砂場
そうとは知らず、マルスチームは右側、ディダチームは左側として目的地を目指す。
光喜はディダと共に歩く中、手入れもされていない無造作に生えた雑草、その辺に置かれたと言うより朽ちて落ちてしまった壊れた遊具。
「ぶ、不気味だ……」
「ところでさ、一さんはどうして今回一緒に? 普段なら怖がるってイメージ湧かないけど?」
「あのね、一応光喜君が何かあっても対処出来るの現状ディダだけでしょ? それならどのようにして止めれば良いか見ておきたいし」
「それだけじゃないでしょ? なんか、困っているんじゃないの? 光喜君は建前で?」
「おっ? 言います? ディダだってこんな危険地帯に普通連れて来ない筈だ、あんたは何を考え」
かなり深刻な状況に……なんて事は無く、ディダが深いため息をして凄く本当は連れて行きたくは無かったのが分かると共に、まさかの名前を言って驚いた。
「アダムに~言われて~仕方がなく、本当なら討伐ではなくて君らがやっていた特訓が1番良いんだけど、気を失ったならもう命かける場所変えるしかないじゃない」
「アダム理事長が!?」
驚く光喜をよそに一が言う。
「そういえば、あの後、全員に光喜君の状態を連絡入れたんだよねぇ」
失神した後、これは無理と判断され、今後の事もあり皆に連絡、相談した。
その際アダム経由でディダに話が回ってきており、断りを入れるものの、断りは通らず今に至る。
「お鉢がこっちに回って来た時に、ここの依頼があるから一応断ったんだよ! 本当にちゃんとね!」
顔は本当に連れて行きは無いと言うのが伝わる一方で、意外な事に一はアダムと同意見。
「わーかった分かった。あの時とは違う状況にするべきってのもアダムと同意見だ」
当の光喜は怪異で無い方が良かったと文句言いたげに聞いてみた。
「どうして怪異にしたんですかぁぁ」
連絡から詳細聞いていて、ディダも引っ張るのは不可能との判断。
「だって僕もジャンヌちゃんと一緒になってそう簡単に覚醒を引っ張れないだろうし」
「あんたはほっとけば危ないし」
一からもたまたまにせよ、1度覚醒したのなら今後のいつ何処かで覚醒した時、制御出来なければ、対処出来なければ、回りも光喜も危険なのだ。
もちろんディダ自身も危険な存在であるとさりげなく言いながらある物を取り出す。
「そうそう僕は危ないから、ちゃんと持ち歩いているし」
「何を?」
「血」
小瓶の中にまさかの血。
光喜の方が青ざめてしまう。
「ひゅぅ……」
良く見えないからよかったのに、わざわざ懐中電灯で照らす為、余計に見えて嫌になる。
「神父、俺にも見せるなや、気分悪くなる」
「ごめんごめん、一応、僕の他にマルスにも持たせているし、救護班のナイチンゲールさんにも持たせてるよ」
「なんでそんなの持ってくるんですかぁ」
「コレ持っていないと、僕が誤って大ダメージ受けた時、これがあると回復しますが、放置すると僕が暴走するので絶対に要ります」
この話前に聞いていたアレかと思い出す。
「前に言っていたアレ?」
本当にちょっとの会話だったが、まさか周りの命の危険性だったとは。
ディダは笑う中、もうすぐ目的地が分かり、足取りを若干早くする。
「そうそう、ほらそろそろ着くよ」
着いた場所はもう叢のせいで元は何だったかは分からない。
でも段差みたいな物がある。
階段かと思ったが、これは砂場だ。
奥を見れば、朽ちてしまったベンチに錆びて穴が空いた滑り台もある。
ここはきっと幼い子供達の遊ぶエリアだろう。
「砂場が怪異?」
「いやまだ怪異じゃない」
「だが、物々しさがあるぞ?」
「物々しさ?」
「かなり前々から貼られていたのかもね、よく見るとなんか呪術系がちらほら」
一々懐中電灯で照らしてくれるので、見たくもない札やら紐に何かぶら下げてたり、太くしなやかな木々にも掘られた痕や血では無いが赤々とペンキで何か円やら沢山の丸や三角が書かれていた。
「これが原因でしょ!」
「違うよ、これ封じの呪術だよ。多分前に来た呪術師さんやら祈祷師に霊媒師とかだね」
「って事は何か? 前の人間達が色んな封じ方してんのに、効果が無いって事か?」
