次の修行
日本刀に触れあった後の夜、車で場所を移してある広い施設へと着いた。
外見はフェンスで囲われ重々しい雰囲気があり、普通の人でも近付かないだろう。
フェンスの鍵を開け、中へと進む。
施設は古ぼけた広いコンクリートの1階建てだ。
「ここは?」
「管理者同士だけで使う為の施設だ。普段は管理者の中でも異能者達が特訓で使う場所で、要は複合タイプだ」
車を適当な場所に止め、施設中に入れば、電気は通っているようで、点けると意外と広い廊下を歩く。
「一さんも?」
「いや、日向さんも坂本もましてやジャンヌも異能者じゃない」
「あれ? ジャンヌ先輩って神と交信が?」
「なんだ神が宇宙人みたいな言い方は?」
聞いてた回りがぶふっと笑ってしまう。
ジャンヌは不謹慎だと怒っているのにだ。
「ご、ごめん、だってほら、色んな逸話があって、えっとほら見張り中の兵にここから少し離れてと言って離したら、そこに砲弾が落っこちて来たって、ジャンヌに言われた兵は助かったって言う」
「あれは飛んできたのが目に見えてたから、あっこれ来ちゃうなって、だから避けさせたんだが信じてもらえなくて神の声だってどかしたんだ、ジャパニーズ語の諺、噓も方便をしたんだ」
実際、かなり遠くからジャンヌは見えており、この辺りに来ると直感して兵を避けさせようとしても信じて貰えず、神の声でなんとかなったエピソードだった。
それに対しての回りの反応。
坂本も一も一瞬過ぎるが口にするのも心で言うのも負けな気がして押し黙りつつ笑う中、光喜は心でツッコミを入れるが声には出さず、日向からすればアフリカか何処かの民族にしか見えない。
『ジャパニーズ語とは?』
「どこの民族の人間だそれ」
「失敬な! フランスの民だぞボクは!」
流石ジャンヌと言った所で、重苦しい扉を開けると、ただただだだっ広いだけの部屋に着く。
一は眠いのか、部屋の外で寝る事にした。
「んじゃ俺、もう少し寝てから特訓に参加するから、日向とジャンヌ後よろしくな、坂本、絶対起こすなよ」
そう言って部屋を出た一を見送った坂本がある物を光喜とジャンヌに手渡す。
「分かったから、寝てなさい。後一応木刀だと下手するとあれだから今回はどっちも竹刀よ。まずはジャンヌから」
渡されたのは竹刀だ。
ジャンヌは理解し、先に中央向かう。
「分かった、ほら行くぞ」
「う、うん、でも普通さ剣道とかって土台って言うかなんて言うか」
いきなり渡されていきなり技術練習に光喜が戸惑うのも無理は無いが、大人2人、剣術に対してそこまでの意識が無く、寧ろコツを掴めと言う感じだ。
「まぁ分かるが、剣術って江戸時代入ってからが本番ってところがあったし」
「普通の日本刀は大体コツさえ分かれば振り回しても斬れるから」
「えっえぇぇぇ……!」
渋々光喜も中央に向かい立つ。
「まあまずはとりあえず持ち方を教えておくが、実際ボクは少し使い方が西洋だから気を付けろ」
持ち方を軽く教わったと同時にジャンヌの持ち方が変わる。
「んじゃ開始!」
いきなりジャンヌが見えなくなって、慌てて見渡すと一瞬目に入ったのもあり、避けると、ジャンヌの動きは突きに似た何かで顔が擦れる。
しかしそれだけでなく、足まで動き、いきなり引っ掛けられてこけてしまった。
「んぎゃ!」
「おいおい、足もしっかり意識しないと次は死ぬぞ?」
「こ、殺す気!?」
「剣術だけでなく鬼になるコツを掴む、一石二鳥だろう!」
「やめて死者出る!」
「大丈夫よ、また戻るだけだから数年後に会いましょう」
「やめて! 俺を殺人犯にしないで!」
「大丈夫だ、死んだのを隠ぺいしておけば殺人にはならない!」
「どうしてそのような事を言えるんですか!?」
管理者の感覚がおかしい。
