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現世と異世

 卑弥呼が何を言っているのか、なんとなくディダは察した。

「現世と繋がる境目がここか、だから下手に祠壊したら何が起こるか分からない!」

「境目?」

 光喜の問いに森沢が答える。

「そうだよ、だってここ、そういう地域だから、よく集まるんだけよ、しょぼい怪異が、だけど抜け出せないのか出れなくなった怪異達が蠱毒の様に食い合いして強い特殊な奴になって行く、だから有名な陰陽師が異世を作る事で特殊な奴だけがこっちに流れ、現世に影響を与えなくした。……んだけど、あくまで現世であった人間じゃない。元にここには祠があり、今も現世との繋がりがあるからね。下手したら厄災か実害か見てみたいねぇ……まっこっちもあんたらと一緒の解明兼再封じだったけど真堂さんも今回なら多目に見てくれるでしょう」

 お喋りが過ぎたなとも言い、再度銃木に指示を出そうとする前に、光喜が慌てて言う。

「まだそっちも解明まだなんじゃん!」

「てかどっかは来たんだよ? 正規ルートじゃなさそうだし」

 指示する前だったので、とりあえず皆それぞれ避難する。

 ただ流石に先の言葉に引っかかりを覚えた一が言う。

「はぁ? 正規ルートあんのかいな!」

 あんな酷い目に遭ったと言うのに、そんなルートがあるのなら最初から行くべきだった。

「なんで俺だけここにこれたか考えろよ少しは! 行け銃木!」

「わ、わわわっ!」

 本当にマシンガンと言うかガトリング砲と言うべきか、とにかく威力が半端ない。

 そうか、あんな場所でこんなの撃ったら、下手したらあっちも当たりかねないのだから加減はするか。

「銀髪坊や居ないし、小娘も居ないから余計な作戦も練られない内にさっさと鬼の子寄越しなよ」

 物陰に隠れたジャンヌは悔しそうに言う。

「あんなもの力が使えれば一発で吹き飛ばして全部アイツにぶちまけるのに!」

 一緒に隠れているマルスが宥める。

「どうどう、こっちが力を使えないのも、もうあっち気付いてるよ多分」

「ならどうする? こっちだって戦慣れはしているが、やはり力に頼っていた部分が大きい」

「んーディダ神父が余計な事しない内に何とかしたい」

「分かっているな、ボクもちょっと心配になって来た」

 別方向で隠れたディダと光喜が話す。

「どうしたものか……」

「なんで俺にそこまで?」

「鬼の子って言ってたから、前々から狙っていたって事だよね?」

 確かに言われてみればそうだが、もっと言ってしまえば、こちらが何も知らない情報を既に持っていたと言う事だ。

「俺、アイツらからいつから狙われてたのか知らないです」

 前々から知っていたであろうディダが憶測ではあるが、なんとなく察しが付いていた。

「僕的には、アイツらは強い依り代を探している気がする」

「依り代?」

「器だよ、器って色んな形があって、それに水を入れて溢れたり、大丈夫だったりするだろ? その器でも深く、そして頑丈なモノを欲している筈だ」

「器は分かりましたが、何を入れるんです?」

「さぁ? 神様とか?」

「神……様?」

「んー邪神とか祟り神とか、或いは人だった何かが神となったのを降ろす為か」

「でも、そんな上手く行く――」

 呼び出せる筈がない。

 そう、呼び出すにもかなりリスクが伴うのをディダなら分かっていた。

 だから穏喜志堂が何しようとしていたかも分かってしまったのだ。

「あー……ちょっと不味い部分も話してて分かったかも知んない、一旦なんとかしないと」