「んー網目がデカいから人が入る、ただそこにいる存在が出て来れないってだけかも……斬るかいっぺん」
「無闇矢鱈と斬るな!」
一方その頃――……。
マルス達の歩いているルートには、もう使われていない倉庫は建物自体傾き、荷物を置いてあった場所があったお陰でまだ原型は保たれてる。
公衆トイレは石造りな為、そこまで壊れていないが、少し近付くだけでも妙な臭さを感じて近づきたくはない。
マルスは卑弥呼とジャンヌに先程の依頼について、ネット等で聞き込みをしていた情報を共有。
「動画一応見ていた人の話だと、コレを潜ってからエラーして見れなくなったって」
「しっかし、警察も見張りしなくていいのか?」
ジャンヌの言う通りだ。
本来なら見回りや事件としての見張りをしていてもおかしくない。
「きっとこの公園自体が怪異だからじゃない?」
卑弥呼の言葉に全力で止めに入るジャンヌがずっと自身を摩っている。
「止めろ! 鳥肌が立ったまま落ち着かんのだ!」
「本能で拒否してるじゃないの、大丈夫?」
どうやら向き不向きで言えば、ジャンヌは不向きだ。
でも行くと決めたジャンヌは決して諦めない。
すぐに話を逸らす為、土鬼を探す。
「土鬼は?」
懐中電灯で辺りを照らすと、土鬼が優雅に土の中を泳ぎ飛んでいた。
結構元気いっぱいでどこまでも楽しんでいるようだ。
卑弥呼はその先を見ると別の方にポツンと光が見える。
「まーっすぐ進んでるみたいだし、男集団はほらっ! あの光」
足の長い連中な分、速いなと感じた。
「大分進むの速いな」
「俺達も急ごう……ってこんな危ない場所急げないよ」
実際歩けば、誰が落としたのか空き缶やらゴミが散乱している上、今まで手入れしていなかった木々の枝が無造作に落ちている。
下手したらケガしてしまう。
「多分ディダの奴、元々夜目だけでなく色々鋭いからな速い速い」
不意に気が付く。
急にディダ側の方の明かりが消えたのだ。
マルスの方が驚いた。
「えっ? 先行った!?」
この瞬間、卑弥呼は自身のスマホを確認して落ち込んだ。
「……大変申し訳ございません、我々、別ルートで怪異に入り込んでしまいました」
スマホはある種の現世と異世の境目を知るには持って来いの品で、特に圏外かでも良く分かる。
元々繋がらないなら仕方がないのだが、今の今まで繋がっていた電波が突然切れれば、よくよく考えなければならない。
ジャンヌは頭を抱えながら、再度体を摩った。
「わぁぁぁぁぁ!! どうりでこの辺ずっと肌寒いと思ったんだ!」
「お、落ち着いて! まずは出口を見つける」
「それしかないわね、多分下手に弄っちゃ駄目だし」
「力を使っては、駄目って事か、最悪だ」
辺りを見渡せば、同じ環境だと思っていたが後ろを見れば叢が消え、砂漠みたいな不気味な雰囲気が広がっていた。
不意に、ディダが眉間に皺を寄せる。
「マルス達の気配が消えた」
その言葉に驚いた。
「ふぁ!?」
一もまた本来の場所から変わっているのに疑問を持つ。
「おいおい、本来ならココからやろ?」
ここと断定しているのなら、なぜここで消えるのかだ。
ディダはそこを踏まえて二手に分かれていた。
「勿論……と言いたいけど、なんで全員同じに見えて別ルートにしたのかって言えば、ここまで来ても帰れた人がいて、尚且つ同じように別ルートでお互い行ったらいつまでたっても帰って来なかったって話を検証も兼ねて実践したんだよ。一応卑弥呼ちゃんそっちだったから良かったんだけど……本来僕らが行くと思ってたんだけど逆だったかぁ」
まさかの先に巻き込まれる予定がこちらだったのには一もお怒りだ。
「ぉいいぃい!? 何言ってんのこのジジイドラゴン!」
「えっ? 結構老けてるんですか?」
「コイツアダムより生きてんだぞ、この見た目で!」
「――!?」
「前話して無かった?」
どうしてここで話が逸れるのか、一が話を戻す。
「話、話が逸れとる! 戻るか進むか、どっちだ?」
「勿論進む、帰れなくなるって言ったのは、ここを封じた人達が一緒に来た人とはぐれたかで帰って来なかったから、だから気を引き締めて、全員で帰るように」
