鎮圧
卑弥呼の第一声。
「あんた誰⁉︎」
「フレアと言います。あとこの子の案内で来ました」
なんとフレアが来たのだ。
しかもフレアは土鬼の案内だと言いながら持ち上げる。
デカイ図体のフレアであるが、後ろから金剛が来ているのにセェロが気付く。
「前だ前‼︎」
「さっきから耳鳴り酷くて、なんて?」
一切分かっておらず、耳を傾ける。
金剛が岩鉱で腕を変形させ、フレアの背後を取った直後だ。
「君の後ろに金剛、敵が居るって教えてるんだよ!!」
フレアの背後から声がし、金剛を止めた人物を見て驚いた。
「なんで、ディダがいるんだよ!」
セェロが驚くも無理もないし、いきなり来たディダですらこんな状況にはもっと驚きだ。
ディダからしても未だに状況が飲み込めず、説明も支離熱烈。
「こっちのセリフだよ‼︎ そもそも土鬼が居て、その後こいつが飛んでくるしでついたら着いたでなんか修羅場なんだけど‼︎」
卑弥呼がディダに言う。
「こんなん相手しなくていいから、ゼフォウを!」
ディダは言われて見てみると、丁度フィンが赤鬼となった光喜に胸ぐらを捕まれ、叩きつけたところだった。
「はぁぁあぁ⁉︎ あんたゼフォウを海外に連れて行かなかったの‼︎」
「ギャアギャア喚くな! 連れて行こうにも蠢く何か――」
セェロが話している最中、土鬼が床を打ち抜いて何かを齧り付く。
「あーコレか……!」
口には溢れんばかりのあの魚がいた。
「コイツを個人的に持ち帰って良いか?」
水島が力が抜け、吐き気を催す顔で言う。
「辞めて……キモイ」
ディダも全身鳥肌で、金剛を叩き斬る。
「お断りします‼︎」
間一髪で躱されてしまう。
しかしその間にも赤鬼はフィンへの攻撃の手を緩めない。
フィンは血反吐を吐いてしまう。
これ以上はフィンが持たない。
水島はある決断をする。
「ちっ……! 時間がかかり過ぎだ。あの小僧だけで良い、魔水!」
そう言うと魔水が動き、フィンを包むように運び出そうとした。
「させない!」
ディダが動こうとすると、金剛が足止めに入って来た。
「おっとお前の相手は――!」
だがその寸前に割って入って来たのはフレアだ。
「悪いけど、僕が相手をさせて貰う!」
大きなフレアだが、相手はハグレ神の使い手敵うはずが無い。
岩鉱との融合の腕が変形し、振り落とされる。
その間にもフレアは言う。
「早く行って! 助けてあげて! どっちも辛がっている!」
ディダは見る。
フレアの腕も金属系へと変貌いていた。
「君は一体……⁉︎」
「早く! 連れて行かれちゃう!」
「う、うん」
その間にも水島はフィンを連れて行こうとするが、赤鬼はそれを許さない。
「これでも喰らいな、トウコ、やれぇ! まだ残ってんだろ!」
一体誰に言っているのか、よく見れば、水島にもあの魚が付いている。
直後、別の壁から大量の水が降り注ぎ、何か得体の知れない化け物が赤鬼を取り込む。
急いでフィンを魔水で運び出そうとする中、ディダがそれをすり抜け刀を振り落とす。
流石に見切られ、水島も魔水も避け切った時だ。
「甘い!」
ズタボロの姿だが、ザムが水島に体当たりをし、転ばせる。
「てめぇ、女を大切にって言われてないのか!」
「口酸っぱく言われてます。アバズレやクズには男女平等でと」
「誰がアバズレだ!」
感情を昂らせた水島が他の場所から出てきた水を使ってザムにジェット噴射のごとく撃ち抜こうとした。
その前に土鬼が床から飛び出し、先程口に含んでいたあの魚達を使って同じくジェット噴射をする。
「そのままで!」
ディダが今度こそと刀を構えた。
ただそれだけはさせまいと、先程フレアと戦っていた金剛が岩鉱を使って長い腕にしてディダを吹き飛ばす。
「このまま赤鬼ごと連れて行けぬか? 出来なければ、ディダを」
まだ言うかと苦い顔をするディダと水島が苦い顔をしながらも何かを言う。
「お前、依頼者からコイツとお上の命令で鬼の血を連れて来いって言われてただろうが、個人で連れて来たいなら後で自分1人で行きな!」
