相談
帰りはセガがザックで送って貰った。
それでも何か収穫は無い。
光喜の胃だけストレスで逆流するかもしれないだけだ。
自室にて、ニュートンが笑う。
「いやーあの時食った奴より大分マシな奴で良かった良かった」
やはりアムルが用意したまがい物はあまり良い質では無かった。
でももらってしかも食べたのなら、最悪利用されてもおかしくは無い。
「何がだよ! 返って下手な依頼して来たら逃げるに逃げられないじゃん!」
「んでも、カーミルの比ではない」
まだ言うニュートンに突っ込む。
「一緒にするなし!」
見比べる相手がまず間違っている。
更に我儘な事を言い出す。
「ザフラに頼まね?」
「なんで、あんだけ緊迫した場所に居たのにお前は」
正直今平和な一時と考えれば良いのか、ここからフィンの事をこちらで藁を掴む為の虱潰しをするべきかと考える中、ニュートンは光喜に聞く。
「そうは言うが、覚醒した鬼は何処?」
言われてみれば一切その予兆も無く、淡々と過ごしてしまっていた。
光喜は考えるもセェロからも鬼になって怖かったとか一応聞いておけばと若干後悔しながら他に当てがあるならディダだろう。
「……あーよく分からない、結局フィンの誕生日秘話聞いただけだったし、確かディダさんが助けてくれたんだったか? 見てない?」
そういえば記憶は無いとは言え、ニュートンは覚えていないだろうかと思えば、それ処ではなかった様だ。
「見てない、お前が暴走したから力の供給を断ち切ってたしな、後フレアも止めてたし」
この時まで誰もフレアの話なんてしていない。
記憶の無い光喜は驚いて当然。
「え゙っ!」
「フレアはお前が元に戻ったのを確認したらどっか行ったぞ、銀色の翼を広げて」
「あれ? なんか、セェロさんも話になかった? 生き残った運転手が羽を生やした巨人に殺されたって」
光喜はフィンに呪いを掛けたと思わしき人間が何者かに殺されたと言っていて、運良く生き残った運転手が言っていた巨人と大体あっている気がした。
「それよりも、お前、ディダに会いたいなら今冬美也に連絡しないと会えないんじゃないか?」
「あっ! そうだ、1回連絡してみる」
光喜が冬美也に電話をしている最中、ニュートンはずっとあの時、フレア達が来たタイミング的にあまりに良かったのを疑問に感じており考える。
『やれやれ、でも、あの時来なかったら多分、光喜は捕まっていた可能性が高い。どうやって来たんだ? 土鬼がって言っていたが? それにしてもどうしてアイツらを連れてくる判断をしたんだ? もっと使えそうな奴なら居ただろう』
「ニュートン、ディダ達帰っちゃったみたいだけど、住所知っているからって教えてくれるって……ニュートン?」
声を掛けられ我に戻るニュートンは今後についてを棒読みで言う。
「なんでもない、とりあえず覚醒で暴走しない様に今後の為に修行しないといけないなーって」
ただ光喜は絶対に使いたくないようで、怖がっている。
「これ、使わなきゃダメ? 俺なんか怖いから使いたくないんだけど?」
「ダメだ、重力以外に武器は多めにあれば尚の事良い」
「えぇぇぇまた暴走したら皆を今度こそ傷つけそうで怖いんだ俺」
それなら尚の事絶対使えるようにならなければいけない。
「放置して暴走すると面倒だから言ってんだ」
「ゔっ……!」
またインターホンが鳴る。
冬美也が来たかと思って、また確認もせず扉を開けてしまう。
「すいません、今からでしたら私が――」
目の前にドゥラがいた。
「また今度にするので結構です」
速攻で扉を閉めた。
深夜、もう普通の人間なら殆ど帰っているか、残業でまだ会社かのどちらかだろう。
とても古い団地の様な古ぼけたマンション、その階の1つにドゥラと光喜が居た。
「……いや、なんでドゥラの伯父上がいるの?」
マルスのテンションだだ下がりの声に、ドゥラ全く気にせず。
「なんでって、行きたいと聞いて連れて来たまでだよ甥っ子!」
親族なのかと光喜は内心驚くけども、勝手に来た手前こちらが悪いので謝罪する。
