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昔の話

 そこへ丁度、ザム達も入って来た。

「遅くなりました」

 セェロはザムに身体検査を受けさせており、万が一何かついていたら取り返しのつかない事になる。

「あー、一応身体検査は?」

 無論そういうのはなく、大丈夫だ。

「しました。全てクリーンです」

 ホッとした所で、セェロは言う。

「よろしい、ではまずフィンの話にはアイツ、ヴェルズの話をしなきゃならない」

「ヴェルズ?」

 初めて聞く名に大人3人を見るが誰だったかと3人して話しているので、きっとそこまで気にしなくていい人物でもあったのだろうと光喜は思うも冬美也は何か違和感を感じていた。

 そう何故今更その人物の名を出すか分からないのだ。

 で、冬美也は不意に顔を青ざめる。

 セェロは冬美也が何かを諭したのを分かるも、話を始めた。

「ギバドロス一家の跡取り息子だよ。俺はある治安の悪い地域の孤児、物心ついた頃から生き抜くならなんでもやった。盗みなんてざらでその辺歩いている連中をぶん殴って有り金や金になりそうなのを奪って行った」

 ギバドロス一家の跡取り息子かよと、皆呆気に取られるがそもそもセェロも相当な悪さをしていたのにも驚く。

 その間にジルは治安の悪い処は必ずそういう連中が蔓延るのを知っている為、近代社会になってもその辺は本当に変わらないと呆れ笑う。

「なんでもか、今も昔も変わりませんねぇ」

 治安を守っていた代表の一が突っ込むと、話がかなりそれそうな内容をジルが言うので、亮が話を戻す。

「お前は何してたんや?」

「んっ? 奴隷」

「……話し戻してどうぞ」

 咳払いするセェロだったが、良くアルビノで生きてこれたなと思っていた。

「俺が力を発揮したのはどこぞの荒くれ警察共が1番弱い仲間を暴行してたんで、皆が救おうとした際銃で殺されかけたが、その時に力に気付いた。分かるだろ?」

「なるほど、無効化の能力は天然だったんですね」

 亮がセェロの無効化にたいそう喜んでいるように見え、セェロからすれば管理者は名に合った能力者を無力化するのであまり好いていないようだ。

「あんたと居ると無効化しているのが同調しあってかき消されるから正直会いたくはなかったが、そこからよ。一気にその地区を牛耳る程の悪になった」

 冬美也はその話だと今纏められているが、想像からしてこの様子だと纏まりが有りそうで無い様な感じにきっと綻びが出るのは時間の問題だろうと感じて口にすればやはりそうだった。

「でもそこまで行ったら目を付けられるか、仲間から不満が出るんじゃ?」

「出た、俺がいる根城を誰かが話したらしく、警察じゃなくマフィアに売りやがった。意外と親友と思っていた奴が金と引き換えに他の仲間も巻き込んでの最悪な形で消滅した……かと思ってたんだが、ギバドロスのおやっさんが俺の力を高く評価したらしく、仲間を助ける代わりにこちらで働くように持ち掛けて来た。答えはNO、死ぬ方がマシだったし、何より他のマフィアにもかなり喧嘩売ってたからこのままだと全員その辺歩いてただけで殺されるか、もっと酷い死に方をするかの二択しかなくって、まぁ利用されるより死んだ方が幾分マシにすら思えた」

 ふとNOと答えている割りには、ピンピンしているしボスとして君臨しているのを見て、一が言う。

「お前さんが今ここに居るって事は、受け入れられてへんやん」

「まぁはい、ボコボコにされ安置されて、どっかに棄てられると思ってたら、思いっきしおやっさんが息子の遊び相手になれって部屋に放り込まれたのが出会いだし、ヴェルズが我儘言ってからのコレだからしゃーない」

 どうやらYESと言うまで、生かしたまま拷問を続ける気ではあっただろうが、ここでヴェルズという存在に助けられたと言うより、我儘で連れてこられた様だ。

 光喜からすれば、先の話を聞いてすぐに思い付くのはコレだった。

「でもなんでセェロさんがボスに? やっぱり下克上?」

「あんな笑顔を貼り付けたサイコパス、誰が逆らうか! おやっさんからもあんな息子の世話出来るなんて知ってたらもっと早い段階で連れて来たのにって言われる程、何考えてるか親ですら分からないって……」

 違うだけでなく、ヴェルズが何かとんでもない人に感じる。

 セェロは話していて思い出す。

 今抗争中の敵対マフィアを1度乗り込んで捕まって欲しいと言われ、しぶしぶわざと捕まり尋問と言うなの拷問を受けた際、途中騒ぎになって無効化を発動、自分は待っていたが砲弾が飛んできた時は流石に失神した。