「とにかくだ。お前を窮地に追い込めば覚醒の可能性がある筈だ!」
「わぁぁっぁぁぁぁ!!」
ジャンヌが凄い速さでこちらに向かって来た。
そうして深夜1時だ。
もう帰ってもおかしくはないし、今日は久々の登校日なのに何をしているのだろうか。
まだ帰っても居なければ、ジャンヌから逃げ回っているだけだ。
「今日の朝から登校なんですが?」
「知っているぞ、だが、そんな感覚だからお前はいつになっても窮地に立てないんだ」
「はよー、どうや? ……ってまだジャンヌかいな?」
「ジャンヌから変わってない、と言うかそもそも逃げ回って話にならん」
「でも避けるの上手くなったよねぇ」
「避けるのも生きる手段だからな、しゃーない自分が行く、仮眠したから大分頭が冴えている」
「おい、斎藤と代われジャンヌ」
「分かった」
「ほな、少し殺意ましましになれば、鬼になるのかもな?」
一瞬にして恐怖がのしかかる。
殺される。
動けない、足が震えて立つのがやっと。
それを見ていた坂本と日向が言う。
「やっぱり新撰組の人間は殺意出すの上手いわね」
「上手いだろ? 実際警察みたいなものだし、テロリストとの戦いだったろうし」
「と言うか、アイツ新撰組からの警察官だろ?」
「あー……!」
なんか納得してしまった。
その間、一が構えてから動いていない。
『さて、久々の本気、入れたが……やり過ぎたか?』
構えは無外派だ。
竹刀ではあるが、光喜から見ればアレはもう日本刀。
一が先に出た。
「……‼︎」
死ぬ――。
「――で、失神したと」
「はい……そうです」
結局、失神してしまい、朝の5時頃まで目を覚めずにいた為、解散する羽目となった。
殺気だけで人を殺せるとはこういう意味なのかとも考えるとなんともだ。
そして高等部でことの顛末を冬美也とザフラに話し終えたところ。
ザフラも半笑いで言う。
「最近、我の所に来なくなったと思ったら、色々やらかしているなお前」
「三日前にあなたは見舞いに来てくれたでしょうよ」
光喜はあの時の記憶を辿るとザフラかアミーナがカーミルに話したのだろう、色々と見舞いの品を渡され、お返しはどうすればと言えば、お礼の電話でもすればといきなりスマホを渡され、カーミルは気にしないでと言いながらさりげなく勧誘してきて大変だったのしか、覚えていない。
冬美也はほんの数時間しか寝ていない光喜を心配した。
「それより、お前大丈夫か? 碌に寝てないだろう?」
「寝たら起こしてください」
『寝かしておこう』
申し訳ないが、多分寝かした方が良さそうと判断してしまう程隈が酷い。
ちなみにその後は、二時限目で先生にバレてしまうも、寧ろ隈の酷さにビビった先生の方から寝て来いと言われる始末だった。
保健室で昼まで寝てしまい、頭が冴えているのに顔色が悪くなり、単位は無事なんだろうかと心配してしまう。
とりあえず光喜は保健室から出て学食いや購買にでも寄って適当にご飯にしてしまおうと考えた時だ。
丁度その時、渡り廊下でザフラとアミーナが立っていた。
きっとアミーナの見るに愛されし者を使ってここを通るのを見越していたのだろう。
先にザフラが言った。
「よう、朝ぶり、具合はもう大丈夫か?」
「……はぁ、おかげさまで頭はスッキリしました」
「お前、このままだと斎藤一の様になりそうで怖いんだが」
正直ただの心配だ。
若いうちにそうなってしまうと癖になるぞと脅しでもかけてやろうと言った名だったが、あの時の殺意を思い出し、光喜が怯えてしまった。
「ひっ!」
アミーナが会話に入る。
「一は新撰組で何番隊だったか忘れましたが、隊長していた人間ですよ? 強くて当然ですし、戦時中でも指揮を取ってたらしいですから」
管理者として考えれば、不思議ではない。
戦に身を置いて来た人間だからこそ、自身の国を護る為に自然と身に付けた様にも考えられた。
