⬛︎⬛︎⬛︎くん
セェロが無効化の力を使うが、やはり効かないタイプのようで全然衰える気配がない。
「ちっ……! よりにもよって! 香蘭!」
「あいさ!」
香蘭と呼ばれた女性が、何処から出したのかモーニングスターを持って、飛び上がって天井から横へと走って、水島目掛けて殴り込むも、金剛はそれを阻止。
そのままの勢いで壁へと叩き付けるも、間髪入れずに体勢を整え、攻撃を入れる。
「しつけぇ蝿だな! 岩鉱!」
岩鉱と呼ぶと、いきなり腕が変形そのまま掴んで壁へと押し付けた。
同時にその勢いで壁の向こうの部屋まで飛んで行く。
この部屋は無人だが、ずっと水が溢れた場所だ。
「ラッキー、このまま押し潰してやるよ!」
トカゲの様な姿の魔水がその部屋へと入り込む。
香蘭はすぐに飛び出したいが、金剛の変形した腕が邪魔で動けない。
水が這い上がってくる。
「がはっ……!」
「香蘭!」
だが、すぐに解放された。
いや開放というより、水島の危機を感じそっちに飛んできたのだ。
スオウが先ほどのライフルで人の隙間を縫って水島に弾丸を当てに来た。
「ちっ、邪魔なの消えてこっちがラッキーだったのに」
しかし魔水の方が先に動いてしまった為、当たらず……違う頬を掠ったが正解だ。
お陰で水島はキレた。
「あ゙っ? もっぺんいってみろガキがぁぁぁ‼︎」
魔水が浮き上がり全ての水を吸い上げる。
それを見計らったかのように、フィンが手を翳す。
一気に魔水が爆発した。
金剛は水島を庇う。
「あっぶなぁ……確かにこの坊主は危険過ぎるな」
「魔水! 水があるから無事だったが、水と本当に相性の悪い爆発魔め!」
「だが、コイツを欲しがる奴は山ほど居るのも事実。それに顔も好みなんだよなぁ体は見てみないと」
興奮する金剛はじっとフィンを見ている。
これは噂通りの変態だ。
「ひぃぃぃぃ‼︎」
セェロがフィンを隠しながら言う。
「本当にゲイだったとは」
キレていた水島すら金剛のど変態っぷりを知っている為、次いでとばかりに教えてくれる。
「言っとくが女も食うぞ、好みはあるから」
卑弥呼もここで冷静にならないでと言いながら何かメモを下に置く。
「冷静に戻ってるし、術式魔鏡」
その言葉と共に部屋にあった鏡やエレベーターに廊下の壁等から何かがわらわらと鏡から出て来る。
殆どが骸骨ばかりの屍だ。
卑弥呼が指を指せば一斉に水島と金剛へと走り出す。
金剛はその骸骨をとにかく飛ばす腕を変形させてどんどん飛ばすが今度こちらの場所が悪い。
途中香蘭も再度殴りこむ。
それを払うも、今度はザックだ。
どんどん押されていく。
魔水を使おうにも、フィンも遠距離での爆発に上手く扱えない。
追い出せるそう思った時だ。
「……王女様の術式かよ、ならこっちも奥の手使わせて貰うよ――」
水島は何かを言った。
途中、光喜はセェロを無意識に守る。
セェロは何故光喜が自分を庇うのかと思ったが、すぐに気付かされた。
いきなりフィンが仲間を巻き込んで爆発させたのだ。
あそこまで綺麗に扱えるのに、こんな大雑把に使い、仲間を巻き込むのかと唖然とさせる。
吹き飛んだ影響で気を失い掛けるセェロは慌てて、自分を庇った光喜を見るも、動かない。
ぴくりともしない。
「おい……しっかりしろ! 光喜、おい!」
息が止まっている。
耳を光喜の胸元に置くが、
そんな中、セェロはフィンを見た。
目は虚ろ、何も考えられず動かない。
水島の興奮する笑い声が聞こえる。
「おー凄い、真名を言えば従うって本当だったんだぁ」
「……ゼフォウ! しっかりしろ! お前の今の真名は――それじゃねぇ!」
「やっちゃえ、――くん」
その言葉と共に虚ろなまま手を翳すと目の前で爆発が起こる前に、卑弥呼が飛び散った鏡を使って唱えた。
「術式千鏡結界! ちょっとどうしたのゼフォウの奴!」
「……真名を言われた、言った相手にしかもう言う事を聞かねぇ!」
