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試行錯誤

 結局なんも成果も無いまま帰宅。

 もうこんな夜更け、シャワーは明日でもいいし、一応明日まで休みではあるから平気だ。

 本当に退院してからドゥラにメキシコへと連れて行かれ、ディダ達に会いたいと思って冬美也に連絡したら、またドゥラに連れて行ってもらっただけでなく、帰りまで送ってもらってしまった。

 ずっと安静にしていた体は悲鳴を上げ、すぐにでも横になりたいと訴えかける。

 流石にもう無理したくない。

 ソファーに寝転がり、上を見ていたらそのまま意識が遠のく――。

 次の瞬間、スマホが鳴る。

 中身を確認すると、一からで昼から会わないかとの事。

 断る義理も、予定も無い。

 うん、分かったと書いただけでとうとう限界が来てしまい、スマホをその辺に投げた形で眠ってしまった。


 ――いきなりインターホンが鳴る。

 ここで漸く目を覚ます。

 スマホを確認するが、充電し忘れで電源が入らない。

 仕方がない、インターホン画面を見れば、なんと一だ。

 慌て、扉を開ければ、一はなんとも言えない顔で言う。

「おそよ、心配したぞ、詳細書いて送ってたのに既読付かんし」

 心配して来てくれた様で申し訳ない。

「すいません、ソファーでずっと寝てました……今何時です?」

「ほい、13時や」

 せめて10時には起きたかった。

「うわぁ……」

「安心せい、自分は徹夜明けだ!」

「いつ寝てるんです?」

 寧ろこっちが心配にするので止めて貰いたい。

「昔とそう変わらん、ただ座りっぱなしは毒だ、ほな行こか?」

「ま、待ってまだシャワーも浴び」

「大丈夫大丈夫、俺もだ!」

「やっぱり寝て下さい」


 着いた場所は見知らぬ古びたビル、電気も通った稼働している。

 でも基本、入りたいかと言えば入りたくは無い。

「一さん、なんかセェロさんの隠れ家より怖いんですが?」

「大丈夫大丈夫、行くぞぉ」

 そう言いながら一は薄暗い階段を登る。

 渋々光喜も一の後を追いながら階段を登って行く。

 ある一室の前に一は止まった。

「ここだ、んじゃ入るぞ」

 話す前にいきなり開けてしまう。

 開ければ、貸オフィスのようで、意外と広いが使い勝手は悪そうだ。

 そこに居たのは日向とジャンヌに坂本もいる。

 先に話したのはジャンヌだ。

「もう大丈夫なのか?」

「はい、お陰様で、でも体力が大分落ちました」

 日向も光喜を見て言う。

「まぁずっと寝ていればな」

「でも一さん、寝て欲しい」

 昨日一緒にメキシコ行った仲とも言え、更に言えばあの後そのまま仕事をして徹夜明けなのだから同情は一入だ。

 ただ坂本は不満を言う。

「なんでそっちは心配するのよ!」

「不正入国する外務省職員が1番心配だろう」

 日向の嫌味みたいな発言に一は喧嘩なら買うぞと言わんばかりの表情だ。

「なんや、嫌味か?」

 ここまで元気ならまだ大丈夫だろうと軽く言って、日向は光喜に集まった話をしてくれた。

「で、一応マルスからの連絡で試しではあるが刀を君に渡してみて万が一覚醒を起こしても大丈夫ならそのまま所持って事の話だけど良いのかそれで?」

 その為にわざわざと申し訳なさいっぱいだったのだが、一つだけ疑問が。

「マルスさん経由で皆集まってくれたんですかすいません……と言うか先輩、学院は?」

 今日は高等部は午後も授業がある筈だが何故ジャンヌがここに居るかだ。

 答えは簡単。

「午後からサボりだ」

 やはりサボりだった。

 日向は眉間に皺を寄せて坂本を見る。

「私は連絡していないのに……坂本の奴が」

 どうやらマルスもその辺きっちりしているのか、大人の人選はしていてくれたようだ。

 が、結局坂本に連絡したのだから、やはり夜中に行っては行けないと深く反省した。

 坂本は連絡位で人のせいにしたと文句が飛ぶ。

「酷い、私のせいにするなんて!」

「するだろう、俺でもするわ」

 一も援護射撃し始めるので、日向からすれば授業が1番優先されるべきと考えて言い返す。

「しても、学院終わってからだろ!」

 確かに日向の方が1番正しい。

 ジャンヌにも言い分と言うか言い訳がある。

「良いだろう、どうせ運び出すの大変なんだから、お前のコレクション」

 そう言って、大きなテーブルにケースを取り出し開けば、中には幾つもの日本刀が入っていた。

 集めていた当人は貸す気も渡す気もさらさら無いようだが。

「誰も貸すなんて言っていないだろ! と言うかなんで私の日本刀を運ぶことになったんだ」

