火事の後
次の日、フィンは家庭の用事で暫く休むと言う事を教師から言われていた為、皆最初は驚くも家庭の用事なら仕方がないと皆が納得した。
ただ、ザフラは知っているのか、すぐに冬美也に聞く。
「アミーナから聞いたが、あの火災のあった園に出入りしていた暴力団幹部のせいで連れ戻されたんだろ?」
勿論、小声で人に聞かれぬよう辺りを見渡しながらだ。
「あぁ、光喜も知ってる」
「うん、あのひだまり園再開……難しいだろうなぁ」
それから3日後――……。
ニュースは火災の話はあれど、放火か火事かの話は無く、無責任な報道で子供達の顔が晒される。
これほどプライバシー等と言う言葉を使うメディアのくせして子供の人権は無視なのだろうか。
しかも、ひだまり園に対して冷ややかなコメントばかり踊り、最終的には意図的に煽る人間達が居て嫌気がさす。
まるで自分がされてきたあの時と一緒ではないか。
光喜は部室でそうそう項垂れる。
「あーなんか腹立つー!」
今日は卑弥呼が来ていた。
「気持ちは分かるけど、私達は子供として生きている分、どうしようもないわよ」
フィリアもいる。
「万が一本当に暴力団関係者が出入りしていたって話出てきたら、もう止めようがないわよ? それでゼフォウも連れて行かれちゃった訳だし」
「でも、これただの火事ならまだ――」
「ただの火事じゃないぞ、本物の放火だそうだ」
ジャンヌが部室に入りながらとんでもない事を言い出す。
「はぁ? じゃあ、あの騒ぎ起こした犯人が居るってこと?」
「そう言う事だ」
「なら早――」
「急いだってしょうがないだろ? まだ特定もされていないし、とりあえず引火燃料が撒かれていたのと、やっぱり金庫が開いてあったらしい。ただ、燃えてしまった分何があって何が無くなったかは不明だ」
結局、犯人は何を持って行ったか分からず仕舞い。
「ナイチンゲールさん、その後何も返事来ないけど、どうなったんですかね園長」
ジャンヌがそれについて知っており、どうなったかを教えてくれた。
「こっちは聞いている、きっと全員にするより知り合った仲にしか送っていないんだろう」
「無事?」
「ニュース通り、今も意識不明だが、手術は無事成功、後は目覚めればなんだが、峠は過ぎたのかも不明だ」
「……」
結局、話は戻ったに過ぎず、しかも未だ意識不明のままだ。
助かって良かったにせよ、未だ峠は過ぎたかも分からない。
そしてジャンヌはこれ以上の事は警察に任せ、イビトでは無い限り、手を出す気はないようだ。
「捜査の邪魔はもうしたくはない、イビトなら話別なんだが」
「至極真っ当な意見ね、でもそのうち警察が話聞きに来ない?」
「それは大丈夫だ。その辺は坂本が何とかやる」
改めて、フィリアは坂本とはどんな人間なのか疑った。
「本当、坂本さんって何なの?」
「俺帰ります、バイトも今日休みだし、でもこう燻ってるままだとなんか……」
ジャンヌは燻ってなんとも言えない光喜に言う。
「自分で出来る範囲が越えてるからな、仕方がない。そしてどんなに時代が変わってもその辺全然変わらんからな」
「結局、どの時代もその辺の線引きは難しいですね」
「まっそう言う事だ、お前も出しゃばり過ぎるなよ。ボクもやり過ぎたから、後日向みたいに我慢だけはするな」
「あーはい、気を付けます」
流石にそんな話されるとどう動けば良いか分からなくなるが、肝に銘じておくのも悪くなかった。
帰り道、今日は少し遠回りしながら、帰っているが、実際にはひだまり園に住んでいた子供達を遠目で確認したかっただけだ。
あまり干渉し過ぎても、しなさ過ぎても正直心がしんどい。
でもやれるだけはやったと言う自己満足な状態なままもなのももっと嫌だ。
丁度小学生達が帰る途中のようで、皆それぞれ歩いているのが見えた。
逐一聞くのはただの不審者だろうし、今行くのは得策ではないだろう。
普通に元気そうな子供達、この子達は普通の家族の子かなと思ってそれだけ確認したら帰ろうとした時だ。
取材班の帯を腕に付けた数人の大人達がうろつき撮影している。
しかも、一々掘り返そうとする内容が散りばめられていた。
怖い、でも子供達も嫌がっている。
先生達は?