 その時知ったのだがいつ買ったのか、戦車を使って敵対マフィアを壊滅させたらしい。

 理由はなんかやってみたかったというので、おやっさんを睨みつけるが、ヴェルズは手をこまごましているよりも手っ取り早いでしょと言われて、もう言う口も無いとダンマリだ。

 他にも警察に捕まった幹部を助けるからと金では無く、無効化の力で警察を不能にしたり、ある時は高飛びを狙った裏切り者をしょっぴく為に空港に居ると聞きつけ、飛行機に無効化を掛け動かないのを良い事に銃撃戦になって騒ぎを起こしたりと、どうして止めないんだダンマリなんだと何度命懸けでこちらはやっているんだと今更ながら推し黙る。

 その様子をずっと見ていたジルが言う。

「なんか、セェロ見てるとヴェルズって奴がどれだけ酷いかが伝わるな」

「でも良く無事でしたよね?」

 セェロも思うが、光喜や冬美也の様子はセェロの同情してはいるが、きっと他の仲間が気になっているだろうとその後の話を付け加えてくれた。

「皆に言われてる、ちなみに仲間はカタギになるなら命は取らないって事と、敵対はこっちで処理するから今後は別の土地で暮らせって事で何処かの所で降ろされたって事と一応確認もした。大人しく暮らしていたよ。まぁ裏切り者は結局他の金なし連中に襲われて一文なしって話らしいがな。本当かどうかは知らん」

 ここまで来てもジルが気付かない。

「とりあえずヴェルズは笑顔を絶やさないアバウトな方ってのは分かったが、ゼフォウとどう関係が?」

 まだ気付かないのかよと、軽く舌打ちをしながらセェロは続きを話す。

「あんなやり口だが、ギバドロスの大元の収入源は表舞台の土地売買だ。薬より上手くやりくりすればかなりの収入になるしな。で、こう見えて日本にも幾つか持っていたし、そのやり取りで京都に行った際、あのサイコ、じゃなくてヴェルズは客が茶会と称した会合である芸妓を呼んだんだ。そん時の芸妓に一目惚れしたんだよ。しかもその芸妓がヴェルズが何思っているのか全部分かっていて、皆日本人は空気と目で読むんだって思った」

 あまりの衝撃にまさかヴェルズの感情というべきものを長く居た人間より、こうも読み取るとはと感心した。

 だが、やはり日本人だからと皆読む訳でも無いと冬美也が訂正する。

「それは大きな誤解だ、読まない奴は読まないし、読んでてわざと読まない奴もいる」

「分かってるって、でも異常な程あの笑顔だけで怒っているだの、面倒臭がっているとか分かるか?」

 ジルが言いながら、一と共に亮を見た。

「あー表情出ているのに誰も信用出来ない1人ならココに」

「なぜ俺を見るんです?」

「そりゃ見るよ」

 コイツら仲良いなとセェロは思いながら、冬美也に聞く。

「で、冬美也は気付いているな」

「あぁもう既に話す前から」

 もう関係ないだろう相手ヴェルズが出て来た瞬間からだった。

「うん、その芸妓に会いたいが為に何度も通い詰めて、ヴェルズは芸妓との間に子供を授かった、それがゼフォウだ」

 冬美也はこの時点である疑問が沸く。

「でもアイツはもっと治安の悪い所に居なかったか?」

 何故日本かヴェルズの国にゼフォウがいなかったかだ。

「元々治安の良い場所で芸妓が息子を連れて来て、ヴェルズとおやっさんが警護を入れた状態で会ったんだが、そこでテロリストが爆撃してあっという間に内戦状態へと持って行った。芸妓は無事逃げ延びたが、その息子は行方知れず、ヴェルズとおやっさんは死んだ……なんかお前さんみたいだな」

 何処で自分まで調べたのかは知らないが、冬美也としては知らない光喜にはあまり耳に入れて欲しくは無い。

「オレの話じゃないだろ?」

 はいはいとセェロは言いながら続ける。

「で、それが分かってから派閥が生まれちゃって、それを止める為に妹君、シェリアを立たせるも今度は殺してでも金と権力を手に入れたい連中がこぞって殺し屋送って来て大変で、でもってシェリアは立ってやるからお前が夫になれと言われて、今に至るんですよ」

 ずっと聞いて話さないマウゼスが昔を思い出しながら笑ってしまう。

「ほぼ、こっちもなんでってなりましたけどね。しかも漸く落ち着いたのに、今度ヴェルズに似た子供を売春宿で見つけたって言って、相当騒ぎになった、性癖な意味で」

「マウゼス言うな、あの時は本気で殺され掛けたが誤解は解けたんで、なんとか本人か分からないがその宿に行ってゼフォウを金で買いたいって言ってたんだけど、何人も高額な前金払っていて、その分と合わせて払うって話を持ち掛けたが縦には振らんかった」

