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ネムリバナ  作者: AOI
一章:トキワタリの塔
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ティアが借りている保安調査隊の寮は町の南側にあるため、おのずと北上しながら町を見て回ることになる。


「さすがに町の全部は案内できないし、今日は生活の上で優先度の高いところから見ていきましょう。まずはパンよね。こっちに美味しくて安いパン屋さんがあるの。」


そう言って寄ったのは、寮の斜め向かいにある路地を少し入ったところにある、こぢんまりとしたパン屋だった。看板も控え目に出ているだけなので、教えてもらわなければ気付くこともできなかっただろう。


「こんにちはー。ご無沙汰してます。」

「あら、アニスちゃん、うちまで来てくれるの、久しぶりじゃない。どうしたの、もしかしてウチのパンに何か問題あった?」

「あはは、違いますよ。グレートブレッドさんのパンはお店でも評判ですし、私も大好きです。今日は昨日バステクトに来たばかりの移民の方に、町を案内してるんです。」

「あら、そうだったの。」

「はい、こちらが移民のティアさん。ティアさん、このお店はうちの店にパンを卸してくれてるの。グレートブレッドさんがうちの店を支えてくれてると言っても過言じゃないわ。」

「それは過言だわよ、アニスちゃん。えーと、ティアちゃんね、あらま、随分と別嬪さんねえ。うちのお客さんになってくれたら嬉しいわ。若い男性のお客さんが増えるかもしれないもの。」

「もう、勝手にティアさんを看板娘にしないでくださいよ。ね、ティアさん、明日の朝ごはんが決まってないなら、買っていっちゃいましょう。」


手頃なパンを選んで会計をお願いすると、おかみさんがもう一つパンを紙袋に入れた。

「あの……? そちらのパンは選んでいないのだけど……」

「オマケよ、オマケ。アニスちゃんのお友達みたいだからね。ウチの味が気に入ったらまた来て頂戴ね。」

「えっと……それじゃあ、ありがたくいただくわ。明朝が楽しみになったわ。」

わざとらしいウインクとともに紙袋を渡され、初めてのことにぎこちなく礼をする。おずおずと紙袋を受け取るティアを見て、おかみさんは満足そうに頷いた。

「おかみさん、ありがとう! また来ますね。じゃ、ティアさん、次のお店に行きましょうか。」


このあとも、アニスはお店の仕入れ関係の店や、アニス自身のお気に入りの店などを紹介してくれた。

リネン関係、食器や調理道具、服飾、薬局、雑貨、薪に、それから八百屋や総菜屋。

どの店も基本的には大通りから路地に少し入ったところにあり、ジグザグと大通りを縫うように進んでいく。アニスはどの店でも店主たちと親し気に会話をしており、彼女が誰からも好かれていることが伝わってくる。


いくつかの店を回ったあと、一度荷物を置きに寮まで戻り、ソールとマルクとの待ち合わせ場所であるラ・カンテへ行くのに、再び大通りを歩く。初日に見たとき同様、相変わらず出店とそれを眺める客で賑わいを見せている。


「この町に来た日に、大通り沿いの出店が賑わっていたから、てっきりみんなそこで買い物をするのかと思ったわ。アニスさんは、あまりそういった店は使わないの?」

「たまに使うわ。取れたての野菜やお肉なんかは出店で買うこともあるかな。でも、ああいうところってやっぱり流行があって。いつも同じ店が出てる訳じゃないから、生活基盤にはしづらいの。そのぶん、その時限りって楽しさもあるから、ティアさんも慣れてきたら見て回ると楽しいと思うよ。私も流行りの甘味とか小物とか、ついつい買っちゃうし。」


なるほど、流行。

どの時代の人間も、熱に浮かされたように同じものを求め、熱が冷めたらすっかり忘れて見向きもしなくなるあの現象。かねてから不思議だと思っていた人間の習性だが、自分がその当事者になるかもしれない可能性に心が浮つく。


「今は何が流行っているの?」

「今は小さい焼き菓子が流行ってるわ。片手で持てるくらいのカップにたくさん入ってて、摘んで食べられるの。口元を汚さずに食べられるから、街歩きとか読書とか、何かしながら食べるのにちょうど良いんだよね。」

「へえ……興味深いわ。少し余裕ができたら食べてみようかしら。」

「ふふ、流行りが終っちゃう前に食べなきゃだね。……ああ、そうだ。ティアさん、この道の奥にあるブロック、見える?」


アニスは他の通行人の邪魔にならぬように道の端に立ち止まり、ティアを呼び寄せると、大通りからの横道のまっすぐ奥を指さした。奥にはどこか怪しげな雰囲気のある区画があり、昼だというのに薄暗い印象すら受けた。


「……ええ。突き当りの一画のことで良いのよね? 灰色の塀の向こうの、低い建物がみっちりしている。」

「そう。あそこはね、なんて言うか、あんまり治安が良くないところなの。昼でも要注意だけど、特に夜になったら一人で近づかない方が良いわ。」

「分かったわ。ありがとう、可能な限り避けるわね。」

「ええ、気を付けてね。……と、いうわけで今日の案内はこんなところかな。また分からないことがあったら案内するから、いつでも言ってね。」


アニスのにっこりとした笑顔で町案内は終了し、再びラ・カンテへ向かって歩き始めたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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