 一も幾つか別のケースから取り出す。

「自分も持って来たんだから、文句言うなや」

「持ってきた日本刀を?」

 そこまでしなくてもと言いたいが、覚醒時に暴走せず自我を保てるなら一度試してみないことにはどうにもならない。

 勿論坂本も持って来たが、少し怖い事も付け加える。

「他にもあるけど、所詮出所が悪い日本刀だと扱い誤ると如月君が大変な目に遭うので、とりあえず持っていても大丈夫そうなのを見繕ってみました」

「日本刀は自我があるやつ居るからなぁ」

 何それ怖いとつい言ってしまう光喜にジャンヌはキラキラした瞳で何を言い出したかと思えば、あの悪魔のピンクボールのライバル的存在が持っていた武器の名前だった。

「宝剣ギャラ○シア!」

「やめい、世界一かっこいい一頭身ネタは」

 一が突っ込んだ後に、どれか1つ持ってみてとも言われ、とりあえず気になる訳では無いが、一度持ってみても良いかと触ろうとした時だ。

「待て待て、マスクしろ。日本刀はとってもデリケートなんだから」

 ちょっとでも唾が付けば、少しでも指で刃を触れば、錆びてしまうと言う何とも不思議な武器だとも言える。

「そんなにデリケートな物、日本位だぞ、西洋でも剣もデリケートな武器はあったが、皆甲冑着るから段々研磨も面倒になって斬るよりぶっ叩きメインになってったからな?」

「えぇぇぇマジでもったいない」

「それだけ扱いが大変なんだ斬る武器は、でも1番使ったのは幕末って言われてるからな?」

 実際刀を振り回す事もあるが、戦時よく使うのが槍と言う話もある位だ。

「でも使ってたでしょ?」

「どっちかといえば、短刀だ」

「守り刀じゃないのか⁉︎」

 実際、甲冑を着込んだ男達に刀が入るのは難しく、甲冑の隙間を入れられる長さの刃は短刀がベストとの事。

 だが状況にもよりけり、臨機応変に順応した戦いがものを言うのだ。

「分類に分けられるぞ色々」

 もっと詳しく話すとややこしくなってくるので、坂本がマスクと何故かティッシュを渡した。

「話逸れるし、そろそろ触ってご覧なさい、ほれマスクとティッシュで掴んで」

 何故、マスクは理解出来るがティッシュと頭がこんがらがる。

「???」

 日向はマスクをして、光喜に自身が持ってきた刀を持たせる為、指示をする。

一応茎(なかご)を持て、錆びている部分」

 そう言われて、恐る恐る持つとずっしり来るかと思ったが意外と軽いのに驚いてしまう。

「意外と軽い……」

「色々付けてもそこまで重くならへんよぉ、日本刀がバリバリ使われたの意外と自分らの時代だったし」

「触る時はティッシュで、手の油だけでもすぐ錆びるのが日本刀だ」

「幕末が1番刀を使ったって言われる位には刀の使用はあまりないからな」

「まっ褒美が基本だし、素晴らしい刀を手に入れたら見せびらかしたいからな」

『本当は見せびらかしたかったんやな』

「で、どれ持たせる?」

「しっくり来た奴を1度持たせて、尚且つ鬼になってもらわんとなぁ」

「やっぱり、鬼にならないと、ダメ?」

「1回覚醒してしまったんだ。ボクらもそれなりに対応するから大丈夫だ」

「1番大丈夫じゃないし、刀折れたら俺が弁償だよね?」

「……そうだな、意識が保った状態を見たいし、どうしたら鬼になるかも検証したい」

「まぁとりあえず直感で選んだら、とにかく覚醒してみよう!!」

「楽しまないで下さい!」

「そうだぞ、この刀だって軽く100万行くんだから」

 今持たせて貰っている刀が100万円以上する高価な品に体が動かなくなり、今離さないと落としそう

「……離して……良いですか?」

「カチンコチンになったわね」

「まだ安い方なのに、日本刀なんてピンからキリまであるんだし」

「時価数億なんてあるんだから逐一そうなるとキリがないぞ」

「どっちにしろ高いじゃないですか!!」

「なら光喜君、コレを渡そう」

「なんですコレ? お守り?」

 不意に一が袋を開けて中身を取り出す。

 錆びてしまったが多分欠けた刃だ。

「加州清光の生首」

「ぎゃあぁぁぁ‼︎」

 もう幾人の人を葬った刀の1つと考えれば鳥肌が立つのは当然だ。

 後、言い方がまず酷い過ぎる。

 慣れた人間からすれば、もう過ぎた事。

 ジャンヌは言い方に関してだけ教えてくれたが、どういう訳か日向だけ眉間に皺寄せているすぐに分かった。

「ソシャゲ影響で言っているだけだぞ?」

「審〇者じゃないと分からない用語つかうな、一」

「ちなみにコイツも誘ったけど、やってくれないの」

「織田の刀が出るんだって知っているんだ、やる訳ないだろ!」

 そう日向からすればしたくはないだろう。