「ふむ、それならお預けという事で、後はよろしくな」
同時にあの水の中をぶち破って赤鬼が出て来た。
「やっぱり無理か、行くよ」
「待て!」
フレアとディダがフィンに近づこう飛び出そうとした時、あの魚群が壁となりフィンから引き離される。
横穴が空いた場所から水島と金剛、そしてフィンが落ちて行く。
「邪魔! 目を覚ましなさい! ゼフォウ!」
目を覚ましたスオウがライフルで壁を一瞬ぶち抜いた。
その一瞬をディダでは無くフレアが通り、勢いを付けてフィンを捉えようとした。
「成る程、あのトウコの力を一切受け付け無いその体、お前の体じゃないだろそれ?」
いつの間にか先に落ちていた筈の金剛が胡座をかきながらこちらを見ている。
フレアはそれを見てしまう。
金剛の腕はいつの間にか4本、いや離れた岩鉱の本体、それがフレアを別の階へと吹き飛ばす。
フレアは別の階層へと落ち、2、3枚壁を打ち抜いてそこで止まった。
「がはっ……! 待て……ゼフォウを……」
不意を突かれた体は言う事を効かず気を失ってしまう。
ディダは飛び降りて一緒にと思っていたが、あの魚群の壁に阻まれ、動けない。
別の階へ降りようと床を打ち退こうと考えると、赤鬼が敵の判別が付かず暴れ出したのだ。
雄叫びを上げながらまず襲ったのは近くにいたディダ。
構えるもそのまま吹っ飛んでしまうも、ザムが後ろに立ってディダのクッションになる。
「……! 神父、無事ですか?」
「ごめん、ザム君。ゼフォウ君を今……助けに行けないこのままだと彼は人を殺してしまう」
苦渋の決断だ。
優先順位は赤鬼となった光喜へと変更。
一方、水島と金剛は止めていた車へと乗り込む。
既に後ろにはある女性が乗っていた。
「トウコ! このまま――を縛っとけ! 運転に集中する」
「……分かった」
そういうと魔水の力が解け、項垂れるフィンを今度はその魚達が縛り上げ動けなくする。
乗っていた金剛だったが、何かの気配を察知し車の上へと変更した。
「おっと俺は上に乗って置く、これは他の異能者達がゾロゾロだ」
地面が波打ち、一気に引っ張られる。
その間に車を巧みに操作し、ある場所へと促されているが全く気にする様子もないまま走れば、何人もの人間達いや坂本や他の部隊が待ち構えていた。
「穏喜志堂及び異能者の救助、鎮圧を遂行する!」
坂本の声と共に、部隊と飛び上がる金剛が衝突する。
コレだけの数だ負ける筈がない。
「トウコ、コイツらにお前のハグレ神食らわしな」
「……ごめんさい」
トウコがそっと呟くと雨が急に魚へと変わる。
驚く最中、大量の水となり、水の塊が落ちて行った。
その間にも車は猛スピードで抜けて行く、バイクが追い掛けるも金剛の岩鉱の腕が色んなモノを投げ飛ばしバイクが横転してしまう。
「あの小娘連れて――」
岩鉱の腕の中に部隊の1人が捕まえていた。
「バカ! 既に1人捕虜ったんだそれで我慢しろ!」
水島が言う中、後ろから地割れが発生する。
「おーおー流石番人の娘、しかしこちらが完璧に優勢だ」
そう言うように、別の空間が開き、その空間へと車が入ると同時に閉じてしまい、地割れは閉じた後の先へと終わった。
先程の大量の水はザフラにより、間一髪で押し潰される事なく、人の居ない場所へと少しずつ流す。
坂本がヘルメットを被った者に言う。
「理美、怪我は?」
理美がヘルメットを外すと頭を横に振る。
「逃げられた……ゼフォウ……」
「ギバドロスの様子を見に行こう、なーんか目覚めちゃいけない何かが居そうで怖いけど」
現場に戻って、赤鬼は今ディダと交戦していた。
よく見れば、赤鬼は仮面を付けたような姿だ。
結晶化したみたいで、顔が覆われている。
怒り狂った般若にも見えた。
『とにかく、どうやって斬れば元に戻る?』
ディダは脇腹に攻撃を受けそうになるもすぐに避け、刀の柄を使って、赤鬼の顔を殴打するも、びくともしない。
それどころか、手がますます人の手から遠ざかる。
このままでは人に戻れなくなると判断し、龍の腕に変化させ、赤鬼の溝内を思い切り殴るも動かない。