 本当にあの時、家に飾られていた剣や刀を取り、無効化されない方法でシェリアがセェロを抹殺しようとして、一時修羅場を迎えていた。

 冬美也もその辺を知っていて、どういう経緯で来たか理解する。

「あー結局病気になってこっちに来たんだ」

「俺らはその頃には一度再度命狙われたけど、買っていた客共だって分かって、シラミ潰しに潰してやったし、後情報操作で消えた事にしたから、落ち着いたけど、今度は異能者の子供らが保護されたって情報が入って、その土地に行ったら今度は誘拐されてるし皆ボロボロだし何があったんよって気持ちだったよ」

 ジルはその話を聞いており、色々とこっちはこっちで修羅場を送っていた。

「それなぁ俺が居なくなってからだろ? 坂本と琴も居なくなって手薄な時に狙われたってアダムが言っていた」

 ずっと聞き手に回っていた光喜が想像の遥か上だった為、唖然としたままだ。

「思ったより、凄い人生送ってる……」

 光喜に同意しつつ、冬美也も誰も知らないその後を語る。

「そうだな、で、助けた後にディダさんらと話つけて、ゼフォウだけじゃなくザム達も迎えた。そこからアイツのDNA検査で漸くヴェルズの子供だって分かったが、今は嫁さんが仕切っているし、アイツが下克上するには暴力的な力なだけで仲間を引っ張れない幼い子供だ。大人になっても地位は譲る気はさらさらないしな。万が一失敗しても殺す気は無い。そこで逃げ道を用意するのと、今後の為にって事で戸籍作る際、アイツには本当の名前で暮らさせたいってのもあってな、さりげなく真名を言った時、アイツは動かなくなった」

 あの時、子供はフィンだけで回りは幹部達とセェロにシェリアで話し合っていた時、フィンに真名を教える形で返したいと思っての行動がまさか裏目に出るとは、未だにやるせない。

 光喜は急に操られた時と一緒だったのかと気付く。

「……動かない? あの時みたいな人形⁉︎」

「そうだ、精神科に従事する医師に診てもらって、これは解けるかって聞いたら、ほぼ不可能呪い、呪縛そのものになっている。ただ気に入った名前があるのならそれを呼び続けていけば解けれる程度までは行けるって事と万が一情報が漏れたら危険性が増すので、アイツには知識を与えはするが今後どうするかは大人になってからの予定だった」

 フィンの不満を取り除く為に仕事も与えた。

 それでも仲間は幹部に選ばれて、どんどん先へ行くのを見ていれば、悩んでいただろうし恨みも少なからずするだろう。

「でも、なんでそんな事で? 誰かがそうしないと」

  あの瞬間を知っている光喜からすれば、絶対誰かがやらないとこうはならないと判断する。

 勿論、冬美也もだ。

「アイツはそんな話していなかった……って事はそれを言わせないように記憶を? いや幼すぎて覚えてないって事も」

 過去の話を知っていれば覚えている記憶だけで、それ以上前のは知らないのなら、分かっててやった犯人がいる。

 セェロも心当たりがあった、あったがもうソイツは死んでいた。

「その件に関して1人心当たりあったが、2年位前に死んだ。因縁のあるマフィアのボスだったが、ある時見知らぬ羽を生やした巨人に殺されたって生き残っていた運転手がずっと今も譫言のように言っているんだとか、お陰でアイツをボコす理由も吐かせる予定も頓挫だよ」

「なんでそいつって分かったんだ?」

 冬美也の問いにセェロは正直に伝え、話は終わる。

「アイツが会合で俺の耳元で囁いた、今はこちらで預かっているって意味のわからない言葉でな。売春宿に居たって事はわざと野放してある程度経ってから回収する気だったんだろう。その間にそれをやられたって考えれば筋が通るからな。話は終わりだ、ゼフォウが現れた時はこっちでなんとかする。もしそっちに来てたら教えろ、俺らの責任だお前達のせいじゃない」

 結局、フィンの過去知っただけで、アムルの行方も分からず仕舞い。

 渋々帰るしか無かったが、セェロは光喜に話しかける。

「所で如月君」

「入りません」

 明らかにまがい物を渡す顔にすぐに逃げようとしたが、セェロは手を見せながら言う。

「既に手元にあったの無いんだけど」

 横を見ればバリボリ食べているニュートンがいた。

「食べるなー‼︎」

 まさかこれが閉めになるとは――。

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