由梨花
それから数日過ぎ、今のところクライヴの情報が無い。
だが、着実にあの管理者は監視の目を掻い潜り、襲われた被害者も出ている。
このままして良いわけには行けない。
しかもあれ以降、フィンもなんかぎこちなさを感じる。
あの時はあぁ言ってなんとか持ったがそれでも、余計な事を言ってしまったのではと考えてしまう。
とりあえず、今日はアルバイトも無いし、自分だけ行く事にした。
「連絡したけど、皆用事あるから遅いか来れないって言ってたな」
スマホを覗けば、loinの内容はほとんどが来られない、用事が起きたばかりで、流石に1人で行くのも危険ではと思うも日向がいるので大丈夫だと思う。
近くの小さな公園まで来た時、小学高学年位の子供達が集まって何か盛り上がっているのに気付く。
よく見ればゲーム機を持って遊んでいるようだ。
『そういや小学校の頃俺もしてたなぁ』
光喜はそう思いながら立ち去ろうとした時、小さな子供が自分にぶつかって来た。
よそ見でもしていたのだろう。
すぐに謝ろうとした時、誰なのか分かってしまった。
「あ、ごめんね! よそ見して……って由梨花ちゃん!?」
「ごめんなさい! 由梨花が珍しく走っていったから驚いたわ」
なんと、由梨花と恵麻がいたのだ。
どうしたものかと思っていたが、まずは普通に挨拶をすると誰かがやって来る。
「どうも、スーパー以来ですね」
「そうですね、今日は私早く終われたので帰りがてらお散歩してたところで」
「へぇそうなんですか」
「あれ? 兄ちゃんの友達の如月さんだ!」
なんと恭輔だ。
いつ教えたっ掛けと考えていると、もう1人来た。
「んっ? 本当だ、姉ちゃん所の先輩だ!」
「うぉ! 優紀君にえっと恭輔君なんでここに⁉︎」
もう1人は優紀だ。
そう優紀と恭輔がゲーム機を持って遊んでいた。
たまたま光喜の姿が目に入ったとかで、やって来た2人はお互い目を合わせた後、ここにいる理由を教えてくれた。
「なんでって、今日、恭輔と遊ぶ約束してたし」
「塾ないから遊ぶ約束してて、今日はスマランしてた」
この間の仲良くなったと言うのは本当らしく、わざわざ他の友達も連れてゲームをしていたらしく、しかもそのゲームも光喜は知っている。
「スマッシュ乱舞か、あの狂気に満ちた伝説の」
自社のキャラクターだけでなくわざわざ他社のゲームキャラもお借りして吹っ飛ばすとんでもないゲームだ。
光喜も遊んでいたが、あの崩落事件以降遊んでいない。
ただ狂気の満ちた伝説は他にもあったらしく、恭輔がそのゲームについて言った。
「それはピンクボールのレーシングじゃね?」
大分古いが、相当若い者にも話が出ているのか、どっちもどっちと優紀が答える。
「いやどっちもだよ?」
話を早々にして恭輔が恵麻に気付き挨拶した。
「宮野さんこんにちは、今日はどうしたの?」
「今日は早目に上がって由梨花と一緒にお散歩を」
「へぇ、由梨花ちゃんこんにちは」
「……こんにちは」
由梨花は挨拶後、すぐに引っ込んでしまう。
恵麻は笑いながらも、隣にいる優紀が気になり訊ねる。
「ごめんなさい、人見知りしやすい子だから、ところでこちらは?」
「こんにちは、優紀です」
優紀が言うので、返すかと思いきやもう恵麻の真後ろで一切動こうとしない。
仕方がないので、恵麻より先に光喜が促す。
「由梨花ちゃん、優紀お兄さんにも挨拶しよ?」
何故か今度はこっちにやって来てくっ付いたまま由梨花が挨拶した。
「……こんにちは」
くっ付いてしまっては動けない。
「あ、あのぅ由梨花ちゃん?」
「めっずらし! 全然他人に懐かないって言われているのに如月さんには懐いてんだ?」
「困ったわ……そうだわ一緒にどうですこれから? 恭輔君達も」
「良いのヤッター!」
「じゃ、ぼくは兄ちゃんと父さんに連絡入れる」
いきなりの展開について行けないまま、まさかのご招待に光喜は混乱してしまい、他の子達も居るしとか言っても他の子達はしばらくここで遊ぶと言い、その場で恭輔と優紀がここから離脱、同時に共に一緒に行くこととなった。
『えー⁉︎』
本当に宮野家へと恭輔と優紀と共に来てしまう。
他の家よりは小さめだが、庭を大きめに取っているようで、子供用のブランコや砂場も用意されていた。
『き、来てしまった』
恭輔が聞く。
「如月さんはどうやって宮野さんと知り合いになったん?」
「俺? 優紀君を連れて皆で動物園行った時に迷子の由梨花ちゃんを見つけたと言うより」
「ぼくの兄ちゃんが何故か攻撃して如月さんが木陰で休憩中に居たその子が」
「お前の兄ちゃん、前々から思ってたけど、攻撃的だよね?」
この話を聞くと出会っていない頃どんな人物だったのか段々物騒になっていくので、やめていただきたい。
「そ、そんな事より今のご時世、良いんです俺達を招いて?」
「良いのよ、由梨花が初めて気に入ってくれてる人だから」
よっぽど由梨花が好いた相手に気を許す程相当だ。
どうするか断るか、でもここまで来たらと悩んでいたら、肩に何かが乗ったのを感じ振り向けば、日向のアース、雷神がいた。