「すいません、こんな夜中に」
「そうだよ! まだ退院したての子連れ回すなんて!」
奥からディダもやって来た。
「あれぇ。なんで如月君とドゥラ居んの?」
「まずは如月君だけ、中に入ってドゥラの伯父上は連絡するから外で」
「酷い子!」
ここまで入れたがらないのも何をやらかしたのだろうか。
中に入ればとても綺麗だが、本当に必要最低限の物しかない。
よく見るとテレビすら無く、電気家具も冷蔵庫位でどうやって暮らしているんだろう。
一応広く使うのか、4人用の椅子テーブルがある。
「とりあえずここ座って」
促されながら光喜は椅子に座り、謝罪するも、ディダはすぐに気付いてくれた。
「す、すいません、夜分遅くに」
「良いよ、ここに来たのって覚醒しちゃった事だよね?」
「は、はい」
ディダからしてもこういうのは初めてとの事だったが、マルスからすればディダもその分類だろうと言い出したのだ。
「うーん、僕もこういうパターンは初めてと言うか」
「ディダ神父がたまにやらかすよね?」
「やらかすって?」
大分昔だろうと思って言うが、相当最近ではないか。
「最近はしてないじゃない」
「血が足らなくなって暴走したでしょ去年」
「あれの原因なんて手元にあったの壊されちゃったんだから事故でしょ」
「その後の大惨事を事故として片づけないで下さい」
凄い嫌な出来事だったのだろう、マルスの顔は苦虫を嚙み潰した顔だ。
「いやぁうん、でも僕の場合はほら、血があれば基本解決するんだし」
「そうですけど! もっと慎重にしてください! あのケガの時万が一血が必要だったらと今でも冷や汗ものだったんですからね!」
色々突っ込んでも良い気がするが、ここは話がズレて忘れなので光喜は話を戻す。
「あ、あの!」
「ごめん、君の話だったもんね」
マルスの謝罪後、ディダが言う。
「鬼は僕も初めてなんだ、何度か日本に来てはいたんだけど、鬼になる人は本当に見たことなかったから」
今まで経験が無く、普通の人間が本当に鬼になるとは思っても見なかった。
「そう、ですよね」
マルスはその様子を見て、きっとまた鬼になった時、対象法が無いかここに来たのだろうと察し、ふとそういえば鬼に金棒だろうが、鬼の恐れる物を考える。
植物の柊、イワシの頭、炒った豆、一般人なら分かる鬼の対処する物。
いやまだある筈だ。
そう、鬼を切る刀。
「でも鬼って刀に斬られる話多いですよね、桃太郎とか」
「懐かしき、途中のホラーな歌」
実際調べると結構怖い歌なのだが、今の若者には一体なんの話かが分からない。
「それってなんですか?」
「……!? 大分古いこの話?」
ディダが驚きマルスに聞けばやはり古いのだ。
ただ古いだけなら分からないだろうが、有名な逸話持ちなら話は別。
「古いと思いますよ。で、そんな話よりももっと実物のある話とかはどうかな? 例えば童子切とか鬼切丸とか」
「天下五剣の!」
流石に分かって貰えなかったら詰んでいた気がする。
「そうそう、そう言った日本刀の逸話もあるから、どっかで日本刀を持って過ごすとかは?」
1度試しに持ち歩いて見るのも有りと考えるが、マルスはその辺無理ではと言う。
「銃刀法違反になっちゃうでしょ?」
「坂本さん経由ならワンチャン……?」
段々管理者達に毒され麻痺って来ている光喜にディダが止める。
「ダメだよその人、セェロと一緒だから」
マルスは坂本の愛されし者について語り、ドラゴン系も入ってしまっている為、正直関わりたくない理由だ。
「爬虫類に愛されし者って神聖な龍や蛇も入るし、普通に西洋龍であるドラゴンも入るから、そっち関係になると皆、坂本さんと関わりたがらないから」
「あっ……なるほど」
確かに、考え方的に坂本もセェロもどっこいどっこいなのは理解出来た。
鬼になっても正気を保つ為に一応何か、必要なのか自分でも調べるべきだろう。
その時マルスが言った。
「ディダ神父は一応血があればそうはならないのが最初から分かっているのと、如月君みたいに手探り状態は難しいよね。欠片と言うか断片的な何かがあれば少し救いはあるんだろうけど」
