火災
光喜達は茫然と立ち尽くす。
亮の愛されし者の力が無効化にする無に愛されし者だからだ。
「このまま一緒の行動でも良かったけども、力に愛されし者であるクライヴが1番嫌うのは無効化されることだから、こっちも苦手だが過激派なら尚の事だ」
「でも、よく優紀君に化けてたのに上手く行きましたよね?」
実際、一が光喜達の元に来て、走りながら作戦会議をして、光喜が優紀とドゥラの話をした際、なら日向を優紀に化けさせれば良いとなり、事前に回収していた優紀の髪の毛を使って一の遺伝子に愛されし者で日向を化けさせたのだ。
しかし日向として本当に上手く行くとは思ってもみなかった。
「いやぁ、正直不安だったんだが、ここまで上手く行くとはな」
「亜人に気を取られたからとちゃう? 当の亜人さんは一切興味なさそうですけども?」
一の言う方向には、琴とドゥラが一緒にやって来た所だ。
ドゥラが自身の話だと分かっているのか普通に答える。
「えっ? 主でもないのに行くわけないじゃないですか?」
聞いた当人も回りもドン引き。
「……えぇ」
「敗因が見えたな」
日向も呆れている中、冬美也と言えば、硬直したまま動かない。
光喜だけ言った。
「焦りは禁物って言うのは、こういう事だね」
「で、この野蛮人どうするの? 擬似空間に放置?」
理美もこのまま置いていけば良いのかと思っての言葉に対し、亮はそのまま締め技をクライヴに掛けながら立ち上がって言う。
「擬似空間作ってくれてる方が疲れるので、知り合いの施設にでもぶち込んでおくので、とりあえず出ましょう」
そうして皆一同クライヴを生け取りに成功して擬似空間を出ると、坂本がいた。
よく見れば回りには坂本の部下であろう人々が切磋琢磨しく働いている。
坂本は亮達に近付きつつ、クライヴを見て言う。
「お疲れ、クライヴよく殺さずに捕まえたわね」
「えぇ、ところであのイビトの子供は?」
「親共々今はこっちで保護中、優紀君もこっちで見てるから安心しなさい」
一安心と言った所で、冬美也がドゥラを見て聞くと、とっても明るく嬉しそうなドゥラに圧倒される。
「……良かった、よりコイツがドゥラ?」
「そうです、お兄様、私がドゥラです」
「お兄様って言うな」
で、それはどうでも良く、クライヴは坂本にも食い付くもすぐに言い返す。
「くっそが! お前ら矛のクセして、盾に協力する!」
「あんたねぇ有事の際は協力って言うのが管理者達の掟の1つなの忘れたの?」
何故かクライヴが目線を逸らす。
「こいつ、過激派っていっつもそれよね、大事な事忘れて暴れ回って矛からしたら邪魔な存在だわ本当」
「なんだと!」
喧嘩をしようにも、亮の力で完全な無効化を受けたクライヴにはどうしようもなく、とりあえず拘束用の紐を貰い縛り上げる。
光喜は辺りを見渡しながら由梨花が見つけられず、場所を坂本に言ってみると、衛と呼ばれた女性が案内してくれる事となった。
「俺、由梨花ちゃんの所に行きたいんですが」
「分かった、衛、宮野さんの元へ連れて行ってあげて」
「うぃっす、こちらです」
「ありがとうございます」
案内されたのはこの地区の公民館、回りには不発弾が見つかったので避難したと言うらしいが、実は違う物だったと辻褄合わせを今しているらしく、他の住人達も居る。
ただ、宮野親子と優紀達は別室で保護していた。
衛が戸を開けると、一斉にこちらを見る。
先に声を上げたのは由梨花だ。
「お兄ちゃん!」
どちらも怪我はなく、少しまだ動揺を隠せていないが大分落ち着いていた。
それが見れただけでも安堵し今更ながら疲労がドッと押し寄せ、足が崩れてしまう。
「由梨花ちゃんとお母さん無事で良かった……!」
恵麻はどうしてこうなったのか、内心分かっていたのだろう、いきなり土下座を始め驚いてしまう。
「本当に申し訳ございませんでした、私達のせいで」
「ちょっ! 俺、今回何もしてませんし! 寧ろ優紀君のお陰なんです。だからその謝るんじゃなくて、お礼なら優紀君に……」
よく見ればこの2人、ゲームしながら待っており、緊張感や不安はどこに行ったんだと言いたいが、言われた優紀は一切気にせず、それどころかこっちに振って来た。
「ぼく、何もしてないし、と言うかなんで如月さんに懐いてるの?」
光喜はきっと管理者だからと思っていたから下手な事を言わないでほしいと願う中、意外な言葉を聞き腑抜けてしまう。