「森沢の銃木とは一度やりましたが、あの時は室内のニュートンがいての状態で理美ちゃんが異空間開けてなんとかだったし」

「冬美也君の助言もあったでしょ?」

「ありました。宙に浮いているようだけど、重力が存在して」

 話を聞き、覗くと再度弾が飛ぶ。

 一瞬だけだが、しっかり見えたディダは考える。

「成る程、一応重力あってのアレか固定させてるんだね。糸と言うか神通力と言うか」

「あの時は回りも浮かせたから油断出来たんですが、多分その分対処されてると、思います」

「そっか、ならちょっとやってみるかな」

「へっ? やってみる?」

 何を考えてか、ディダは刀を抜き、森沢に向かおうとした。

「神父‼︎」

 あの状況でいきなりマルスがディダにドロップキックをかましながら、光喜のいる場所へと隠れる。

 どうやら卑弥呼に頼んで結界を作ってもらい、一時凌ぎでなんとかこちらに来たようだ。

「あんた、またややこしい事しようとしただろ?」

 内容はまだ話していないのに、マルスが何を言いたいのか、ディダには分かった。

「凄い大当たり!」

「こんのクソジジイ! 皆を巻き込む気だったんか‼︎」

「何の話⁉︎」

 本当に何の話だ。

「刺し違えても銃木を狩る」

「あんたが血抜け過ぎて暴走されたら1番迷惑なんだよ! 特に管理者能力使えない時に暴れたら‼︎」

 そうこうしている内に痺れを切らした森沢が言う。

「あーもう、中々落ちないし、一箇所だけ狙うか」

 銃木に目配せで指示。

 光喜達の居る場所を目掛けて撃ち鳴らす。

 一気にこちらへ、さすがにまずい。

 好き勝手にされ続けた一が刀を持って動く。

「甘いよ、こっちも持ってるんだよ」

 そう言って森沢は結界で一を弾き飛ばす。

 一はすぐにバランスを取り、立て直す。

「自分、ちーっと後での力に頼らんタイプなんで」

 無外派の構えになった時、森沢は笑いながら何も無い場所から刀を出し、一を襲う。

「ここで死んだらどうなるか、見てみたいな、斎藤一さん!」

 アースとは違い、別々の行動が可能のハグレ神、しかも遠距離可能の攻撃、動きたいのに動けない。

 ジャンヌは1人だけで戦う一に加勢しようと卑弥呼に援護を頼む。

「卑弥呼、こっちにも頼む、加勢する」

 卑弥呼側からすれば、下手すればジャンヌも怪我だけでは済まされない。

 だから苦虫を噛み潰し、ある答えを出した。

「はぁ⁉︎ 無理よ……ならディダ! あんた行きなさい!」

 隠れ場所から顔を出す卑弥呼の答えにディダですら驚き、マルスも止めに来たのに何での顔だ。

「マジで良いの!」

「一だけに戦わせるのは酷よ!」

「で、誰が万が一止められるの?」

 マルスの問いに卑弥呼の出した答えが意外だった。

「行け、光喜、お前は一度死に掛けた時、鬼になって暴れたんだから行ける‼︎」

「どっちも暴れたら誰が止めるの‼︎」

 流石にここが壊れて帰れなくなる可能性があるのに、それ以上の状況を作るのか。

「アイツらの時は流石に2頭を追わず1頭だけにした」

 フィンと光喜を両方狙って、結局鬼となった光喜に翻弄され元々の狙いだったフィンだけを攫ったのだ。

 そして今は森沢だけで暴れたら多分対処しようがない。

 ここに賭ける。

 ディダもあの時を思い出し、理解した。

「分かった、マルス、持ってる?」

「当たり前でしょ!」

 小瓶を見せると覚悟を決めた。

「なら、任せた」

 卑弥呼は光喜にあるお願いをする。

「如月君」

「はい」

「札使って、自分側に」

 自分達を万が一の時に守る為の札を何故自分にと首を傾げるが、とりあえずやるだけやってみる事にした。

「……? はい、分かりました」

 

