二つ手にして戻ってきた。

「ほれ、そんなんじゃティアの案内もマトモにできないだろ? しっかり濃いめに出してやったから、お茶でも飲んで少しはシャキっとしな。」

「悪いな、リズ。……うっへ、本当に濃いな。」

「はは、ソールもオマケだよ。」

「うう~~……目が覚める~……」

「……マルク、ほんとに大丈夫?」



お茶を飲み終えると、ティアはソールとマルクに従い、店を出て中枢区に向かい始めた。


「中枢区へは列車で向かう。これは中枢区と商業区を結んでいてな。中枢区の連中はこっちに買い物なんかに来るのに、おれたち商業区の人間は役所や病院に行くのに使う。ティアのところでは列車はあったか?」

「いいえ、知識としては知ってはいたけど、実際に乗るのは初めてよ。これは何で動いているの? 蒸気で動いているようには見えないけれど。」

「蒸気? ……ああ、ティアのところでは魔法がなかったって話だったな。これは魔力で動いているんだ。ほら、窓の外……列車の上に紐みたいなのが通っているのが見えるか? あれは魔導線で、中枢区で作られる魔力を通してるんだ。あそこを通ってきた魔力を、列車に備えられた魔石で受け取って動力としている。」

「魔力を作るの? どうやって?」

「さあ、そこまでは知らん。」


魔力というものは “作る” ものではなく、“そこに在るもの” だ。魔力を作るというソールの言はあり得ないのだが、ソールに詳しい説明を求めてもこれ以上の情報を得られそうにはない。であれば、そのほかの疑問を解消すべく質問を変えていくべきだ。


「……そう。ほかには魔力はどんなものに使われているの?」

「身近なところだと水道だな。水道ポンプの動力に魔力が使われている。」


話をしながら切符を買い、改札を通る。駅員に切符を渡すと、カシャン、と切符に穴を開けられた。どうやら使用済みの証らしい。


「レバーを上下するだけで水が出るなんて魔法みたい、と思ったけど、本当に魔法が使われていたのね。驚いたわ。そういえば考えていたのだけど、水は簡単に得られてすごく便利なのに、夜の灯りやかまどは薪やろうそくなどを燃やしているのよね。そういったものも魔法でどうにかできないものなの? そちらの方が便利でしょう?」


まもなくやってきた列車へ乗り込む。人はまばらで、細長く向かい合った座席に座っている人も少ない。

ティアは列車の中でどう振舞えばいいのかキョロキョロと落ち着かない様子だったが、どっかと座り込んだソールに促され、その隣へと座った。マルクもふらふらと、ソールの逆隣りに座る。マルクの座った位置は座席の端で、座ると同時に横にある仕切り板に体重を預けていた。


「確かにそっちの方が便利だろうな。実際、保安調査隊に支給されているものの中にはそれに近い装置もある。ただ、そこまで回すほどの魔力がない。単純に優先順位の高いものから魔力を回しているってだけだ。中枢区の魔力の豊富な連中は自前でそういうものを使ってるかもしれんが。」

「なるほど。ソールは魔力が多いと聞いたわ。灯りをつけたりはできないの?」

「まあ、魔力で動くタイプの光源装置を光らせること自体はできる。ただしおれの魔力だとずっと動力部に触れて魔力を流しつづけないと光らせ続けることはできないな。それじゃ両手が塞がっておれ自体が装置の一部みたいになっちまうだろ。魔力を貯めこんだ魔石を使えばそのへんも解決するが、ありゃ高いからな。おれじゃ魔石の魔力補充にも限度があるし、結局直接何かを燃やすのが手っ取り早いのさ。」

「ふぅん。そういうものなのね。」


「……と、着いたな。おい、マルク、いつまで寝てんだ。着いたんだから起きろ。」

「んが」


口調こそ乱暴だが肩を揺すって起こしているし、そもそも懲罰と言いながら列車で爆睡するのは見逃しているところからして、ソールだってなんだかんだマルクに甘いな、と思う。

列車の降り方も知らないので二人の半歩後ろを進み、駅を出ると中枢区の景色が目に飛び込んできた。

読んでいただきありがとうございます。

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