『うっ! これは俺が管理者だからと言う理由が濃厚だからあまり言ってほしくない!』
「お兄ちゃんが……あの中で1番お話聞いてくれそうだから」
「えっ? それだけ?」
「あの時はお母さん達と会う前に居た施設の人達が管理者の矛には気を付けて、独り言が誰かと会話しているようならって……でもお兄ちゃんはあの中で本当にお話聞いてくれるんじゃないかって」
やはりあの言葉は本当で、でも由梨花としては話を聞いてくれる人が欲しかっただけ、それが分かるだけでも御の字だ。
でも結局は優紀が1番重要な部分を言ってくれた。
だから今回は何1つしていない。
「俺は結局してないよ? お話だって――」
それでも優紀は突っぱねる。
「ぼくは付いて来ただけだし、恭ちゃんと」
ただ1番の被害者な筈の恭輔の意外な言葉に固まった。
「うん、菓子食べれそうな気配だったけど、変人が来たせいで逃して、なんか貴族みたいなのが来たのも面白かった」
「何1つ面白くないよ」
恭輔には恐怖心と言うものはないのだろうか。
「あのさ、絵梨花ちゃんの事を」
亡くなった絵梨花の言葉をありのまま伝えてくれたからこそ、こうして今の話が出来るのだから、光喜からすれば本当に恩人そのもの。
ただ普通を貫く為におかしい人にならない為にこうしてきつく言うのは愛ゆえだからだろうが、優紀は伝えて欲しいと願った絵梨花の為に宮野家に一緒に来てくれたのではと思っている。
「あれはあっちから、多分兄ちゃんも見えてたと思うけど、ほら他の人いる所ではおかしな人になるからって父さんからきつく言われてるから」
話を聞けるだけではどうしようもなかった。
「そっか、ありがとう俺だけじゃダメだったから」
「さっきも言ったけど――」
何度も言うなと優紀が言おうとした時、冬美也が来て先程のぶっきらぼうな雰囲気が一気に消し飛んだ。
「優紀!」
「兄ちゃん!」
やはり親しき兄がいるだけで本来の優紀と言うべきか猫を被っていると言うべきか、それはそれで兄弟は良いものだと光喜が思っているともう1人顔を出す。
「主!」
ドゥラを見た瞬間、先程のぶっきらぼうとは違う本気で嫌な顔に変貌した。
「お前は帰れ!」
光喜と冬美也が見て感じる。
『扱いが――』
『酷いなぁ』
そんな感じをしながらも、少しして仕事を切り上げて大慌てで来た恵麻の夫も合流し、由梨花と恵麻が無事なのが分かると泣き崩れ、抱き締め合う。
「良かった! 本当に良かった!」
「お父さん、お母さん、ごめんなさい……」
「良いんだ! 由梨花は何も悪くない! 私達の我儘で来てくれたんだ。由梨花として私達は尊重したい。これからもっと由梨花を知って行くから!」
多分、お互いがお互い気を使い過ぎてズレていた。
本来なら優紀の言葉でゆっくり寄り添える形が、クライヴのせいではあるが、荒療治みたいになりはしたが、宮野家族は漸く形となった感じだ。
ふと見れば亮がおり、ちょっと聞いてみた。
「旦那さんかなり焦ってたけど、やっぱり不発弾とか?」
亮はその問いに答える。
「いや、ありのまま話したよ?」
「はっ? ありのままって?」
「いや、そのままの意味」
この瞬間、光喜は本当にありのまま起こったことを事もあろうか、恵麻の夫に話していたのだ。
「……えぇぇ」
確かに下手な隠し方はあまり良くないが、実際これは今後に関わるのではと、クライヴはどうしたと言いたい。
「ちなみにもう坂本へ引き渡してます」
宮野家族も安全が保証されればすぐに帰れるだろうとホッとした時、廊下から聞き覚えが聞こえてくる。
なんとクライヴが警備を振り払い縛られたままこちらに向かって来たのだ。
「諸葛! てめぇだけは絶対!」
亮はしょうがないなあと言いながら、向かおうとした時、優紀も覗きそのまま何故かクライヴの名前聞くので、何も考えなしに教えてあげたら偉い事に。
「うっさいよ、おっさん、名前なんて言うの?」
「あの人? クライヴだよ」
「クライヴさん、しばらく大人しくしてて、出来ないんだったら一生ミジンコ以下だから!」
「はっ? 何言って……だぁぁぁ!」
壮大に転けただけではない。
クライヴが幾ら立ちあがろうにも力が入らないのだ。
最初、気を張ったので宮野家族も怯えたものの、クライヴが一向に来ない事から全員気が緩む。
「とりあえず回収しますか、全く隙が無いんですから」
「な、ななな……」
そう言って、亮がクライヴを連れて行った。