 一はと言うと、森沢に翻弄されていた。

「――あっぶな!」

 術と剣術、意外と森沢は両方使え、懐にはまず入れず、それどころか傷も付けられない。

「ほらほら、名だたる新撰組が泣いちゃうよ」

「泣かんわ!」

 無駄に煽られて余計に腹が立つ。

 しかし下手に一度目を逸らせば死ぬのが分かっている為、森沢から目を離せない。

『さて、どう出るか? 当たりはジャンヌの援護なんだけども、大穴はディダで論外が光喜、マルスと卑弥呼は援護だろうなぁ』

 頼むからジャンヌをと願うも、虚しくも大穴を引いてしまった。

 ディダが銃木を無視して森沢へと飛び掛かり刀を振るう。

 森沢はすぐさま術による結界でディダの刀を弾く。

「――甘い‼︎」

「ならこっちだ!」

 吹き飛ばされてしまった刀をそっちのけにして、腕を鱗で覆い、爪も鋭くさせ、無理矢理結界をぶち壊す。

「あっぶな! 銃木‼︎ こいつの相手しろ!」

 間一髪で避けた森沢の指示で銃木が片腕だけディダに向けて、決して相手を寄せ付かせようとしない。

「ちっ、まぁこっちもそのつもりだ、し‼︎」

 いきなりディダが銃木を襲う。

 何発もの弾がディダの腹部や肩、腕に足と貫通する中、ディダ本人はそのまま銃木の顔を掴み、投げ飛ばす。

「ちょちょっ⁉︎ 銃木‼︎」

 あんな状態で投げ飛ばしたのだから、驚いて当然。

 隙を狙って一が刀を森沢に入れる。

「――!」

「だぁぁぁ‼︎」

 が、あちらもやられてたまるかと、別の術だろう刺さった感覚が無い。

「なんちゅう体だ」

 一が静かに驚くのは、やはりあり得ない状況だったのだろう。

「あっぶっな!」

 森沢は一旦離れると、ディダが狙う。

「舐めるな」

「まだ動けるのか! 銃木やれ、この龍を‼︎」

 逃げようとせずに、銃木に指示する。

 壁に激突して動かなかった銃木が、起き上がりディダに向けて撃った。

 ところが、ディダの背中を守ったのは光喜だ。

「……‼︎」

 卑弥呼から貰った札のお陰で貫通はしていない。

 しかし、扱いが違う為、光喜の胸に強い衝撃で気を失う。

『光照先輩失敗したら恨みますよ!』

 そう思い、意識が深い所へ落ちて行く中、何居る。

 あぁ、成る程引っ張り出すには、やはり今はこれしかないのか――。


 倒れたかと思った矢先、光喜は立った。

「ぐ、ぁ……ガァァァ‼︎」

 叫ぶ姿を見て、ディダと卑弥呼なら分かる。

 何も知らされていない一は怒った。

「あのあほー‼︎ なんで今鬼になってん‼︎」

「マルス‼︎ 刀‼︎」

 吹っ飛ばされた刀は今、誰もいない場所に突き刺さったままだ。

 マルスはディダの言う通り、刀を取りに行く。

「はい‼︎」

「させるかよ」

 銃木がその言葉に動くが、何かが弾を薙ぎ払う。

「もっぎゅん!」

 まさかの土鬼だ。

 ジャンヌは土鬼を見て言う。

「今まで何処にいたんだアイツ」

「銃木のせいで忘れてたわ」

 一ですらこの始末だ。

 最初から参加してくてればとも思ったが、あの自由度の高い奴がこの祠だらけでしかも社のある神社、絶対に壊しかねない。

 卑弥呼は必死に土鬼に対して指示を出す。

「土鬼ちゃん、とにかく銃木だけね、銃木だけ足止めしてて!」

 これはチャンスとマルスが走る。

 それを見かねて、森沢が術でマルスの動きを止めた。

「あっだぁぁ」

 思い切り顔から行った為、凄く痛いし声も出しづらい。

「あぁもう! その刀を折ってしまえばいいんだよね」

 森沢は何かを唱えながら、一の攻撃を躱す。

 ジャンヌも動き、ディダの刀を取ろうとした。

 これだけ見れば分かるだろう。

 ディダの使う刀は特殊だと。

 森沢は言う。

「――それじゃ直せなくしてあげますよ」

 詠唱は終わった。

 このまま壊れてしまうのか。

「うがぁぁ!」

 自我をコントロール出来ない鬼が、森沢の顔面をぶん殴って吹っ飛ばした。

 その影響かは分からないが、壊れることなく、ジャンヌに拾われる。

 回りは恐怖しかないが、この時ばかりはよくやったと心ばかしに思った。

「ほら、ディダ受け取れ!」

「あぁ」

 投げられた刀を受け取り、さて後はどのようにすれば意識を保った状態に引き戻せるかだ。

「……ぐぅあぁ」

 鬼は唸りながらこちらを見る。

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