救出
光喜は1度だけここに来た事がある。
「な、んで? ここが?」
唖然と立ち尽くす光喜に対して冬美也が言う。
「光喜? ここ知っているのか?」
「うん、ここ児童養護施設ひだまり園……そんな事より! 子供達が!」
そう言った直後、炎の中から誰かが子供達を連れて出てくる。
「ディダ! どうして!」
「そんな事より! まだ消防来てない⁉︎」
「いや、ついさっき気付いてフィンも⁉︎」
「フィン君はそっちでここの園長を見てもらってる」
「見てって?」
本来なら説明したいが現状、話す暇がない。
「僕はまだ避難し損ねた子達を探すから、暇ならドゥラも手伝って!」
「久しぶりなの再会なのに……良いでしょう!」
いきなり指示されて驚くもすぐに手伝いに火事の中に突っ込んで行く。
とりあえず、家事から救出された子供達を連れ、フィンの元へ行くとフィンの方が驚いた。
「……! お前らどうした⁉︎」
「それはこっちのセリフ! ひだまり園なんで?」
フィンも一応連絡を貰っていたが、向かっている最中に火災により助けを呼びに来た子供と会い、そちらを優先したようだ。
「悪い、冬美也から連絡あって向かってたんだけど、火災に気付いた子供が大人を呼びに走ってたんだ。近所の人がもう連絡してくれてたんだけど、園長が倒れていて」
「じゃあディダは?」
「火災の臭いで駆けつけてくれて……ここ入り組んでいるし、まだ消防車や救急車も来ないし」
きっとクライヴとの戦いで避難誘導してしまっているせいで、消防署もそっちに追われているのではと考え、何もこちらでは言えなくなる中、理美がすぐに連絡をしてくれていた。
「今、他の管理者の人達に連絡したら、一気にこっちに向かってくれるって、流石に優紀君1人にしちゃまずいから琴が送るって」
戦っている最中に万が一の為に避難したせいでこうなってしまったのではと罪悪感が増す中、光喜が声を出すもすぐに理美が訂正してくれたが、こうも遅れているのだからと口に漏らす。
「やっぱりクライヴとの――」
「多分絶対に違うよ、もし避難誘導の時にこっちも優先して避難させるし、消防署だって危険重視でこっちに来るでしょ?」
「でもこっちのせいで人が足りなくしてしまったのかも」
でも冬美也も光喜に言う中すぐにもう来た。
「さっき管理者達にも連絡行ってるからすぐは無いだろうが手隙が先に――!」
「今、坂本から連絡来てGPSでここ来たんだが、消防署は何やってんだい!」
なんとナイチンゲールが来てくれたのだ。
フィンも驚いてしまう。
「うぉぉぉ! お局!」
「フィンもそう言わないの!」
「それよりも、この人は?」
「ここの園長……全然目を覚さないし、ディダと救助したんだけど、近所の人達も火が回ってしまって中に入れないし、先生方も避難誘導したんだけど、探しても見つからない子達も居て」
「後頭部に殴打された跡がある、こっちの力でとりあえず治せれば良いが」
「治せる⁉︎」
ナイチンゲールは自身の愛されし者の力を説明し、同時に園長の後頭部を触る。
「あたしは細胞に愛されし者、細胞を再生させれるし、攻撃としても使えるよ。まあ運悪く仕事中にクライヴが来やがって……!」
「でもそれなら」
「定時上がり! 丁度連絡あってそれなら重傷者等を診る為に来たんだよ。そしたら誰かに殴られた跡だ。何処に倒れてた?」
フィンがナイチンゲールの言葉に驚きながらも奥の廊下である事を教える。
「奥の廊下だけど?」
「物とか棚とかは?」
子供達を宥めていたここで働いている先生が話に入って来た。
「確か奥の廊下の近くには書類等を保管する部屋があって金庫もありますけど?」
それを聞いたナイチンゲールは言う。
「後で金庫の中身確認しな、多分無くなっている、あるいは開けようとした痕跡がある筈だ」
取り残された子供達をディダとドゥラが救助しつつ、他に居ないか先生達に人数を確認してもらい誰も取り損ねていない事が分かった直後、漸く消防車と救急車が到着。
医師でもあるナイチンゲールが救急隊に一通りの説明と今の状態、病院なら今働いている所なら空きがあると迅速な対応で受け入れ先が決まり、先生の中から代表者を決めた後、ナイチンゲールは乗らず、救急車を先に行かせる。
「良いの? 乗って行かなくても?」
「いや、ほかの重傷者は居ないし、一酸化炭素中毒の子も居ない。火傷の負傷者も幸い居ないからあたしはあの患者が心配だから1度病院に戻るよ」
ナイチンゲールは患者の後を追うとの事で一旦離れるそうだ。
それを聞いた冬美也もこの時点で父、総一がどうなるか諭す。
「親父の今病院だから、親父今日帰れないだろうな」