でも、現在の一はほぼ社畜だ。
「マジで、いっつも徹夜して、現代の日本の社畜って言うか」
本当にそんな人間だったのかすら怪しいもの、ただアミーナは知っているのか、それとも一を見たのか、こんな話をする。
「それはあなた方がまだ若いから可愛がっているだけで、本気出した時の一は皆ビビるし、怖いのでいつものほほんを頑張っているらしいですよ」
確かに友好的な国ならまだしも、未だ敵対か舐めて掛かる者も少なからず存在するのは確かだ。
だからこそ、決して優しさだけでない威圧的な言葉だけでなく、圧倒的な実力を兼ね備えた人間でなければならない。
それを聞いたザフラが一に対してこんな事を抱く。
「殺意がメインなのかアイツ?」
「日本を馬鹿にする外国外交官ですら、彼が出て来ると怖気つくって話らしいので、あながち嘘では無いですよ」
「だからカンカンで話にならん奴らの為に顔を出すを繰り返している分、本来の仕事が成り立たないってのも嘘ではないな……」
会う度に仕事を持ってきたり、徹夜続きだったりするのは話が進まない、或いは相手に押されて進行の妨げとなった場合によく駆り出されているのだろう。
どんな感じなのか、正直想像は付かない。
でも、あんな殺意のこもった目、その目で見られて会話なんて自分では絶対に出来ないのを理解出来た。
不意にここまで来て、何故ザフラが来たのか分からない。
「それで、俺に?」
「一応、能力の使い方を教える為に我が来たんだぞ?」
「う、うん、そういえばそうだったね、大分慣れてきてコツも掴んで来たからあまり特訓しなくなって来たもんね」
「来たもんねじゃない! 今日の放課後から覚醒の為の特訓をやるぞ!」
「な、なんで⁉︎」
最悪だ、ただでさえ疲れが溜まっているのに今度はザフラ達と覚醒の為に特訓をするのだから。
しかしここからジャンヌがやって来た。
「コラッ! こっちはこっちで特訓するんだからちょっかい出すな!」
「何言っているんです? 一の殺意で失神してしまうなら、こちらで面倒を見た方が良いんでは?」
アミーナの言う通りだが、詳細は聞いていた筈だから少しは捻るだろうと思っていたのだが、結果として内容は一緒だ。
「お前らならどんな特訓をするんだ?」
「そうですね、覗いてもあまり見えませんでしたし、とりあえず窮地に追い込めば」
「光喜から聞いただろ? 彼は失神した。ボクがやってみたんだが、やっぱり身内って分かっていて挑んでしまって中々上手くいかなかった」
「で、身内でも容赦の無い一がやったら」
「容赦無くて失神だろ? 尚の事此方で見た方が」
「いやいや、こっちだろ」
段々話がややこしくなってきた。
そんな時、漸く見つけたとばかりに誰かが入る。
「なら、丁度ディダが仕事入ったらしいからいっそ、そっち系ならそっち系をぶつけて覚醒させてみようって話になったから」
冬美也がスマホを持ちながら、やって来た。
スマホの内容を見せてくれたは良いがあまりよろしくない内容が入っているのが目に入り、体から汗が流れる。
「あっ冬美也、お前も来てくれ……そっち系って怪異じゃんかぁ」
勿論一緒だよねと言いかけるが、即座に断られた。
「いや、オレバイトだから」
「うっそん」
どうして行かない冬美也がと思っていたが、自分のスマホを覗けばマルスから連絡があったのに出なかったから、冬美也に同じ内容が送られてきたようだ。
「じゃあ、怪異も驚く集団で行こう」
「怪異を怒らす気満々」
光喜は嫌だと言いたげにあわあわするが、ニュートンはそれを許さない。
「腹くくれ、光喜、新たな力を使わずにして今後の戦いどうする気だ」
「……誰も味方が、居ない!」
こうして、今日の深夜に新たな修行先が決まってしまった。