家族の許可は?
一体どう言うつもりだと、一言言って追い払おう。
そう思った。
だが、黒い物体が空から落ちて来て、取材班達がそれに気を取られている間に、近所の人だろう、子供達を避難させた後、取材班達に怒鳴りつけている。
唖然とする中、光喜の腕を誰かが掴む。
「如月先輩」
「うわ! 理美ちゃんどうしてここに⁉︎」
そこに居たのは理美だ。
「一応、坂本さん達にカラス達を身張り付けさせているので、心配しなくて良いですよ」
なるほど、そのお陰で他の住民達も気付いてくれたのか。
少し離れましょうと理美に言われるがまま、別の道へ――。
数分歩き続けて、漸くこの辺ならと言う所で光喜は理美に言う。
「結構それ便利だね」
最初に見た時もそうだったが、本当に便利だと実感する。
当の理美からするとこれも不安要素のようで、あまりいい顔をしない。
「うーん、確かに便利だし、動物達とも話せるし、でもたまにこの力のお陰で人との関わりや優しくしてもらっているんじゃないかって不安になる」
そういう時こそ、アースに聞くべきではと思ったが、もう理美は聞いていた。
「アースに聞けば?」
「何度も聞いてるけど、やっぱり不安で……」
これは思いの外、重症なのかもしれない。
なんて言えば良いのだろうか。
優しさ、はなんか違う。
きつめに……は逆効果になってしまうだろうか。
「お前の場合、サポート型、下手すると蛇口が上手く閉まらないタイプだとままある。諦めろ」
何処で聞いたか忘れたが、内容はハッキリ覚えていた。
「うわぁぁぁぁ……前にどっかで聞いたようなぁ」
理美も分かっていたし、それで踏ん切り付けようと考えてもいたが、あの影響だろう、かなり受けており、それについて悩んでいたのだ。
「諦めれば、正直楽なんだけど、本当はね、それくらいならって、私人付き合い苦手で、アースのお陰で上手く行っている気がするからそれで良いと思ってた」
「なら――」
「でも、冬美也の気持ちもこの愛されし者のせいでって思う事があって」
1番の悩みは結局冬美也だった。
この力のせいで彼の感情を操っているのではと凄く悩んでいるようで、こればかりは自身で解決するしかない。
なんて言葉を掛けようと思っていたら、誰かが近付いて来た。
「あれ? 君達、クライヴ以来だね」
「諸葛さんだ、こんにちは」
亮だ。
本当にクライヴとの闘い以来久しぶりだが、何故いるのかと驚いてしまう。
「何故ここに⁉︎」
「こんにちは、今はあの後のイビトの子供達や、火事によるショックを受けた子供達のケアとか色々してて、君らは?」
なんて言えば良いのか、考えていると理美はそのまま伝えるので、光喜も率直に答える。
「坂本さんによる指示でカラス飛ばしてた」
「子供達心配でちょっと……」
話を聞いた亮はなるほどと言いながら、先ほどの話を盗み聞きしていたのだろう。
どういった内容か聞き返しているようにしか聞こえない。
「さっきカラス襲ってたのはそれだったのか? で、今相談受けてたけどどういった内容で?」
お互いどうしようかと言う顔で見合わせ、なんとなく答えたくないのでうやむやにしてしまおうかと目配せで送りあう。
なんとなく信用度がユダより低いのは事実で、この人本当に何考えているかわからない。
「いや、別に、ねぇ」
「うん、そう別に」
「君ら、そりゃ孔明って昔から信用度低かったけどさ言い方がさぁ」
「デカッ! えっ……白虎?」
「はい、私の名は、秋と申します」
白い虎なのに何故秋なのか。
それよりも、どうしてあの有名な諸葛孔明である亮に対してアースである秋が信用度が低いとはこれいかに。
「昔からって凄い人だったんでしょ?」
秋は凄いからこそ何考えているのか本気で分からない、本当に味方なのかと疑っている人間も少なからず居ただろうが、もっと言えば一般の兵士達からも少々怖がられていたようだ。
「えぇ、凄い人です、信用もあります。ですが、そのぅ……下手すると何考えてるか正直分からないから怖がられちゃって」
「あぁ、なんとなく分かります」
秋はやっぱりとしょげている中、亮が気にせず理美に近付く。
「分かっちゃうのか、君は自分自身に自信が無いのかな?」
「あっ、いえ」
「例えば、力を無意識に使っているんじゃないかとか?」
