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異界

 理美の気持ちを落ち着かせた後、理美の病室から出て、今は光喜の病室だ。

 改めて光喜は理美が何で入院しているのか聞く。

「ところで理美ちゃんはなんで入院してるの? 負傷はしてないにしろ、ほら、心の影響なのもあっての入院だろうけど?」

 そこは冬美也が教えてくれたのだが意外な言葉に驚きだ。

「バイクで追って行ったけど、横転させられちゃって、その横転した怪我を使った技があるらしくって、それ使ったけど間に合わなかったのが事の顛末」

「へっ……何故バイク?」

 冬美也と卑弥呼は知っているのか、詳細な所を教えてくれる。

「理美の家の山にはバイク専用コースがあって」

「公道で走らなきゃ走れるからって、お兄さんが色々と教えてくれて」

「流石元暴走族バイクの乗り方を理美に教えるとは……」

「元暴走族?」

 光喜が才斗の方を想像しているに違いないので、冬美也はそこを訂正した。

「違うぞ、才斗の方じゃないぞ、颯太の方な」

「あっかなり前に言っていたような?」

 大分前だった為こちらもあまり覚えていない。

 確か名前だけ聞いたような聞いていないような。

「嘉村颯太、今はソシャゲ等のゲーム部門を立ち上げ、運営している」

「ほら、車を男の人で擬人化して人気に火が付いてアニメ化したり、実際ゲーム化もしたりと今人気の」

 冬美也はメインストーリーよりサブストーリーが好きらしく、少し興奮している。

「オレ、サブストーリーの軽トラおじさんズが面白すぎて好きなんだよ。何であんなに乗せといて勝つんだよ軽トラが」

「話ズレてるし、話もどして」

「何言ってんだ冬美也、あれは擬人化じゃなくてドライバーだ、ドライブスフィアを持った奴だけがパーツを使えるんだ。そのドライバーをスカウトすんのが操作するユーザースポンサーだ。よく覚えておけ」

「誰⁉︎」

「彼が噂のお義兄さんです」

「俺はまだ認めてないぞー」

「初めまして如月光喜です」

「こちらこそ、嘉村颯太です」

 光喜が自己紹介をして颯太も返す中、冬美也は言う。

「てか、何してるんです? 理美の病室違うのに?」

「んっ? 理美がお前らに酷い事言ったってウジウジしてたから、詳細聞こうとナースセンターから聞いてここに来た!」

 どうやらあの後すれ違いで颯太が理美の見舞いに来たらしく、その話の流れでこちらにも来てくれたようだ。

 冬美也も卑弥呼もなんて言えばだったが、そこは素直に伝える。

「あっ……成る程、理美がちょっとなぁ」

「理美ちゃんが卑下ちゃって」

 一度落ちた人間だからこそか、そこまで心配していないようで、アンバランスに一々声を掛けるでもなく、それとなく支えると言った感じだった。

「まぁ、落ちる所まで落ちれば後這い上がるだけだし、こっちで日陰に落ちないよう気を配れば良いさ。お前らが居るからフィンも一緒だと思ってたけど?」

「……フィンは」

 困った今フィンは連れ去られてしまってどう言い訳すべきかと考えてしまうも、すぐに冬美也は言う。

「フィンは家庭事情で今アメリカなんです」

 流石と言うべきか、そういえば聖十の高等部でもそう言う話で通っていたのを思い出し、嘘は言ってはいないが、本当でも無い。

 颯太は成る程通りでと言うだけで、話を進める。

「そうか、で、前にな理美から聞いたんだけどひだまり園が火災起きた話で思い出したんだよ。冬美也にも話したよな? 俺昔暴走族に居たって」

 ソシャゲの話の流れで話したと言う程で冬美也は続けた。

「言ってたけど、ついさっき話してたレーシングゲーム、バーサーカーの話の流れで」

『理美ちゃんがバイク乗ってた話は流石に言わないか』

 光喜はそう言っておかないといけないものだと思い、口にはしない。

「理美も大変だったもんなぁ、なんか車に接触して当て逃げ同然で車に逃げられて、今検査入院だし、その話していたらひだまり園の話になって、先輩がそこ出身だったのを思い出して話したらお前達にも話して欲しいって言っていてな」

 一応こういう流れで話を通してたのかと思っていたが、どうやらその先輩と言う人物がもしあの東堂組の幹部だとすると話的には辻褄が合うのだ。

「……あぁぁぁぁ成る程」

 冬美也が納得し、光喜は再度確認のつもりでその先輩のその後について聞くも、会っていないとの事。

「もしかして先輩とは会って」

「会ってるわけ無いだろ? 携帯も変わってて連絡取れないし、でも昔一度だけ先輩も両親を事故で亡くしてて親戚にたらい回しでひだまり園に辿り着いたってこんな風になったのはひだまり園のせいって親戚共が言うが、絶対違うって本人は言っていたし、でもひだまり園には迷惑掛けてしまった後悔はしていたよ」

