怪異の解明
まずは、ここの鳥居と神社について調べる。
神社に必要なモノは自然なモノや神様が宿ったモノ、様々あるだが、ここには鏡だけだ。
中に入ったのは卑弥呼とディダだけ、光喜は体が痛いので暫く休むとして他はそれぞれ見て回ってくれている。
「依り代だけね。他に何かあると思ったけど?」
「うーん、これは帰る為に必要なものだと思って良いんじゃないかな? 鏡の中僕ら映ってない代わりに現世が映っているだけじゃなく、銃木の葉っぱも落ちてる」
よく見ると暗いが街灯や若干車も走っていたり、民家の電気の光が映っていた。
「ならアイツら鏡壊さずに逃げてくれたって考えれば良いわね」
普通に閉じ込めて逃げれば良い様なとも考えるも、ディダは違う考えを持って言う。
「むしろ壊したら境目消えて返ってあっちも危険に晒しちゃうところだったかもよ?」
「仮に大丈夫だったにせよ、怪異がここの土地を溜まり場にしている以上、結局良くない事が起きていた筈よ」
この異世、森沢の言っているのが正しければ、良くない場所だったのを力のある誰かが怪異だけを招き入れ、閉じ込める為だけの世界なら下手に壊してしまえば、せっかくの循環を止めてしまうだけではなく作ったのなら壊れた時に何が起きるか分からないのまである。
仮に大丈夫だったにせよ、今後この町は人が住めなくなるだけでなく、一定数の人間を贄にしていくと言う形が取られるかもしれない。
「で、他の皆はどうだろう?」
皆を心配している間、卑弥呼はもっとも気掛かりな件、それはあの公園がこの異世に招き入れる事だ。
「あの一番気掛かりな公園の、しかも特定の年齢層と素行不良だけ招き入れるって奴が気になっているのよねぇ」
「多分、誰かが弄ったんだろうね」
「そうじゃなきゃ、こうはならないでしょ」
絶対誰かが意図的に弄った、それはもう間違いない。
ただそれよりもディダはある憶測を立てていた。
「もっと考えるべきは、どっかでガス抜きさせるか、本来ならここトンネルだったんじゃないかってのも考えてるんだ」
「トンネル、どうして?」
「こんなだだっ広くも運よくこの神社に辿り着いた時から思っていたんだけど、これ元々他にも神社があって、ここが入口なら出口の神社があっても不自然じゃないだろ?」
「まぁ憶測って事で」
「憶測の域が出れば確信がつくんだけど、あっちは見つけてくれるかなぁ」
ジャンヌは1人で沢山の祠を見渡し、あの公園の場所の祠を確認していた。
やはり壊れているが、他を見れば、壊れた祠の真上に祠が建っていたり、なんなら道として見ていた箇所も潰れた祠の破片的なものがびっしりだ。
「……ふむ、一応時代に合わせて構築しているから入口として見るべきなんだろうか」
だがやはりどうやってここへ招き入れる構造になったのかが分からない。
こうなれば、壊れた祠を触って確認するしかないようだ。
ジャンヌは恐る恐る手を伸ばした時、急に後ろから誰かが声を掛けた。
「そっちはどう?」
「うわあぁ! あっ……」
思い切り踏んづけてしまった。
壊れた祠を――。
「ディダ、あんた声かけるタイミング計っただろう?」
声の主は勿論ディダだ。
「そんなぁ、僕そういう意味でやったわけじゃないよ」
この昼行灯と言いながらジャンヌは言う。
「ならなんで掛けた! こっちは踏んじゃったんだぞ!」
「大丈夫だよ、そこ使ってない公園だし、入って来るのは生きた人間だけだしきっちり壊れればもう入れないでしょ?」
言い方が気に食わない。
「卑弥呼と話したい!」
「卑弥呼ちゃんは光喜君の具合見てくれてるから無理」
もうと怒って、すぐに鳥居前まで行けば、光喜が暴れていた。
「痛い痛い! 無理! 放置でお願いします!」
どうやら術を使い、負傷した部分を治している最中、しかも相当痛い様だ。
「だーめ! 最初は人間より鬼に近かったけど、2回目は大分人間側だったからここで治しちゃいましょ」
「だ、だったら現世に戻ってからでも」
「ディダの言い分しか分からないけど、ここだからこれで済んでるってだけでこのまま戻ったら下手すると死ぬわよ」
「ひぃぃ!」
確かにあれだけ負傷したディダがピンピンしたままなのだから、きっと戻れば危ないのは間違いないだろう。
「もう大丈夫か、光喜? 休憩させてたがやはり治さんとな」