目の前で土鬼がディダに体当たりをした。
「もっぎゅぅぅ!!」
無論、不意を付かれたのだからそのままの流れで、そこを潜る形で倒れてしまう。
「あっ」
「あっ」
言っている間にディダと土鬼が消滅。
もう嫌だとかも無く、帰るのも不可能なら進むしかないのを察した2人。
「進むしかないな」
「……ですね」
そのまま進めば普通に入れるのは、先ほどのディダと土鬼の入り方でも入れるのなら歩いていけばいい様だ。
一と光喜は一緒に行くぞと言って、一斉のでと同時に入った。
いきなり目の前が砂漠だ。
「はっ? 砂漠!?」
「砂漠だな、ランダムなのかここ?」
後ろも前も全てが砂漠、夜に入ったから真っ暗な筈なのに、明るさがある。
ふと近くでもぞもぞ動くものを見た。
一が光喜の前に立ち、守る姿勢と持ってきていた刀を抜刀しようとする中、出て来たのはディダだ。
「ぶはぁぁ! ちょっと土鬼! いきなり倒さないでよ!」
「ももっぎゅ!」
ディダが怒っているのに、土鬼もなんで突っ立てたんだと怒っているかのように言い返している。
「神父、無事だった!」
「もーこっちの気もせんで、能天気だよほんと」
そう言いながらもすぐに駆け寄った。
「ごめんねぇ、これサハラ砂漠にでも飛んだ?」
呑気なディダの問いに一は突っ込んだ。
「いやいや、どう見ても異世でしょ」
ただ後ろで座り込むニュートンは具合悪く言う。
「うぇぇここなんか気持ち悪い」
「ど、どうしたのニュートン? 暫く戻ってれば?」
戻ればと言うのは管理者ならでは言葉の言い回しではある。
普通に気が付けば現れる存在のアースは見えなくなる時を戻ると自然となっていった。
勿論他の管理者同様だ。
「錦さん」
一は不意に錦を呼ぶ。
あの不思議な鱗を持った魚が泳ぐも、明らかにあの鮮やかさが足りない。
鈍っている。
そして錦は何も言わずに消えて戻ってしまった。
なんとなくこの状態を危惧した一は試しとばかりに光喜に力を使わせてる。
「やばいな、自分は良いとして、光喜重力使ってみー」
「まぁ良いですが……げっ!? あまりう、浮かないって事は潰れもない!」
光喜が持ってきていた適当な物を無重力にしようとするが、今の今まで出来ていた特定を無重力が出来なくなっているのに気付く。
無論重力を掛けるも同じだった。
今回は
「こりゃ下手するとあんたしか出来ないんじゃ?」
「まぁだからこそこっちに来た依頼だからねぇ、とりあえず真っ直ぐ進もう、土鬼道案内」
いい返事をするので、どこへ道案内させる気だろうか。
「もっぎゅ!」
「道案内出来るんです?」
「土鬼の道案内はここを作った本体じゃなくてマルス達の事」
それなら納得するが、光喜的には心配でつい聞いたら怪しさ満点な返答が返って来る。
「出来る?」
「むぎゅー……もっぎゅぎゅ!」
流石に3人とも口にはしないが焦りと察しがついてしまう。
『今の間はなんだ?』
『お願い! ちゃんとマルス達の所へ!』
『あっこれ、駄目な奴なんじゃ?』
とりあえず付いて行く事にした。
――かれこれ数十分は経っただろう、案の定不安が当たってしまう。
「はい、分かってました! 目印も無いから今どこかも分からないし」
光喜の言葉に、すぐにディダが土鬼に聞くが、絶対分かってないだろうと2人の冷めた目が痛い。
「ニオイは覚えてるよね?」
「ももんぎゅ!」
一に至ってはこんな遭難話をしてきて不安を煽る。
「ほんまかぁ? 前に聞いた事あるが人間は自然と左回りするから遭難するって聞くし」
「やめて、本当にそれだと怖いからやめて!」
「本体と出会っても良いけど、合流を目標にしてるし下手に退治出来たとしても、そのまま居残るって事もあるからね」
もうこのチームが破綻していると言ってもおかしくはない。
一は何かを察し別の方を見る。
「あーこれはやばいかもしれん」
遠いが明らかにマルス達ではない、ゾンビのような姿をした人間がのっそりのっそりこちらにやって来るのが分かった。
「光喜君、絶対に僕らから離れないで」
「はい」
「こんな公園はほんま嫌になるわ」
ディダと一は刀を抜き、戦う姿勢へと入る。




