鬼に金棒
一の第一声。
「なんで今度はコイツとやらなぁならんの‼︎」
光喜は鬼化し自我を失い、雄叫びを上げた。
こんな状況、冷静にはいられないだろう。
2回目なのでディダと卑弥呼はなんか余裕だ。
「たまに関西弁出るけど何で?」
「新撰組が京都に居たからじゃない?」
初めて見ている筈なのに、ジャンヌも意気揚々と一の過去を話し出す。
「ボクは知ってるぞ、復活後は一時地元に戻って農家してたが、ある時京都にも住んでたせいで残ったって日向が言ってた」
流石にツッコミ役のマルスが止めに入る。
「いや、君ら良い加減、この状況で遊ぶの止めない?」
木にめり込んだ森沢が顔を抑えながら起き上がって言う。
「お前ら、本当に何なの? 遊びなの?」
怒りたい気持ちとツッコミたい気持ちの瀬戸際に、ディダが止めを刺す。
「気持ち分かるよ。でも、こうでもしないと君と渡り合える気がしなくて」
「アホばっかりだなおい! ……どうしよう、真堂さんに怒られるぞコレ」
またもや真堂と言う名前が出る。
もしも、その真堂が穏喜志堂の上に立つ者なら、何か知っているに違いない。
一はその真堂について話を聞く為、森沢を叩こうとするが、当の森沢はもう帰る気だ。
「お前叩けば、その真堂について話が聞けそうだ」
「もう帰るよ、鬼化しても制御出来ないならこっちも1人じゃ対処出来ないし、逃げるが勝ちって事でじゃ」
「逃がさん‼︎」
「はいはい、銃木煙幕」
ずっとヒレで往復ビンタをかましていた土鬼に銃木は真上に何かを上げる。
皆、つい上を見てしまう。
「なぁ⁉︎」
落ちてくる物は途中で弾け、一瞬にして煙が充満する。
慌てて森沢を探すにも煙を吸い込んでしまった皆は咽せた。
そんな中、光喜基、鬼が森沢に向かって行く。
顔は結晶に覆われ、肉体も変化しながら森沢がいるであろう場所を殴ると、一気に煙幕は吹き飛び、煙が無くなる。
が、森沢も銃木ももう居ない。
「アイツら逃げたんか⁉︎」
回りも確認するが、卑弥呼は何かを見て分かっていた。
「近くに潜んでたら光喜君にバレるでしょ」
マルスも鬼がこちらに唸り声をあげているのが見える。
「なら、もう居ないみたいだね、思い切りこっちに殺意剥き出してるし」
一がある事に気付いてしまう。
「刀持たせたいから腰に付けるのあげたんだが、変な所にも結晶がついて開かんぞアレじゃ」
折角色々渡しておいて入れてもらったのに意味が無い。
ただディダはそれよりも止めるのではなく、まるで制御の為に森沢を追い出しただけのような言い草をする。
「とりあえず気絶しない程度にやるか」
「神父、もしかして森沢なんて最初から眼中に無かったでしょ?」
マルスがゲンナリしながら問う言葉に、対して怪我をしてまでも止めないだろうと笑う。
「あったよ、コレだけ怪我して止めに入らないでしょ普通」
「ちょっと飲ん――」
十分な体力で挑んで貰いたいと思って小瓶を差し出すも、ディダはそれを止めた。
「飲まなくても大丈夫、とにかく1回瀕死にならないと覚醒しないのは厄介だなとっ」
動けば体から所々血が出る。
この状態では別の最悪が待っている。
卑弥呼は叫ぶも、ディダ自身その気なし。
「飲みなさいよ、このままだとあんたまで覚醒するでしょ!」
「手と足が十分力が入れば行ける」
「ボクらが力も無い状態で暴れるなよ!」
今は使い物にならない管理者他2名と出来るか分からない土鬼、そして術師としての卑弥呼とサポートのマルスだけなのに何故そう行けると断言出来るのか。
「大丈夫、外出る前には飲むよ。ここはそういう異世だから」
ここでようやく卑弥呼がディダの思惑に気が付いた。
「……あっ、コイツこの異世の状態を理解したのに言わないのおかしい!」
「だって、ゾンビみたいな人達はもう精神が死んであぁなってしまったけど、肉体は無事、生きているって考えれば、ここで無茶しても大丈夫と判断しました」
死の無い異世と考えれば、あの人だったモノ達の肉体腐敗が一切見られないのとここまでやられても未だ発作も無い。