「無効化は⁉︎」
セェロは力を使っているが、なにぶん先ほどの影響で、手が震え動揺が隠せない。
「しているが、しているがこっちも動揺しすぎて、それよりも光喜が息していない! 心臓も止まっている、人工呼吸!」
それどころかまさか自分を守って気を失っただけでなく、命の危険に晒されている光喜がいる。
流石に卑弥呼も動揺した。
「うっそ!」
「俺がやるから……今出来る奴が居ない以上、あんたに頼むしかない!」
そう言ってセェロは光喜に心臓マッサージと人工呼吸を始める。
息を吹き返すまで卑弥呼は相手をする事になった。
「ついて来て良かったわよ!」
「息してないなら都合が良いわ、こっちで引き取ってあげる、やりな――くん」
爆発を何度も何度もする。
「彼の名前はゼフォウだ! 覚えろ!」
目の前にはザムだ。
殴ろうとする中、今度は盾になれと言い出しいつの間にかフィンが前に立つと同時に声が微かに聞こえる。
「た……す……ぇ……て」
かろうじて抗っている、でもすぐに手を翳し爆発させた。
吹っ飛ぶも威力が先程とは違う弱めだ。
「あれま、抵抗してるわねコイツ」
「仕方がねぇよ。多分白澤辺りが面倒見ていたんじゃねぇの?」
「それもあるか、なら――くんもっと、もっと爆発しまくって、如月光喜を連れて来い」
必死に光喜の意識を取り戻そうと踠いている最中、フィンは無情にもその指示を受け入れる。
セェロはフィンの真名を言おうとするも、喉から声が出ない。
言ったら相手と一緒になるのではと悩んでしまった。
一々悩むセェロに苛立った卑弥呼はここでフィンの真名を呼ぶ。
「――やめなさい‼︎」
それでも先に言われた言葉を優先してフィンは無情にも手を翳した。
暗い。
暗い――。
真っ暗だ――……。
どうしてあの時、自分も熱なんか気にせず行けばこうはならなかったのかと、いつも、いつも思った。
実際、今でも思っている。
でも、新しく仲間が出来て、新しい環境になれて、新しく皆に囲まれた。
何のにどうして今ここにいるの?
ただ皆と普通に……皆とただくだらない事をして日々を過ごしたいだけなのに、どうしてめちゃくちゃにするの?
憎い?
そうだ、憎いんだ。
憎くてムカつく、仲間を無理矢理使って、仲間をめちゃくちゃにしたアイツらが憎い。
力があれば、アースなんかじゃなく、自分だけの力で圧倒したい。
力を――力を自分の力を使ってぶち壊したい!
全てを壊す力が……‼︎
真っ暗な闇から赤く揺らめく光が照らす。
手に取れば間違いなく手に入る。
でも同時に破壊衝動が止まらないのが一瞬で分かる。
ふとみれば、自分が見れる。
ニュートンが必死に呼びかけている。
セェロは自分を生き返そうと心臓マッサージをし、その盾役として卑弥呼が頑張っていた。
フィンを見れば無表情なまま泣き出している。
止めようとしているが真名を言われては手も足も出ず、大人しく指示に従う。
声が聞こえて来る。
「ころ……して……もう……ヤダ……」
仲間を殺すかも知れない状況で助けではなく、苦しいから死ぬのではなく、仲間を助ける為に死ぬ事を選んだ気がした。
迷っている暇なんてない。
多分手にすれば二度と戻れない、でもこれ以上フィンをこのままにしたくはなかった。
「止める為に……手を取ろう」
セェロも卑弥呼も流石に限界が来る。
「お前らぁ無事なら退避‼︎」
「そうはさせないよ? 魔水!」
何人か動ける部下を水没させ、もがき苦しむ。
「ちくしょう……!」
力を使いたいが光喜が未だ目も息もしない。
手を休まる事すら出来ないまま、手をこまねくなんてこんな不恰好は悔しくて泣けて来る。
卑弥呼に至っては別方向でキレてた。
『弟に連絡……入れたけど、こっちも襲撃受けたから動けないとかふざけた返信しやがって‼︎』
直後、フィンの爆発がセェロの目の前で起きる。
爆風で飛んだのか?