「すいません、迷惑かけてしまって」
しょげてしまっている光喜をよそに、ジャンヌも自身の用事を卑弥呼に相談。
「構わないが、その卑弥呼、実はボク、壊れた祠を踏んでしまって」
踏んだ足を見た卑弥呼は何かを察した。
「ちょっと見せて……あぁなるほど、それじゃ私も一緒に行ってあげるから、光喜君はこのまま居てね」
「はい、すいません」
2人が壊れた祠を再度見に行く中、光喜は治った体を動かす気もなれず、ただただ寝て待つことを選ぶ。
人間で寝ていられるだけまだいい方かもと考えた時、何故かディダが立っており、聞こうとする間もなくなんかとんでもない事を言い出した。
「暫くここを修行地にする!」
それを知ってか知らずか、マルスはくしゃみした。
「ぶっしゅっ!」
一が心配しながら辺りを見渡す。
再度あの砂漠へと今度はマルス達と来た。
「大丈夫かぇ? まさかまた砂漠へとひた走らされるとは思いもよらなかった」
「でも走ってくれてるのは土鬼だからいいじゃないですか」
「ももももも――」
土鬼が乗せてくれているお陰で、かなり奥まで来ており、何も無い砂漠の世界だ。
それでも星も月も無いのに明るさがあり、これは精神がやられても無理からぬ事。
だが、奥に同じような、いやただただ大きな大きな鳥居だけ立った場所が見えて来た。
「まさかこんなコレが出口?」
「怪異のな、多分人用じゃない、見てみぃ誤って入った連中が鳥居に群がり、提灯なのか分からんが灯火を持った連中は鳥居に入って行く」
少しだけ近付けば、人だったモノは皆必死に通ろうとするが、何かに弾かれ、逆に人ならざるものは何かを持ってそこを通り過ぎていた。
「なら、ディダ神父の言う通り、出口があるんだ」
「神社違いであの社が人間用の出入口って事か」
ここで本来なら誤って入った人間をその管理する人間が迎えに来て戻るシステムだったのだろうが、もう長年誰が見ていたかも分からない状態へとなり、挙句誰かの手によって改造されてしまったのだから、専門家に一度依頼して見てもらうしかないだろう。
「多分ね、でも本来ならメンテナンスする人間が居てもおかしく無いから……で、一さん」
マルスがじっと一を見ている。
見られている自覚は、ずっとあった。
だからか妙な硬さで受け答えする。
「はい、なんでしょうか?」
「あんたちょっとおかしくないですか?」
少しドスが聞いた声に一はつい声を荒げようとした時だ。
「はぁ!? なんでや? どこも――」
「なんか見えた! なんか一さんの首筋から見えた!」
普通、何の話かと分からないし、しらばっくれる事だって出来た。
が、一は慌てふためいたのだ。
「なぬ!? あんバカ出るな……と」
単に嵌められたようで、嵌めた側のマルスが怖い。
「よし、話して貰おうか」
「ごっつおっかな!!」
そんな声は響いたのか、ジャンヌが真っ暗で何も無い空を見た。
「んっ? 今一の声が聞こえたような……?」
「気のせいじゃない? ここ踏んじゃったの?」
「そうだ、アイツに驚かされて」
「あーでも触っても大丈夫そうだし、踏んだくらいでは呪われたり帰れなくなったりしないから安心して」
「良かった……でも、何を見て」
「まぁなんか、痕跡みたいなのも付いて来てたから、ちょっと上げて見ようかな?」
「うわぁ、日本人は怖い生き物だ」
上げてみると血で事細かに説明と理由が書かれていた。
内容はこうだ。
いち、この敷地を住処にしない。
に、この敷地で素行の悪い事はしてならない。
さん、あくまで子供と親だけが使える。
よん、遊び半分で遊具を壊してはならない。
ご、夜徘徊してはならない。
掟を破ったモノは穴へと落ちる。
「――か、確か町会会長が最後だから、もしかすると」
なんとなく、原因作った人間が誰か分かってしまった。
「町会会長がやって墓穴掘ったか?」
最後に居なくなった人間が止めていなかったら、ここまでの被害もなかった筈だ。
卑弥呼もこればかりは憶測で話すがほぼ確信だった。
「多分ね、もう少しあの頃の事情知ってる人間がいれば確信付くけど、あそこまでなって閉鎖せず、結局町会会長が行方不明になって漸く閉鎖だから町会会長が止めてた可能性があるわね」
「これ、改めて聞くが踏んだが大丈夫なのか?」