 勿論織田信長の刀が沢山出てくると言う事前情報をもらった為、日向は一切触ってすらいない。

 ただ意外な方から話が出てくる。

「ソシャゲのバーサーカーはしているのよね、日向君」

「坂本~……」

 まさかそっちのゲームをしているとは意外だ。

 日向が坂本と鬼ごっこをしている間にジャンヌは面白い話をしてくれた。

「ちなみに、日向は前からやっていたが、3のラス面が越えられず、良いキャラやアイテムもイベントかガチャしかないからとうんざりしてたのを理美が3のラス面は意外な事に初期装備だけで大体なんとでもなる方法知っていて、お陰でイベントでも上位に食い込んでいるんだ」

「余計な情報を入れるな!」

 日向は余計な事を言うなと怒っている。

 ちなみに坂本は日向に捕まり、腕で首を絞められ、必死に降参を訴えていた。

 ただ一だけがショックを受けていて、どうやら情報をくれなかったようだ。

「マジでか! アイツ俺には話さんかったぞ!」

「ネット情報にも載っていないし、そもそも5のラス面までは普通に行けるって言っていたぞ理美の奴」

 漸く解放された坂本は言う。

「結局、本部に居る人間が強いのよねえ」

 話がそれてしまった。

 日向は咳払いをして話を戻す。

「……で、どの刀が気になる? 一時的だが貸してやる」

 最初貸す気が無かったくせにと後ろがわめくと睨み付け黙らせる。

 だが、そもそも根本的な部分で光喜は言ってしまう。

「んー分からないです。覚醒して刀があれば意識を保てる保証もないのに、持って歩いても銃刀法違反で捕まりそうだし」

 皆、あーと言って固まった。

 坂本がいきなり立ち上がり言う。

「そんなあなたに朗報です!」

 同時にアタッシュケースをテーブルに置いた。

「なんですコレ?」

「マコちゃん覚えてる?」

 冬美也の肩に乗るくらいの大きさになったり、デカく神々しくなったりする白い狛犬。

「あっ冬美也に付いていた狛犬の」

「そうそう、その子にもお願いして、こちら」

 開けると、腰に付けるタイプの若い子にも受け入れられるデザインだ。

「ショルダーバッグ?」

「手を突っ込んでみて!」

 恐る恐る手を入れれば、何処までも入るので驚いた。

「はい……うぉぉ⁉︎ 科学のポケット! 魔法の袋!」

 何処かで読んだ事のある魔法の話が、漫画に出て来た未来のポケットが今こうしてあるのだから興奮してしまう。

「なんか、神通力とか内側にマコちゃんが自身の毛を編み込んで作ってくれたのよ、ちなみに欲しい物を念じて手を突っ込めばちゃんと取れるから、万が一があってもすぐ取り出せるわよ」

  光喜はこんな良いの貰って良いのかと言うと、まさかの冬美也からだ。

「これ貰って良いんですか⁉︎」

「良いわよ、冬美也君経由で作って貰ったから」

「ありがとうございます。後で冬美也にもお礼しなきゃ」

 そう思いながら嬉しそうにしていると、大人達から優しい笑みが出る。

「んじゃ、刀を折角見繕って持って来たんだし」

「見て触って感じて、気に入ったのを教えなさい」

 日向に促されるも、とんと日本刀に疎いし、万が一もあれば光喜には賠償なんて無理だ。

 無難に安いのだけで事が済めば……。

「とりあえず、安いのだけでお願いします」

「すまん……今さっき持たせたのが1番安いのだ」

 やはり目が肥えた人間の揃えた数々は安くても、一般には安くなかった。

「えっ⁉︎」

 驚く光喜をよそに坂本が言う。

「自分も持って来てるからな? 時価相場大分落ち着き見せてるがやっぱりソシャゲの威力は合致すると恐ろしいわ」

 一度加熱した火はすぐに消える時とゆっくり緩やかな時があり、今回はゆっくり緩やかだ。

 ガチガチの光喜を見て、一は言う。

「日本刀は骨董品扱いだから知名度が左右される、まあ自分が持って来た刀でも壊れても大差ないので慣れていきましょう」

「日向のどうする?」

「色々勉強させた方が良いでしょう、日向君のはまだ安いランクの日本刀だけ持って来てくれたんだから」

「あれでか」

 どれも無銘だが、全てかなりの腕前、下手すると当たりが混じっているのではとこちらも少しワクワクしてしまう程だ。

「まぁいっちゃん安い打刀辺りでも持たせておいて、少し剣術教えておきますか」

「よろしく頼むぞ、一ちゃん」

「やめてくれーそれはネタとして使っているだけで一だけでお願いしますわ」

 本人あまり好ましくないようで、本気に項垂れてしまう。

 こうして光喜の覚醒時による抑制含め自我を保つ為の特訓が始まった。

 

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