理美もあの重傷患者に対してとこの状態に言うも、先ほどの会話を冬美也が再度簡素にだが話す。
「あぁ……仕方がないよ、火事だし」
「放火の可能性出たぞ、ナイチンゲールがあの園長の後頭部に殴られた跡あるって言ってたから」
「えぇ」
皆顔を青ざめている最中、火事の鎮火が始まる。
ほぼほぼ鎮火が終わり、全員無事、ただ1つ問題が残った。
孤児や何らかの理由でこの施設にいた子供達もいる。
この子供達をすぐに預けて貰える場所なんて無いに等しいだろう。
火事の検証するのは明日になるようで、取り締まりに来ていた警察も後日聴き取りになるとも言っていた。
理美達が子供達の事についてディダに言うも頭を横に振られる。
「ねぇディダ、子供達の事なんだけど」
「前に言ったけど、翼園は僕らだけが運営しているんじゃない、ちゃんとした組織があるんだ。だから現在は別の新人達が運営を任されている」
「う、うんそうだけど、子供達だけでも」
「受け入れるとしても人数は数名だけ、あそこまでいると運営出来ない。昔は回りに理解した大人達だけじゃなく、短期間で保護した子供達が帰れる保障があったからで長期間見れるならオーバーしてもゼフォウ君達までだ」
ただディダの言い分が正しい。
流石に今回のは施設の火事、他施設が簡単に受け入れるとしても、1つの施設に良くて数人だ。
しかも今日中に子供達が寝る為の場所を確保が必要。
理美もこれ以上何も言えなかった。
「……」
「まあまあ、その辺であんたらの一存じゃなんの解決しないわよ」
いつの間にか坂本が来ており、いつ来たと呟く冬美也についさっきと答える中、一も来て言う。
「とりあえず、公民館を臨時貸し出しで、随時施設に入ってもらうって形にして行くってのが今現状出来る事やし、多分警察来るけど素直に火事の臭いでーとか何か燃えてたらここだったで良いから」
冬美也はナイチンゲールが言っていたのを話すも、一がそれ以上の事は専門にと流す。
「そうだな、でもナイチンゲールがあの園長後頭部に殴られた跡あったって」
「……それでも自分らはただの人、いい加減な仕事しない警察に当たる事を願うだけや」
確かにその通りだし、もし自分達だけでやるにも限界がある。
皆分かってのことだ。
だから息と共のに飲み込む。
坂本は最近の治安の悪化についつい琴が言っていた事を口にし一が突っ込んだ。
「最近琴ちゃん、夜廻下手だの、逃すだの、するから治安悪化するから皆もう銃よりも刀所持して斬られても文句言わせないようにすれば良いのではって言ってるんのよねぇ」
「何故幕末に戻そうとする琴!」
鎮火も終わり、徐々に皆離れて行く中、ずっと光喜がその跡を見ているに気になって冬美也は話し掛けた。
「さっきっから火事跡見ているが大丈夫か?」
「あっ……いや、たまたまなんだけどフィンがこの園と付き合いって言うのかな? そういうのがあって俺も1日だけ一緒に直したり話したりしてた一期一会みたいな感じで終わったと思ってたのに、皆燃えちゃって、どう頭で整理すれば良いのか分からない」
正直、ナイチンゲールが言っていたことが正しければ、これはもしかしたらと思って口にはしない。
ただそれ以上にフィンの状態が心配で、どう話せば良いのだろうかと悩むも、フィンは気丈に振る舞いいつもの姿を見せる。
「そうか、フィンに、ゼフォウになんて話せば……」
「良いよ、大丈夫、ディダに言われてたのに、なんてーの? やっぱり人助けって性に合わないのかもね」
フィンの瞳が潤んでいた。
これ以上居てもただ邪魔になるだけ、救急隊も消防士達も大分落ち着き、怪我人も運ばれた以上も完全な鎮火を待つだけなので、後程警察が来たらありのままとは行かないが、一の言う通りに言って置けばいい。
皆、それぞれ帰る事にした。
まぁ、だからと言ってこの状態、ディダが子供達を送る事と言い、ドゥラも言うが店に行けと行かせ、今に至る。
かといって、あの火事の後、皆無言だ。
ここでようやく時間を確認したらもう夜の9時に回る頃。
クライヴを捕まえた時にはまだ夕方の6時だった気がする。
捕まえた話をしたような気がしたけど、あの状態では仕方ない。
「せっかく捕まえたのに、なんかごめんね、俺のせいで後味悪くして」
「そんなこと誰も」
「んまぁ分かっているからさ、俺もあそこの園の子が助け呼ぶために裸足で来てくれて、そこまで火の手がって思ってたんだけど」
「木材のかなり古い建物だったからね。でも想像以上に燃えるのが早くって、先生達も避難させている最中に煙に巻かれて大変だったみたいで」