いや、飛んでもいない。
何故か痛みも無いし、無事である。
目の前には先程まで息を吹き返すまで必死に心臓マッサージをしていた光喜が立っていた。
息を吹き返したと喜ぶだろうが、喜ぶ気なんてさらさらない。
「だ、誰だお前?」
立っているのは光喜、でも違う。
角が一本そそり立ち、体付きも先程とは打って違い、薄っすら赤い。
顔がこちらに向けば、犬歯が鋭く尖っている。
光喜だった何かが叫ぶ。
「がぁぁぁぁ‼︎」
魔水に囚われたセェロの部下達が吹っ飛ぶ形で全員生きて無事だ。
「なんだアレは⁉︎」
「うひゃー鬼が起きた。どうする? 息してない時に連れて行きたかったけど?」
「倒してからでも良いだろう」
「んじゃ、――くん、赤鬼を吹き飛ばしな」
爆発するが、傷一つ付いていない。
光喜だった者、赤鬼は揺らめいたかと思えば、いつの間にか金剛の前に立ち、手を金剛の前へと置く。
金剛がその一瞬を理解して1歩だけ引いた。
引かなければ、引かなければ死を意味する。
いきなり金剛が消えたかと思えば、壁を壊し向こうにいた。
「し、死んだかと思った……!」
むくっと起き上がるが、先程と打って変わり傷だらけだ。
水島は赤鬼を魔水の力で水を顔に付け窒息を狙う。
「バカ、防壁が死んだら逃げ道消えるから死ぬんじゃねぇよ!」
しかし赤鬼から蒸気が見え、ゆっくりとこちらに向かってきた。
このままだとこちらが死ぬ。
水が干上がり、顔が出る。
金剛がフィンに指示した。
「――、この赤鬼をやれ‼︎ ただ殺すな、絶対に!」
フィンは未だに真名を呼ぶ相手にしか反応しない。
そのまフィンは赤鬼付近を爆発させる。
ただ卑弥呼もフィンの真名を言っているのに反応しないのは流石に腹が立つ。
「だぁぁぁ‼︎ なんで私も――あれ言ったのに反応しないのよ‼︎」
「多分、ゼフォウの耳に入っているのはアイツらの声だけだ、見ろ耳を」
セェロに言われて、じっと見れば何かへばりついているのが見えた。
「何アレ……あの時のジュースにいた魚⁉︎」
耳に入り込む細い魚に驚くも、一体いつと考えるなか、セェロはもう水島と金剛が来た辺りから耳に入り込まれたと考えている。
「多分水島達に気を取られている間に知らない間にくっ付いてしまったんだ。水は水島だけと先入観が立ったんだ……畜生、ゼフォウをなんとか」
卑弥呼的にはゼフォウも危険だがそれよりももっと危険な人物と化した光喜が心配だった。
「それよりも! 如月君よ‼︎ 彼、赤鬼になって暴れてるじゃない」
「でもこっちには」
「バカ言わないで術式の夢幻鏡で見えなくしている、見えたらきっといや絶対襲って来る……!」
その言葉通り、欠けた鏡が部下達それぞれに浮き、見えなくしてくれていたのだ。
だがこれも時間の問題、あちらは今赤鬼と化した光喜に夢中であるが、いつ水島と金剛がこちらに向かって来るから分からない。
セェロは言う。
「クソが、光喜を連れて来たのは、あの中で唯一そこまでの関係者が居ないからと光喜だけゼフォウが会いたい相手として言ったんだ」
深い理由とかは無く、裏の糸がない、それで居て問題の無いだけでなく、フィンが会いたいと願ったから叶えたかった。
「おそらくなんだけど、理美ちゃんと冬美也君関係もあるし、フィリア呼んでも戦いになったら非戦闘員だから呼ぶに呼べないもんね」
今なら言えると、セェロが更に正直に話す。
「まぁ、正直な話卑弥呼なら一緒に来てくれるって踏んでたんだよね。こっちの界隈にもそう言った系統いるけど、断られるのが目に見えてるし」
「成る程なら私だけ呼びなさいよ!」
「だってぇ、ゼフォウも卑弥呼だけでは来ないと言ってたし」
確かにそれはそうだが、もっと詳細を聞けたらこうはならなかったと言おうとした時、近くで爆発した。
「おい! アイツそんな――わぁぁ‼︎」
本当に驚き尻餅をつく。
こんな状態では2人を止めるのも危険だ。
水島が一瞬の間を感じ、勘付いた。
「そういや、あんたらを始末しなきゃな、――くんはそのまま赤鬼よろ、魔水、アイツら全員水没させな!」
やばい、気付かれてしまった。
誰1人、身動きが取れない状況に今魔水いや岩鉱の力が卑弥呼に向かえば太刀打ち出来ない。
セェロは力を使おうとするが、使えない感覚にあまり言う事を聞いてくれない幼子の様な感じだ。
金剛が何か光モノを感じ取り、突っ込んできた。
「見つけたー‼︎」
赤鬼もフィンとやり合い気付かない。
卑弥呼も自身がやられれば、回りに更なる被害が及ぶ。
他の術を使おうにも今やってしまうと負傷して動けない者達が露わになる。
詰んだ――……。
そう思った時、この階にいきなり何かが壁を打ち抜いて入って来た。
土埃で見えないが、金剛よりも大柄な男が卑弥呼達の前に立っている。
「……大丈夫ですか?」