表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

空に消えてゆく

作者: 神埼魔剤

「先生、とっても綺麗な空ですね。私、屋上に来たの初めてです。」

あぁ、君のその笑顔、僕だけに見せて欲しいよ。でもこんな事言ってしまったら、君のそばにいられなくなってしまう。だから僕は感情を隠し、この気持ちを悟られぬよう「あぁ、綺麗な空だな。」

そう一言だけ呟いた。


彼女の担任になってから気になったことがある。彼女はいつも空を眺めている。

授業中だろうと、下校時間の過ぎた後だろうと、窓の外を、空をひたすらに眺めていた。

悩み事でもあるのかと思い、尋ねてみたことがあったが、彼女は笑って

「空が好きなだけですよ」

そう答えた。本当に空が好きなだけなのだと、その時は深く考えていなかった。彼女の腕に広がる赤い線を見るまでは…



数ヶ月ほど経ち、彼女は頻繁に

「先生、空の中に消えるのってどんな感じなんでしょうね?」

と尋ねてくるようになった。

彼女に悩みがあるならば解決してあげたい、彼女が心配でならなかった。



ある日、彼女は泣きそうな顔で

「先生、屋上に行きたいです。」

そう訴えかけてきた。


必死に涙を堪え、そう訴えかける彼女の願いを、僕は断ることが出来なかった。


いつもと様子の違う彼女をよく見ると、服の下に沢山の包帯が巻かれていた…


「先生、私ね好きな人が居るの、でもその人は私になんて到底手の届かない相手でね、私が気持ちを伝えると迷惑かけちゃうの…

だから、死ぬまでこの気持ちは伝えない事にしたんだ」

そう笑いながら話す彼女に僕は掛ける言葉が見つからなかった…


「さ、着いたぞ、屋上」


掛ける言葉が見つからないまま屋上に着いてしまった。


「好きな人には死ぬまで気持ちは伝えないって言ったけどね、私、ここで死ぬ予定だから伝えちゃうね、私、先生のことが好きなの…でも付き合って欲しいとは言えない、先生に迷惑かけちゃうから……」


屋上の柵を乗り越えながら話す彼女を僕はただ、呆然と眺めていることしか出来なかった…


「それじゃあ先生、さよなら……」


今にも飛び降りそうな彼女を見て、やっと目の前の現実が理解出来た。


止めなければ…


それでももう遅すぎた、制止の声など聞こえないという顔で、目に涙を浮かべながら、彼女は地面へと吸い込まれていった。


落ちてゆく彼女に向かって僕はひたすらに自分の気持ちを叫んだ。

今更伝えても遅すぎる、そう分かっては居たが、1度出た言葉はもう留まってはくれなかった……


辺りにはグシャッっという鈍い音が響いた。



それから何度目かの春を迎え、彼女の墓参りに来ていた。


「これからも君の事が好きだ。これから先、彼女を作る気も結婚する気も全くない。君を愛しているから…」


彼女の墓に向かってそう呟いた、返事なんて返ってくるはずがないのにな、そう思い帰ろうと彼女の墓に背を向けて歩き出したその時


「私も先生のこと、ずっと大好きですよ」


と、彼女の声が聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