やはり呪われないか、あの戦乙女として名高いジャンヌですら日本の呪いは怖いモノと認識しているようだ。
「大丈夫だって、これ流せるか問題だけど」
「血で書くってよっぽど腹立ってたんだな」
先程の行方不明になる理由とここに書いてあった内容でほぼ合致するのだから、かなり迷惑だったのだろう。
「でも人を呪わば穴二つ、結局自分も招かれてしまった」
きっと自分自身も迷惑なモノとして攫われるとは思っても見なかったに違いない。
卑弥呼的にこれはもう少し内容や決まり事を決めていれば、変な場所から招かれることもなく、大人2人のいる光喜だけちゃんとその場所まで行けたのもあやふやだったと考えざるおえないのだ。
そして1番の功績と言えば、土鬼だろう。
「今回は土鬼が居たからここまで来れたが、いなかったら詰んでたな」
「移動手段は大事、これだけは本当心の底から感じたわ」
先程の巻き込まれはいただけないが、コレだけは言える。
砂漠や森に置き去りにされ、歩き続けなければ、尚且つ方向も光も無い場所、精神が死んでもおかしくは無いだろう。
そうしみじみ2人が感じていると、神社で何か衝突みたいな衝撃が響き渡る。
「な、なんだ⁉︎」
「ディダと光喜だわ。きっと、大丈夫と踏んで修行を始めたんだわ」
知ってはいた、彼を巻き込んだ理由は修行の一環と鬼になれる条件を見つける事。
今回、ここがちょうど良い環境だった事と条件2つを運良く出来たと言うのだから、暫く、いや今後ここを活用して修行するだろう。
頭が痛くなってきた。
「どうする、一旦止めた方が良いか? まだまだここは解明出来ていないのだから」
「そうね、下手にさせると帰れなくなりそうだし」
社を壊されたらたまったものではない。
鳥居のところまで戻ってみると案の定光喜が鬼となってディダとやり合ってるではないか。
「ぐ、ぐ……」
「うーん、まだちょっと意識が本能にやられてるなぁ、もっと意識持って」
ディダは普通に自身の刀を持たずに素手でやっている。
「ちょっと! せっかく治したのにまた怪我させたわね‼︎」
「大丈夫だよ、後で治すし」
一体どう治す気だとは言わず、卑弥呼はすぐに止めるように言った。
「あんたの治すは自分で治しな、早く止めて! マルス達が戻ったら帰り方調べるから! 行き来確認してからして!」
「分かった……よ!」
襲って来た鬼に対し、回し蹴りで蹴り飛ばた。
鬼だった光喜は再度元に戻る事が出来たものの非常に痛い思いをした。
「――痛っ!」
卑弥呼はそれをみて言う。
「戻し方も本当に雑」
「まずは覚醒と戻る方法の確立だね」
そんな事よりもまずは帰るべきだろうとジャンヌは言った。
「いやいや、それよりもう戻った方が良いだろ。ザフラ達が待ってるんだから」
「そうだねぇ」
一体何時間経ったのか分からないのだから、まずは戻るが正解だ。
同時に放ったらかしになっていたディダの体に対し、卑弥呼は小瓶を渡す。
「それに、あなたは帰る前に一度飲みなさい」
「はい、忘れてました」
渡された小瓶を開け、一気に飲み干した。
それを見てると、傷口はみるみる塞がり、他にも多少の傷跡ですら治って行くのだ。
光喜はゆっくり起き上がって聞く。
「凄い、血なんですよねそれ?」
「うん、ちなみに無理矢理治してもいるからどのみち痛い」
「痛いんですか」
「光喜君だって治して貰ったでしょ? 魔法で治したり薬で一瞬で治したりする話あるけど、痛くないまま治せるなんてフィクションだよ。絶対治癒痛あるもん」
この時のディダの顔はかなり真剣そのもの、きっと何度も何度も経験した者の顔だ。
先程の治癒の術を施された光喜も分かる。
かなり痛かった……。
卑弥呼は咳払いして言う。
「最近の漫画、小説はそこ書いてるから」
無理矢理治しているのだからそりゃ痛いし、下手な人間が治癒をすれば、もっと激痛が待っているのを卑弥呼は知っているがそれ以上は言わなかった。
「マルス達が戻って来たら帰りますか」
「そうそう、そうじゃないとね」
丁度そこに土鬼がマルス達を乗せたまま帰って来る。
今回の怪異の話はディダ曰く、怪異や霊の類の集まりやすい土地に抜道を作った異世で、町内会長がどこで知ったのか、そこに細工したのがそもそもの原因とし、今後その細工の除去を考えるとの事だ。