もう少し情報が欲しいのとそれによっては救いになるのだが、光喜はその意味が読み取れないのだが、ディダはその意味を理解し、自分はこうだったと話しつつ思い出させようとしたが、どうやらそうもいかないようだ。
「救い……ですか」
「あっ、例えば僕は枯渇する直前、猛烈な喉の渇きと発作的なものがありまして、君はその時どんな状態で鬼になったの?」
「気を失ったと言うか、セェロさんかばってから思い出せないんです。光照先輩に聞いても、って駄目だこんな夜中に連絡したら」
「……坂本さんには連絡しちゃ駄目だよ」
ディダの坂本に対する恐怖的何かを見て、光喜からは管理者は皆そうなのかと思ってしまう。
『愛されし者って嫌われ者が多いんだろうか?』
「ごめん、それ多分坂本さんだけだから、基本皆、理美ちゃんみたいに無意識ながら抑えてくれてるから、ね」
心を読んだ訳ではないがマルスは光喜の表情が暗くなったのを感じ、慌てて訂正したのだ。
それでも坂本の愛されし者は正直厄介だろうと感じてしまう。
「明日でも良いから連絡するか聖十に行ってからでもいいんじゃない?」
ふとそう言えばアイツは分かっていた遮断に手一杯と言っていたアイツなら分る筈だ。
「いや、ニュートンなら分かるんじゃないか?」
「おう、お前が心臓停止状態でセェロ達がピンチってたぞ、でだ、いきなり鬼になった」
綺麗に顔色が真っ青になりました。
ディダとマルスにはアースは見えない。
「なんて?」
「俺、心臓止まってました」
「うわぁ……」
「んで鬼になってました」
「そりゃ分からないわ」
これではどうなって鬼になってしまったかは分からないので振り出しになってしまった。
「瀕死だったから鬼になったとも考えにくいんだよねぇ」
「えっ? それってどういうこと?」
ディダからすれば目覚めるきっかけであって、覚醒したとは考えていない。
「きっかけがそれなだけで、もっと具体的な何かが負荷によって目覚めたとも考えられるんだ。例えば魂の揺さぶりみたいな」
「魂の?」
「もっと単純に言えば感情の起伏、鬼の正体はただの人間で激情任せに暴れまわった人間が鬼に見えたって話があるけども、実際の鬼としてどんな気持ちで揺さぶられたかを知るべきなのかもね」
「どんな気持ちかぁ……うーん分からない」
あの時、必死だった気がするが、どんな気持ちだったか思い出せなかった。
時間を見ればもう12時を過ぎており、流石にディダは話を終わらせて、光喜を返す事にする。
「とりあえず知り合いにあたってみるから、今日はもう帰りなさい」
「そのまま泊っても良いけど、お泊りセット無いでしょ?」
泊めても構わなかったが、明日は平日、返した方が良いと考えた。
確かに多少の縁での繫がり、ここまで長居は失礼だろう。
帰る前に今後の事も考えて、連絡を交換しようと光喜は考えて聞くも、マルスの表情が先ほどと打って変わり、笑顔のまま貼り付けてこちらを見る。
「そうですね、あの連絡取れるように教えてもらえないですか? 神父とマルスさんの」
「ディダ神父は持ってないよ?」
「えっ、なんで?」
「ディダ神父はね、機械音痴通り越して鬼門となっていて、一週間持たせても壊れるので俺を通してもらう形になりました。なんなら電子レンジや炊飯器にテレビも壊れるので今は置いていません。壊れるので」
あっこれは、もしかすると当人が気付いてないだけで他の人間にも危害加わる質の悪いタイプの話だ。
多分、マルスはこの被害にずっと遭って来た分、もう最終手段、自分で全てをやると言うほぼ暴挙だろうが、こうでもしないともっと被害が出ていたんだろう。
「じゃぁマルスさんお願いします」
光喜の受け答えに、マルスは泣きながら手を掴む。
「理解してくれるって信じてた」
「えぇ……」
いつも家電を壊す男否ドラゴンことディダは困惑した。
帰る為に扉を開けた時、ずっと待ってましたよと言いたげな美しい笑顔をこちらに向けるドゥラを見て、思い出すのは連絡を交換した後の事だ。