再会
光喜は今、冬美也達とカラオケ店に向かっていた。
どうしてかと言うと、理由は簡単誘いを断るも、先輩達が迎えに来たからだった。
仕方がないのでとりあえず、来ているであろう咲にloinで連絡した。
光喜
[咲さん、今日クラスメイトと先輩とカラオケ行く事になったんですが良いですか?]
咲
[えぇ! って言いたいけど、一度顔見せてほしいなぁそのクラスメイトと先輩がどんな人か一応知って置かないと、行かせられないわ]
「――と言う訳で、咲さんが一度皆さんを見たいと言っているので良いですか?」
ごもっともな意見に、冬美也に言うと、丁度来ていた先輩であるジャンヌが言った。
「心配性ではあるが、優しい人だな」
そう言う事ならと意気揚々とジャンヌが誰かにloinし始め、冬美也に他は頼むと言って、なんか壮大になって来た。
学院の玄関口に咲が立っていた。
勿論、光喜に会う為であり、クラスメイトと先輩がどんな人か見極める為だ。
光喜が咲を見つけ言った。
「咲さん、お待たせ」
「お疲れ様、どうやってけそう?」
「うん、なんとか」
とりあえず、知っている様な人も居ないし、余計な詮索する者も居ない、今の所は平穏そのものだろう。
光喜の後から、冬美也達がやって来た。
「初めまして、同じクラスでマンションの隣に住んでいる冬美也と――」
「同じく冬美也とルームシェアしてるフィンで〜す」
咲がジッと見て2人が妙に緊張している。
それもそうだろう、光喜は漸く落ち着いた状態であり、まだ本当は1人に出来ないとも言えるが、自身の意思でここに居るのだ。
万が一バカな連中に下手な事されたら一溜りもない。
だが、その後ジャンヌが他の人も連れてやって来た。
「すまん、遅れてしまって、僕はジャンヌ、ジャンヌ・テインソンと言います。隣は僕と同じクラスの――」
「光照卑弥呼です。ジャンヌと一緒に生徒会してるんです。もう1人居るんですが、今日は都合付かないみたいで、ですが、彼等も彼女もとても良い人たちでとても助かってます」
長い黒髪で清楚な感じの女性と呼べる程の大人びた卑弥呼は咲を圧倒させた。
「光照先輩、まだ会って間もない何処か、今まさに初対面ですよ」
「神崎煩い」
卑弥呼の圧が凄く、冬美也も黙ってしまう。
「うすっ」
それでも、咲を安心せる為に、笑顔でアピールする卑弥呼の熱意とも取れる行動に咲は気を許した様でこう言った。
「うちの甥っ子は色々あってちょっと人間不信なの、だから細心の注意を心掛け欲しいの」
流石に慌てて光喜が止めた。
「ちょっと咲さん!」
やはり過保護になってしまう咲を見て、ジャンヌは言った。
「咲さん、ボクらは彼等のご両親に面倒をお願いされています。光喜君を大事にしている分、ボクが彼を護ります」
なんか凄い事を述べるジャンヌに、光喜は何度驚けば良いのかと内心パニックになりかけた。
しかし、咲は返って安心したようで微笑んで言った。
「あはは、思ったより良い学生さん達が多くて良かった、でもあまり遅くまで遊ばない様に、たまに会いに行くから」
面白いメンツとでも思われているような気もしたが、なんとなく悪くは無いし、普通に良い子として見たのだろう。
咲は安心して門前まで一緒に歩いて、光喜に言う。
「うん、来る時連絡してね」
光喜も咲の態度に安堵しつつも、スマホで時間を見た。
「はいはい、分かったよ。てか、咲さん仕事抜け出して来たんじゃないの?」
自分の為に、仕事を抜け出しているので少々罪悪感があり、申し訳なく思うも、咲は全く気にしておらず、どうやらちゃんと午前中に有休を取り、わざわざ来てくれたようだ。
「そうだけど、午前中は休み貰っているし、昼に作家さんと打ち合わせしてから会社に戻るって話にしているから大丈夫よ、じゃ、気を付けてね」
咲は笑って、手を振りながら歩いて行った。
それを見送り、さあ行くかと言うところで冬美也がまたloinをしながら言った。
「後輩達は先にもう現地に居るって」
「そういえば、明日だもんな中等部の入学式」
流石に焦り出す光喜に対してジャンヌはとても冷静だった。
「えっ⁉︎ そんなに一気に集まるなら俺」
「大丈夫だ、万が一後輩達って言っても2人位だ。新部長と新副部長だ」