「ディダなら助けられるだろうから、本当助かったよ、危うく爆発させて救出って考えてたから」
「それ他の民家被害行くからやめて」
「園長、無事だと良いな」
「うん、そうだね。無事だったら――」
皆で見舞いに行こう、そう言おうとした時、数台の黒い車が止まった。
最初、こんな所でと思っていたが、すぐさま良くないものとしてディダが皆の前に立ち、それはないでしょと声がし車から出て来たのはセェロだ。
「すまん、ちょっと野暮用が出来てフィンを匿わんとならん状態になった」
フィンもどういう状況でと声を出すもセェロはあのひだまり園に付いて話す。
「はっ? どういう?」
「お前もひだまり園が黒とか白とかきっちり調べて白と報告、まぁ確かに白だった」
「白だった?」
「最近、東堂組の幹部が出入りしているのが分かった」
前に他の生徒達やネットニュースでも話題になっていた噂の暴力団の組の名だ。
「なんで、だってあそこそんな組との繋がりも、関わりも」
「そうなかった、が、東堂組の幹部が出入りしている以上、下手に動き回せるわけにいかない。とまぁそういう事だけど勝元組よりは話分かる連中多いから早いうちに返すと思うから、んじゃ連れて行きまーす。なんなら乗ってきます?」
どうやらその組に狙われている可能性も視野に入れ、フィンを一時的に匿う為連れ戻しに来たらしい。
ついでにと他の子達も送ると部下達が降りてくるので慌ててディダが止める。
「帰せますから! と言うかフィン君」
匿うならと言おうとしたのだろうディダより先にフィンは言う。
「大丈夫、ボスの命令だし大人しく従うよ」
セェロがこっちにと促し、フィンはそのまま乗ってしまった。
仕方がない、自分達だけでは守れないのを先程痛感したばかり。
由梨花は無事だが、結局他の経験者達で助かっただけ、火事だってそうだ。
運良く火事に気付いてくれたディダが来て、手遅れに近い状態から全員避難させてくれた。
子供の自分達はただ見ているしかない。
歯痒いとはこういう事だろう。
ふと、セェロが自分を見る。
「そうだ、光喜君にコレ上げる」
光喜はすぐに気付き突っぱねようとした時、ディダが怖い形相でセェロに聞く。
「いや、良いです」
「何あげようとしてるの?」
「ガン飛ばさないで下さいよ。ただのまがい物です」
「色々アウト!」
ディダも分かっているのだろうが、光喜のアース、ニュートンがまがい物を食べないといけないのは知らないので、理美が教えると酷く戸惑った。
「でも、如月先輩のアースコレ食べないと力出ないし、さっき倒れてたし」
「えぇ……」
「貰ってもお返し出来ないので」
丁重にお断りするも、セェロは持っていた袋が無いのを言う。
「でももう、消えたんですけど?」
「はぁ? ……おまぇぇぇぇ!」
もうニュートンがまがい物を食べてた。
セェロにもし呼ばれ何かあったら、断る事も逃げることすら出来ないではないか。
「腹減ってたんだから無理」
「だからせめて断れよ!」
側から見れば凄い大きな独り言だ。
それを見ながらセェロは笑って言う。
「まぁ何かあったら呼ぶから」
完璧に終わった瞬間の光喜は叫びながら咽び泣く。
「わぁぁぁっぁぁ!」
「どんまい、光喜」
流石に冬美也も同情した。
「それじゃ冗談はさて置いて、もう行きますわ。警察に職質されるとお互い部が悪いし」
セェロの冗談発言に、光喜はアレは冗談なのかと冬美也を見るも冗談では無い顔をされて余計に絶望が勝った。
それよりもディダはセェロに苦虫を食わされつつも、車越しからフィンに話す。
「お互いって……フィン君、何かあったらマルスのスマホに」
助けたいのは本音だろうが、どうもスマホにすら慣れないディダに対してフィンは恐怖すら覚える。
「本当、神父って機械系に疎いの通り越して鬼門なのなんなの? 多分すぐ戻ってくるからさ」
笑って誤魔化すフィンに申し訳なさを感じつつも再度セェロに言う前に先に答えるも全員に疑いの目が掛かった。
「セェロさん、フィンに何か」
「絶対にしませんよ。あんたが想像している事は絶対」
胡散くそうと部下にすら呟かれ、おいと突っ込むもすぐに車に乗り込む。
同時に車を出せと言うとあっという間に数台の車は出発。
一緒の車に乗ったフィンが気まずそうに言う。
「すいません、俺のせいで組織が……」
ただセェロはフィンを抱き寄せ言った。
「良い、俺がそうするよう言ってきたんだ。後は俺らに任せろ。学生生活送らせれなくてすまん」
「ぅぅ……」
その言葉にフィンは悔しかったのか安心したのか分からない涙を流す。
次の日から学院でフィンは家族の事情で暫く休むと先生から皆に伝えられた。