光喜の場合は、擬似的な仮死状態にしたお陰で、割とすんなり鬼になれたのも納得した。
それでも卑弥呼は言う。
「だからってそれは無茶ですって」
「でも、卑弥呼ちゃんは乗ってくれたじゃない?」
「あ゙ーはい、そうですね、私も戦犯者ですね、森沢を捕まえる為とアンタが止めるって思ってやった行動が仇になるとはね」
考えの食い違いとは言え、鬼にしてまった光喜に申し訳ない。
少し違うのは唸っているだけで、こちらにすぐ来ない事だ。
ジャンヌは警戒さながら鬼を見て疑問視する。
「今は偵察状態、いつ襲われてもおかしくはないぞ?」
あの時の記憶が鬼にあるなら、きっとディダとのやり合いを思い出して警戒されているのではと考える。
「ディダにガッツリ斬られたからじゃ?」
「ありえそうだな、それ」
「なら、引っ張り出せそうだな」
ディダは一度結晶でくっ付いてしまった腰を狙って刀を振るった。
しかし、鬼はすぐに避けてディダを殴ろうとする。
すかさず避けて、ディダが鬼を蹴り飛ばした。
「お前、こっちに飛ばすな!」
飛ばした先にはジャンヌ達がおり、慌て離れようとした時、いきなり鬼が起き上がる。
ジャンヌと卑弥呼が構える中、鬼の顔を見て気付く。
結晶の面が1部壊れ、目があった時かろうじて意識があるのを感じとった。
だがまた戻って行く。
慌てて逃げながら、ジャンヌは言う。
「ちょちょっと! 戻るな戻すな!!」
せっかくこのまま己を維持してくれれば良かったのにと思っていたが、ディダはその辺も踏まえていたのだろう、こんな事を言う。
「まぁ1回じゃ無理か、何度かやってみますか、ね!」
すかさず凄い速さで近付き、鬼を殴り飛ばす。
「容赦なさすぎるだろそれ!」
「だってそれくらい殴らないと、ほら見て」
一の突っ込みに対してのディダの言い分、皆上を見る。
最初体が宙に浮く鬼だったが、急に体を捻り、体制を整えていきなり地面へと戻れば、一気にディダへと突っ込んだ。
「ぐがぁぁがぁ!」
だが、ディダが自身の刀を見せつけると、一歩引いた。
「うーん、日本刀への恐怖心はあるから、一応克服すれば扱えるのかな?」
良い傾向だろうか、いや下手に克服されたらこっちが手の打ちようがなくなってしまう。
「いや、下手すると攻撃的になったりしないか!?」
「刀を鬼が持つんじゃない、光喜君自身が持つんだよ」
「鬼に金棒、光喜に刀か」
「そんなとこ」
「一旦壊れたら自我が薄っすら戻ってくれたなら、刀を取り出させれば良い」
「それが出来たら苦労はせん、お前以外手出せるか?」
「oh......」
言われてみれば、一応森沢を退治する頭で戦ってはいたが、光喜は仲間だ。
なんか止める事だけ考えてしまう。
「クライヴなら容赦しなくて済むのに」
「なら、一お前もう一度あれしろ」
ジャンヌに言われて最初一は分からなかったが、途中で理解した。
「アレ? ……あぁ構えか!」
「そうだ、お前の構えで光喜が気を失わせたんだから、一度試すのもありだ」
「鬼を怒らしとうないんけど?」
なんか副隊長を思い出したのか、自分が超えて良いのかと戸惑うのを見て、真顔で言う。
「良いからやれ」
「はいはい、ディダ! 頼む!」
一の言葉通り、ディダはそのまま鬼から距離を置く。
同時に鬼も距離を置かせまいと迫って来た。
正直な話、こんなので上手く行くのだろうか。
でもやってみないと分からない。
死にはしないとは言っているが、実際こんな場所で死んだら、今度こそ再生は無いだろう。
タイミングを見計らうが、アイツらの素早さは人間でない分、予想がつかない。
今やってしまうと、逃げてしまうだろうし、遅ければやられてしまう。
本当に自分は何しにここに来たんだと、自身をとっちめている始末だ。
そんな時、声がする。
この声の言う事は聞きたくもないが、これに頼る他はない。
一は構えた。
まだ……まだ……今だ。
一気に本来の殺意を剥き出しにし、一歩踏み出した。