「どれだけ硬いんだ!」
赤鬼はこちらを見て、左手を振るう。
多分受けたら頭と体が分離する。
その直後、土鬼が体を捻りながら赤鬼の頭に尾鰭をぶつけた。
勢いがついた土鬼の尾鰭には流石に赤鬼の結晶化した仮面も一部が砕ける。
よく見れば、目の位置が合っていない。
気を失ったまま暴れているように見えた。
同時にあまりに暴れ回るので、床が耐えられなくなって崩れてしまう。
皆も巻き込んでだ。
それぞれ悲鳴を上げてある階層まで落ちて行く中、上から何かが赤鬼の顎にアッパーを喰らわす。
出て来たのはフレアだ。
「……‼︎」
赤鬼も頭を揺らされたら思うようにはいかない。
揺れる感覚に戸惑い動きが鈍る。
「ディダ今だ‼︎」
言われるがまま、ディダは赤鬼を斬り伏せた。
声が聞こえてくる。
「……!」
なんて言っているか、よく分からない。
「こ……!」
ダメだ、眠い……寝たい……。
「起きろ‼︎ バカ光喜‼︎」
ニュートンの罵声で漸く光喜が目を覚ます。
「――こ、ここ何処⁉︎」
起き上がろうとしたら、体に激痛が走り起き上がれない。
「アバババ……な、何い、い痛いんだけど……⁉︎」
「そら痛いだろう、ユダも居ない状態で覚醒して、なんかイレギュラーでデカブツとドラゴンとアザラシ来て漸く止まったんだから」
「どういう……? 俺確か――」
ニュートンがあらかた教えてくれたが、あの時セェロを助けようと庇ったまでは覚えている。
しかしそこから先が全く覚えていない。
そして自分は一体何処にいるのかさっぱりだ。
丁度誰かが入って来た。
「おー起きたか、光喜、今親父と地雷系お局に伝えてくる」
冬美也だ。
光喜が起きたので、総一とナイチンゲールに話をしようと再度出ようとする。
「待って! 冬美也! ……っぅ!」
「無理して起きようとするからだ。ナイチンゲールが見てくれた時に全身凄い事になってたぞ」
「俺、より、も」
痛がる光喜をほっとけず、冬美也は一度椅子に座って軽く説明した。
「分かっている。ただ今は休んだ方が良い。皆疲労困憊だ」
ただ本当に聞きたい内容ではない。
光喜は痛がるのを我慢して聞く。
「……フィンどうなったの?」
なんて話そうか冬美也は考えるも素直にありのまま教えつつ、諸葛の案は続行されるとの事だった。
「……連れ去られた。ただ諸葛の案はそのまま継続って話だ」
無事では無かった事にショックが隠しきれずにパニックになりかけた時、そういえばフィンにも諸葛の案を説明している。
こんな時に継続とは何を考えているんだと言いたいが、冬美也はそれに関しても諸葛からすれば許容範囲だそうだ。
「そ、そんなでも、えぇ……それよりもフィンはそれを――」
「あの話は何処でどうなったかは知らないだろうし、漏れるのは覚悟しているそうだ。既に内容を聞かされた部隊の1人を誘拐されている。だからと言ってそのまま見送るよりやっちゃった方が相手がより動きを見せるからって」
諸葛らしいと言えば諸葛らしいが、ここで光喜はあの時フィンが急におかしくなった理由を改めて冬美也に聞いた。
「なぁそれってフィンの真名が原因って事?」
「そうか、あっち側にも漏れていたのか、通りであの爆発が仲間にも」
庇ったは良いが、それ以降の記憶が全くなく、どうなったかを聞くと、先程の話に繋がり、皆無事なのを知り、ホッとすると同時に自分の今の状態を知りたくなり聞くと冬美也の顔が軽く歪む。
「ごめん、俺あの時、フィンがそうだ、セェロさんを」
「かなり負傷者出ているが、言っただろう? 皆疲労困憊で動けないんだ生きてる無事だ」
「そっかぁ……いや、なんで俺こんなボロボロなの?」
「……おっま! 覚えてないのかよ⁉︎」
「へっ? そのニュートンに覚醒云々は聞いたけどもどういう意味?」
本当に覚えていないのが分かり、冬美也は自身の額に手を当てながら話す。
「そうかぁでもそれ無かったら全滅してたって言ってたしなぁ卑弥呼が、今ナイチンゲールを呼んでくるからちょっと待ってろ」
改めて冬美也は部屋を出た。