ドゥラも帰らず、ニコニコしたままこんな事を言う。
「いやぁ、主が本気出せば他合いも無いですね」
正直な話、ただ話しただけであぁはならない。
優紀に聞きたいが、当の本人はもう気にしないでと兄に言うし、光喜自身もあまり詮索しないでおくことにした。
「主言うな。兄ちゃんも気にしないで」
ただやはり兄である冬美也は気にはするが、もっと気になる事があるようだ。
「気にするわ、優紀はもうしばらくここで待っててくれないか?」
「なんで?」
一緒に帰る気だったし、光喜も帰る気でいたのだからどうしてと思っていたが、原因はフィンだった。
「フィンと理美と3人でこっちに向かい筈だったんだけど、フィンに連絡送っても既読も電話も出てくれなくってちょっと心配で……あぁでも今日集会なら別に良いんだけど」
「そういえば、今日集会だって言ってたよね?」
「集会ならもう終わっている筈ですよ? 一緒に行きますか?」
「ドゥラさんそういえばそっちで仕事してましたもんね」
「そうです、こう見えて私、一度覚えた匂いを正確な場所を把握出来るんですよ!」
「怖っ!」
クライヴが運ばれて行く様子を眺めながら理美が来た。
「冬美也、ゼフォウの場所に行く? 私も一緒に行きたい」
「そうだな、一緒に行くか」
今回、2人で来たけど大丈夫だったのだろうかと一抹の不安もあったが、それよりもフィンが来ないのも不思議な感覚だった為、光喜もその輪に入る。
「なら俺も」
「ついで感覚だな」
冬美也が軽く突っ込んでいる間に、ドゥラは意気揚々と言う。
「なら私がご案内します!」
話も纏まったところで優紀も兄の言う通り待つことにした。
「ぼくは兄ちゃんの言う通りこのまま待っているから」
「先に帰る事になっても坂本さん達が送ると思うし大丈夫だろ」
確かに大人に送ってもらえるならそれにことし事はない。
「うん、もし送られる事になったらloinで送るから」
「あぁ、じゃちょっとドゥラ借りるな」
ドゥラを借りると言った矢先に優紀の目が死んだ。
「いや何処かに置いて行って下さい」
それを見た理美と光喜はドキッとする。
『目が死んどる』
『優紀君! もう少し言葉をもっとオブラートに包んで!』
こうしてジャンヌ達にフィンの所に行くので優紀をお願いと言いつつ、外へ出た。
一緒に行きながらも、意外と他愛もない会話が続く。
「最初一緒に来た時ちょっと心配だったんだよねぇ」
「大丈夫だよ。喧嘩って程ではないし」
「喧嘩したの⁉︎」
驚く光喜にすぐ冬美也が否定する。
「してない! 言いくるめとかもない! と言うか、話すかって時に優紀から連絡があったんだよ。電話内が思いっきりお前がやられてるのだったし」
どうやらあの時に連絡と言うより、もう音だけでどうなっているか分かる状態だったようだ。
「吹っ飛ばされましたー」
「その音が思い切り聞こえてビビりましたー」
ここで光喜が話を戻す。
「でもなんで喧嘩って?」
「いや、凄い形相で」
理美の言葉にこれから喧嘩するのかと言う冬美也の身構える姿があった。
流石にそこは納得しかない。
「あー……」
「でも、由梨花ちゃん無事で良かった」
「そうだな、優紀達も無事だったし恭輔は才斗さんが迎えに来るって琴さん言ってたし」
後は本当にこれから宮野家族がどうするかなので子供自分達はこれ以上入る事は無いだろう。
そんな考えをしていた時、先に歩いていたドゥラが立ち止まる。
「場が落ち着いてきたからそろそろ帰ると……どうしたんですドゥラさん?」
「施設が焼ける匂いがします。その中からフィンさんの匂いも混じっています」
「……アイツ何やってんだよ!」
「こちらです!」
一大事ですぐに急がないといけないのは分かるが、こっちのスピードに合わせて欲しいと言おうとしたら、理美がその後をすぐに走って行くので光喜は逆に感心してしまう。
「いやはや、速いな理美ちゃんも!」
腹減りで動けない筈のニュートンが光喜の肩にもたれ掛かりながら言った。
「その、内、お前、も、なる、から、がんば、れ」
「お前はもうまがい物貰えるまで出てくるな!」
もたれ掛かられると意外と重いのに驚くも、腹減って力が出ないくせに出て来て欲しくない。
「ほら、行くぞ、オレらが1番遅くなっているんだから!」
冬美也に促され、急いで走る。
ただ、自分には1度見た光景にあって欲しくないと願わずにはいられない。
「な、んで?」
ひだまり園が炎に包まれていた。