何かを思い出し、卑弥呼が言うと冬美也が返す。
「そうだ、一応あの子にもちゃんと話さないと」
「大丈夫、オレの方で話てるから」
誰にとか言おうと思っていたが、もう行こうぜと軽くフィンに促されるまま、皆一斉に歩き出し、光喜も釣られて歩いた。
そうして駅に乗り、繁華街へと着き、もうすぐ目的地のカラオケ店に着くと言う時だ。
誰かが呼び止めた。
「光喜くん! 久しぶりだね!」
その声に聞き覚えがある。
振り向きたくない。
一緒に歩いていたフィンが気付き、その声の主に言う。
「誰きみ? ちょっと人違いじゃない? 俺ら忙しい――」
あしらっているのか、追い払ってくれていたが、その声の主はフィンの言葉には耳を傾けず、無理矢理光喜の腕を掴んだ。
光喜は本気で嫌だと体が震えるのが分かった。
それでも振り向かなければ、声の主が前に来るだろう。
嫌でも、振り向くしかない。
光喜は恐る恐る振り向いた。
「やっぱり、光喜だ!」
春日谷咲楽が居た。
喉を詰まらせるも必死に言う。
「な、んで?」
更に咲楽の後ろから何人か中学時代のクラスメイトが居た。
皆、怨みを持って睨みつけているのが分かる。
自分ばかり平和に暮らしているのが見て分かってしまったのだと、勘付き、今すぐ逃げなくては咲楽の掴んだ手を振り払おうとするが、いつの間にか片手から両手になっていた。
「ねぇ! 久しぶりにあたし達と遊ぼう!」
咲楽はとても嬉しそうに笑っているのが、ますます恐怖を助長させるが、本人は恨み辛みすら無く、本当に純粋な気持ちで誘っているのが目で分かった。
自分では振り払えない。
光喜が誰かに助けを求めようとした時、振り払ってくれたのは冬美也だった。
「おい、良い加減にしろ、嫌がってるのが分からないのか?」
振り払われたのに驚く咲楽は、冬美也を見て言った。
「あなたは?」
「光喜の友達だ。これから皆で遊びに行くんだから、邪魔するな」
フィンも加勢して話にケリを付けようとした。
「怯えさせる気は無いけど、今他の友達と約束で向かっている最中だし、その制服だと学区外ばっかりで、一応こっちは先生も来てくれてるから別段問題ないけど、騒ぎだけは嫌でしょ? だったら――」
しかしそうも行かなかった。
「へぇ、お前らだってこいつの事知ってたんじゃねぇか?」
ゆっくり車椅子に乗って近付いて来たのは渉だ。
どうして、ここに居るのか、咲から聞いた話では身体障害を持った人達の専門高校の寮に入ったと言う話だった。
しかもここからでも相当遠い場所な筈だ。
そんな事より、冬美也達に対して知っていたとはどういう事だ。
「渉⁉︎ 知ってた? どう言う?」
冬美也は驚いていたが、何か考えハッと分かった顔をして言った。
「同姓同名な人なんて意外と居るもんだ。行くぞ、光喜」
その輪に卑弥呼も入って、光喜の肩を押してあげた。
「光喜君、急ぎましょ、顔色悪いし、早く横になったほうが良いわ」
だが、渉は言った。
「今さっき、お前気が付いただろ? 良いよなぁ、そういう親切な人に囲まれて、ヘラヘラ出来てよう。なんで俺らがこう苦しんでるの見て被害者面してんだよ?」
光喜はその言葉に言い返せず、苦しくなる、申し訳なくなる。
周りを見れば、いつの間にか知らぬ人達が自分に白い目で見てる様に見えた。
それどころか、元クラスメイト達が自然と囲い始めていた。
冬美也達が警戒していたが、もっと怖い者が居た。
「ねぇ、一緒に遊びに行こうよ、大丈夫あたしがいるからねぇ?」
咲楽が何も感じ取らずに、手を伸ばす。
他の元クラスメイトが言う。
「言っておくけど、咲楽は精神がおかしくなってるから、あんただけだよ、羨ましい位平気になれるのは」
不満の声が次々上がっていく。
今すぐ離れたい、言われたくない、傷付きたくない、知らせたくない、知ってほしくない。
光喜は悲鳴をあげて、卑弥呼の手を振り払い逃げ出した。
「嫌だぁぁぁぁぁ‼︎」
すぐに冬美也が走ろうとしたが、今まで黙っていたジャンヌが言った。
「君達はこの騒動の説明した方が良い、中等部の先生に連絡した。ボクが彼を責任持って連れ戻す」
ジャンヌは光喜の後を追い、他の皆はこの状態で逃げ出す事はせず、逃さない様に動き出した。