やっぱりと光喜も思えば、亮のアース、秋までも腐った物を見る様な目で引いていた。
「……盗み聞きしてるよこの人」
「うわぁ……」
「違います、全然違うから、2人、いや秋までも引かないの」
「すいません、でもただのモヤモヤなので気にしな――」
「なら、こちらの力で少しどんな状況下見てみるなんてどうでしょうか?」
「はい?」
いきなり、亮が指を鳴らすと動物達が一斉に逃げ出したのだ。
カラスは飛び交い、ネズミ達が走り出し、近くを通っていた歩行者達も騒いでしまう程、意外な動物の数には光喜も驚いた。
「結構、見張っていたみたいですね。動物達」
「いや、なんでいきなり? と言うか確か――」
「そう、俺の力は無効化だから少しの間それで過ごすのはどうかと思って、怖いかもしれないけど、そろそろ慣れないといきなり出来なくなったりした時の準備も出来ずパニック起きますから」
「言う通りですけど、いきなりやったら」
光喜の言う通り、理美は一体何が起きているのかと戸惑いが隠せない。
「まぁそうですね。期間を設けていけば、強弱が可能になるので、元に戻します」
少し考えた理美はこう言った。
「……良いです暫くこのままで」
亮も少し驚いた顔になり、坂本に怒られたく無いのだろう、お願いされているのだからと言うが、当の理美は今の状態がいい様だ。
「えっ? でも、ほらお願いされているんじゃ?」
「そうなんですが、なんかこのままいたいんです」
「良いよ、でも、こちらの都合で解くからそこは考えておいて」
「分かりました」
そう言って理美が歩き出す。
何か覚悟しているような顔だったので、このまま放って置くわけにも行かない。
「理美ちゃん……」
思い足取りでも動かそうとしたら、意外な答えが待っていた。
「ちなみにもう解いてます」
「うぇえぇ?」
「今の所ちゃんと蓋出来ているみたいですので、力出せなくなって困った時は意外とクライヴの力の愛されし者でこじ開けれるので、大丈夫ですよ」
あの力、単純な力だけかと思ったが、意外と便利なのだと思っていたが、ふと我に返り光喜は亮にある事を聞く。
「そうだ! あの後由梨花ちゃん達は⁉︎」
「大丈夫、改めてこちら側にも協力的に話してくれたんで、暫くはあの子のケアをするとの事で、これからあの子に会いに行くのですが?」
行きたいのは本音だが、ほったらかししている理美も心配でそちらを優先することにした。
「すいません、今日はちょっと放ってはいけない気がするので」
「何が?」
「うわぁぁぁさっき向こう行ってなかった?」
「うん、でも一緒に来てなかったから」
ふと見ればもう猫がいる。
『やっぱり本当に解いたんだ……』
でもやっぱり怪しいので、亮を見るもその猫をに手をそっと添えて、声もチチチと出しているが、猫の方は匂いを嗅ぐが拒否して亮の手を叩く。
「この子は元々人慣れしてるんだけど、拒否したの初めて見た」
むしろ理美の方が驚いている。
こっちからすれば、力の影響かと思っていたが、既に足に絡みついてく鳴く猫を見て感心してしまった。
「えっ? そうなの!? ……おぉ本当に懐いてる」
亮も再度チャレンジするも、既に猫から敵判定をもらっているのか、猫は無表情のまま亮を引っ掻く。
「なんで、自分には懐かないの、痛い!」
『やっぱり怪しいって思われてるんだ』
秋からは呆れてものが言えない。
「そういえば、理美は何処に向かう予定だったのかい?」
「いや、冬美也のバイト先襲撃しようと」
きっと今の力が出ていない時の反応が見たかったのだろうが、言い方が良くない為こっちは困惑だ。
『どうして襲撃?』
『せめて確認とか言って』
秋もどう突っ込もうか耳がペシャンコになってしまっている中、亮が言う。
「それなら、奢りますので一緒に由梨花ちゃんの所行きませんか?」
かなり強引な流れになって行き、断ろうにも変な返事が出るだけで、勝手に亮は話を進めてしまう。
「へっ?」
「君のアースとも会話もしたいし、今後の日程も決めてゆっくり蓋の開け閉めを覚えて行きましょう。ほら、まずはお土産として冬美也君のバイトを襲撃しましょう!」
結果、勝手に亮が決めて勝手に歩き出した。
このまま放っておいても良いのだろうか暫し悩んだ。