「でもどうして今思い出したんです?」

「だって、ひだまり園火災が起きて、子供達が皆バラバラになったって理美と話してたら、不意になぁだからたまにあそこわざと通るんだけど流石に先輩には会えなかったよ。まぁこんな状態で会っても俺も何か出来る訳でも無いし会わなくて良かった気もする」

 どうしよう、もしかしたらその先輩はきっと暴力団の幹部していると言う可能性があるので、せっかく暴走族を辞めて表舞台に居るのに、会っていると言う噂が立てば颯太以外の親や企業に迷惑が掛かるのを避ける為にしているのでは無いだろうかと光喜ですら思ってしまう。

 勿論冬美也もだ。

「まぁオレももしそこ出身で心配で顔を出したら、知り合いに出会うのはちょっと引くかも」

「でーすよねーそれじゃ俺も仕事あるし、理美もそのまま暫く休むって形で落ち着けば良いけどな」

「ありがとうございます、わざわざ」

「如月光喜君、理美の為に車を追いかけて橋から落ちるのはよしてくれよ」

 そう言って、颯太は病室から出て行った。

 颯太が居なくなったのを確認して、皆に聞く。

「ねぇ、俺回りから橋から落ちたドジっ子扱いになってない?」

 詳細話すのは流石に不味いが、何故自分の扱いには少々不満がある。

「すまん、親父とナイチンゲール以外は皆にそういう風に話しているから」

 話がそうなっている不服さがあるが、ただこの中で1番よく分からない存在は冬美也だ。

 歩が来たのはフィンを探す為だけでなく、今後の対策と何か起きた時、万が一の為わざわざ連れて来たに違いない。

 ただし、冬美也はどうだ。

 彼だけは何か違和感があった。

「てか冬美也は何してたの? バイト?」

「……そんなところだ」

 すぐに卑弥呼から否定が入る。

「嘘でしょ?」

 流石に隠せないと冬美也は白状した。

「アイツ、アンドレ•ガナフに会って来た」

「な――」

 光喜が言う前に冬美也はすぐ本題を話す。

「会って分かった。アイツはオレの回りにいる全てに対して邪魔だと口にはしていないが、あの口振りからしてまずは理美が……後フィンにもウザさを感じていた様だ」

「1人で会いに行って無事だったから良かったけど、なんでそんな事」

 卑弥呼に言われ、最初話すか迷っていた冬美也だったが、あの時じゃないとアンドレには会えないと踏んで1人だけ別行動を取っていた。

「……最近回りから理美が知らない年配の男性と会っている噂があって、それで理美が坂本に呼ばれて行った時、理美の、その」

 が、最後辺り理美がスマホを置いて行ったのを覗いて会いに行ったのかと疑う。

「スマホ置いてったの覗いたの?」

 すぐに冬美也は否定する。

「違う違う! 覗かないし、理美がスマホを置いて行ってもない! 今しか会えないと踏んで、ユダに頼んで会いに行った」

「あのおっさんも良く、冬美也のお願い聞いたわね」

 卑弥呼がユダに対して呆れてしまう。

 同時に疑いは深まっていくのが見え隠れする。

 冬美也はなんて言えばいいか考え、ゆっくり息を吐きながら話す。

「……まぁ多分近くには居ただろうけど、あの後光喜や理美が病院に運ばれたってユダに聞いて血の気引いた。理美は思いの外無事で、お前は意識不明で先輩はズタボロ、セェロ達は……知らんアイツらいつの間にか居なかったし」

「あの人らは別の場所で治療するのと、多分あっちでフィン、ゼフォウを探すと思う」

 どうやらもうその時点でセェロ達は別の方へ行ったようだ。

 しかしまだ光喜には靄が掛かり、鮮明に理由が見えてこない。

「……なんでフィンを狙ったんだろ?」

「なんでって依頼主が」

「まぁ確かに依頼主がって言うけど、それって穏喜志堂がやるべき仕事だったのかって事」

 光喜からすれば、確かに自分を狙って来た理由も今なら分かる。

 だが同時にどうしてフィンを狙う必要があったかだ。

「多分、如月君が狙いだったのと、誰かがギバドロス一家を潰す為に来たとも取れるわ」

 卑弥呼に言われてなんとなく、合点がいった。

 そうだ、マフィアやギャングと言う組織は強くなれば敵は増えていく。

 今回は本堂組に目を付けられ、他の人間を巻き込まない為にあの時はフィンを保護優先にしてくれた。

 もしも颯太の先輩がそっちにいて、たまたま運悪くひだまり園の出の人間だった為に起こった不幸な巡り合わせ。

 そしてだ、今回たまたま名が挙がっていたアムルが怪しい。

 きっと尋問と言う名の拷問か或いは逃亡をはかられ現状追っている最中かだ。

 光喜と卑弥呼はお互い同じことを同じスピードで言った。

「アムルって人に会って問い質した方が早い」

「アムルって人に会って問い質した方が早いわ」

 こうして、まずは会ってみないと分からない相手、アムルから攻める事を決める。

 