ディダも一瞬で飛び上がり、不意を突かれた鬼はそのまま一の元へ。
あの時の恐怖を覚えているのだろうか。
鬼は急激に動きが止まり、もがき苦しみだした。
「で、どうすれば良いんや?」
「何か刀を渡して、光喜の意識を引きずり出したいけど……ディダ! 腰の結晶を!」
卑弥呼も流石にディダの刀を渡すべきではないと考え、腰を狙えと言った時だ。
土鬼が現れ、口から何か飛び出した。
「げっぷん!!」
鞘に納まった日本刀だ。
このまま落ちると下手したら抜けなくなってしまう。
「わわわっ! こっちが力使えないのに出すな!」
ジャンヌが取りに行こうとすると、鬼もこちらに向かって来たのだ。
「ちょっと! 一ちゃんとしてよ!」
「逃げていたっていうより、刀に向かってったぞアイツの方が」
――あの時はただただ無意識に使って皆の迷惑を掛けてしまった。
記憶が無く、分かるのは眠って眠ってもっと深く眠って行く自分だ。
ニュートンのお陰で現世と言うべきか、こうしている。
今回は眠らないよう必死だ。
でも、何度も何度も落ちそうになってしまう。
落ちれば楽になるのは分かっているけど、ニュートンが居ない以上寝てはいけない。
一度起きそうになるけど、寝ているか起きているかの微妙な状態では起きたとは言えない。
再度眠ってしまうが、何かに怯える。
怖いと分かる。
そうだ、最終的に日本刀で思い切り斬り伏せられたんだ。
この力は一度ねじ伏せられたモノには逆らえないのが伝わる。
本来ならディダの使っている刀の方がはっきり起きられそうだけど、我儘を言っていけないし、これでも十分起きられる……!
鬼が刀を掴み、柄を使って思い切り自身の顔にぶつけたのだ。
「えっ!?」
回りがいきなり起きた事に驚きが隠せない。
鬼ではない、光喜が必死に自我を保つ為、卑弥呼に助けを求めた。
「ひ、卑弥呼先輩、ち、力、ちょっと、つか、って」
「分かったから無理しないで!」
慌てて卑弥呼が術を唱え始め、地面から何かが光喜を包み込む。
上手く行くかは分からないが、とにかく光喜の負担を減らす努力をする。
「一体何を使っているんだ卑弥呼?」
「話しかけないで、今封じ込めてるとこだから!」
ジャンヌの問いには一応答えてくれているが、相当力がいるようで、かなり苦戦しているように見えた。
ディダはじっと見た後、軽い解説を始める。
「多分もう蓋は閉まらないけど、空気穴の付いた奴だと思えば良いんじゃないかな?」
「そうか、空気穴でも不安やけども?」
一としては穴開けた状態も危険なままではと感じるが、ジャンヌとしてあのやり方を何度もやっていたら、光喜がその内本当の再生するために眠ってしまいそうだし、これの方が良いのではと考えた。
「今後覚醒時に打撃食らわせて、瀕死させる罪悪感よりは良いんじゃないか?」
「せめて自傷するなら指を噛むとかでお願いします」
どこかの漫画にあったなと軽く一に言う中、思ったより早く終わったらしく、光が消え光喜は息切れを起こしたように必死に呼吸する。
「……死、死ぬかと思った!」
夥しい汗の量、あの結晶の跡なのだろうか。
どちらにせよ、意識が遠くなっていくのだから日本刀は持っていた方が良い。
それにこれから怪異について何らかの方法で退治或いは対処をこれからするのだからこのまま少し休もう。
だが、ディダは意外な事を言って皆を度肝を抜かせる。
「ここ一応死なないから物理的に大丈夫だよ。それになんとなくここでだけなら修行できそうだし、このままやっちゃおう!」
「神父! 流石にダメに決まってるでしょ!」
「いや止めろ! まだお前の意見だけなんだから!」
「まずはここの解明からでしょ! 発現条件とかは良いから!」
「せやせや! こちとら愛されし者も使えんただの強い人だけでこれ以上対処させるな!」
「本当……少し休ませて、後説明させて……!」
全力で皆が止める為、何とか場は収まったが、改めてここはどういうのか、こちら目線で調べなくては修行して壊したらへったくれもないのだ。