 ――……。


 薄暗い――……。


 薄汚い――……。


 この匂いは嫌いだ。

 生々しく臭い、触るな、舐めるな、嫌だ!

 フィンはそこで目を覚ます。

「はっ! ……ここどこ? いっつぅ、記憶が混濁してて思い出せねぇ」

 誰かに言われたような、思い出せない。

 部屋を見れば、これは壁岩と木製の牢獄、かなり上の方に外の薄暗い光が入って来る。

 茣蓙が敷かれているだけのあまりに肌寒い場所。

 腕とかを見れば色々な箇所に青くなった痣に打撲、服に至っては本当に誰かに脱がされたのか、白い着物を羽織らされただけだ。

 恐怖で青ざめるフィンだったが、体を隅々見るのが非常に嫌だが、仕方がない。

 渋々体の下の方を見て、絶句し吐きそうになった。

 その時、誰かが来た。

 フィンは見上げると、そこに居たのは、長い黒髪で穏やかな雰囲気を纏う女性で目の色が緑色だ。

「……」

 女性は何も言わず、牢獄へと入って来る。

 今なら力づくでなんとでもなるだろうが、実際足枷を付けられている為逃げるのは不可能。

 異能を使おうにも、何故かここでは発動しない。

 何されるか分からず、怯えてしまう。

「やめて――!」

 手で自身を守ろうとしたフィンに対し、女性は貝殻を持って見せる。

「だいじょうぶ、ただ、てあてしにきた。あと、ごはんもってきたから、たべて」

 あまり話すのが苦手か、何だかおかしい。

 まだ警戒を解いていないフィンだったが、急に女性は貝殻の中身を取りフィンに塗り出した。

「……ちょっ!」

 驚き、引き離そうとしたが、塗られたのは軟膏なのか塗り薬だ。

 しかもかなり浸透しやすく治りが尋常ではない速さで治って行く。

「ほか、ぬるから、みせて」

「ごめん! 流石に自分で塗るから置いて!」

「ごはん」

「自分で食べるからそれも置いておいて」

 恐怖は何処へ。

 ここは何処か聞くべきか、連れ去られたのは間違いないだろう。

 フィンは答えてくれるか分からない中で、女性に聞いた。

「ねぇ、君は? それにここは何処かな?」

 女性は意外と気さくに教えてくれる。

「ここ、おんきしどう、いかい、しんどうさまのつくったいかい」

 その言葉に驚き、フィンは外を見ようとするが何せ足枷だけでなく身体に相当負荷を掛けられたのか立つことすらままならない。

 女性は何を思ってかハグレ神を袖から出す。

水花(みずか)でてきて」

 大量の蠢く何かがコチラに向かって来たではないか。

「ちょっ、ま、まぁ?」

 何かされるとパニックになったが、実際はフィンを持ち上げ、外を見せてくれた。

 外を見て気付く、空なのか分からないぐにゃりと曲がる異空間、可能な限り回りを見渡せば細く聳え立つ山、下には日本の武家屋敷にその細く山にも家と言うべきか、通路が幾つも連なっている。

 更に下を見れば長い長い木製の端があり、そこを何か得体のしれない物体が沢山歩いているのが見えた。

「……これが、異界」

 そう呟くといきなり下ろされ、フィンが先ほどの女性を見ると別の若い男が立っていた。

「もう時間なのに遅いから迎えに来たよ」

「しんどうさまもうしわけ」

 女性が頭を深々と下げるが、あまり気にも止めておらず、ただ明らかにフィンを鳥として見ているようだ。

「別に君は特別だからね、籠の鳥は逃がさないように、気を付けるんだよ」

「はい」

 牢獄が閉まると女性が立ち去ろうとする中、フィンは真堂が見えないのを確認した上で女性の名を聞く。

「ねぇ、君の名前は?」

「トウコ、みなにいわれている」

 そう言ってトウコは真堂の後を追って行く。

 まるでトウコと言われる女性は自身の名を持っていないように思えた。

 

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