「――!?」
驚き過ぎて声が出ないお陰で誰も気付いていない。
雷神が話す。
「そう驚くな、ちなみに他にもアースがいるから、それともセフィラムと代わる?」
本当に理美が言っていたように、電気ねずみだ。
それよりも、セフィラムだけは止めて欲しい。
ジャンヌには言っていないが最初に出会った時に少々トラウマを植え付けられている。
最小の小声で言う。
「絶対にいや! 驚くから!」
光喜の様子で雷神は大体の理解が出来たが、ある事を指示して来た。
「まぁ、他の管理者達も見た時悲鳴上げる連中多かったからな。それより、今は甘えて中に入れもっと親しくなれれば何か見えてくるだろ?」
断ると言う選択肢はあるだろうが、ふと足元にはぴったりとくっついた由梨花がいる。
由梨花を見ていたら、こっちも気付いてなんと微笑んだ。
とりあえず笑い返すと驚くも嬉しそうに笑う。
それを見て罪悪感が生まれ、もう帰りたくて仕方がない。
『帰りたい……せめて見張りだけで良かった』
でも優紀も恭輔も放置するわけにも行かず、一緒に宮野家の家へとお邪魔した。
家に入るとまず目にするのは、子供の写真だ。
色んな場所に飾られ、色んな所に子供のおもちゃも置かれている。
でもそれを遊んだ形跡がない。
常に片付けているからなのかと思えば、由梨花はそうではないと言う。
「これは絵梨花の、私のじゃない」
「絵梨花?」
「この子は養子で、絵梨花は数年前に病気で……」
「す、すいません! 俺無神経に!」
「良いのよ、あの子の為にと一生懸命で、でも病気は非常なもので、結局生きている内にとあの子に兄弟をと思っていた矢先に私も」
あの時美空に聞かされた内容そのままで、しかも実子の為にと思っていたらしく、お腹を摩るような仕草を恵麻はしているが目を見ればわかる。
もう存在しないものの目だ。
この重たい空気に自分が居ていいものかと悩むと同時にあの2人ならこの話でも場を崩さずに話をするだろうが、今は光喜だけ。
『困った! どうしよう! 話の上手いフィンとか同調してくれる冬美也もいない! 積んだ!』
本気でこの状態をどうすれば良いかと悩んでいると、優紀がやって来た。
「何やってるの?」
「あっいや、絵梨花ちゃんって子の話をね」
優紀はそれならと恵麻の後ろを見ながらある話をした。
「絵梨花? あぁずっとおばさんと一緒についてる子? あんまり由梨花が馴染んでくれなくて心配してるんだから、もっと甘えたら? 絵梨花だって折角来てくれた妹大事にしたいんだからさ」
この時皆どういう意味とばかり怪訝な顔になる。
同時に光喜はある事を思い出す。
そう冬美也は見えると言っていた。
『お前の弟も見える人でした……と言うか、冬美也気付いてたなアイツ!』
あの時もそう、クリニックを勧めたら嫌がっていたのを知っていたのに完全にスルーしていた自分が否めない。
きっと怒ったり不気味がったりするのかと一抹の不安が過ぎる。
だが、その思いとは裏腹に恵麻が泣き出した。
「あの子……が、もう痛くないの……?」
優紀は恵麻の問いに、若干間を置いてから話出す。
「痛くも何も、大丈夫だよ。ただ、由梨花が心配だって思ってる位から」
「そっか、そっかぁ……」
嬉しそうに泣き続ける恵麻を見てから、ふと光喜は恭輔を見る。
きっと意味の分からない状況に怯えているか、気持ち悪がっているのではと内心ビクビクだ。
が、そんな不安をよそに、恭輔は大興奮、優紀に色々聞いて来た。
「な、なぁ! どんなの見えるの! 教えて!」
「えっ……えぇー」
聞かれた当人もどうしてそこでそんな風に意気揚々と聞くのかと本気で困っている。
流石に止めに入った。
「恭輔君、どうどう、優紀君も困ってるから」
「だって、凄い事は凄いんだし、自慢しても罰は当たらないでしょ?」
恭輔としては凄い事には純粋に称賛しており、寧ろ自慢しても良いと思っている位だ。
この辺は価値観の問題だ。
だからこそ、光喜は自分なりの言葉であまり表立っての称賛も良くない事を伝える。
「うーん、確かにそうなんだけど、人によっては見えないのが普通だから、それが凄いと言える君は純粋だなと思う。でも他の人は君とは違う反応すると思うからあまり大々的に言うのは良くない。たまたま恵麻さんの亡くなった絵梨花ちゃんが傍にいたからお話してくれたのであって自慢するためにしたわけじゃないでしょ?」
「うん……」
「冬美也も見えてるって言っていても、基本見えない素振りで振る舞ってるし、今回だってきっと優紀君が見えたのは話してほしい事があったんじゃないのかな? だからあまりそういうのは――」
人によっては嘘つきと言い、嫉妬や敵意だけで、平気で傷つけるも居る。
だからこそ、あまり表立って言うべきではない。
やっと納得してくれたのかなと思っていたが、内容そっちのけで恭輔が言った。
「兄弟そろってすっげぇぇ!!」
とってもキラキラで凄いオーラまで放っている。
光喜はこの瞬間伝えようとした内容が吹っ飛んだ。
『あっれぇぇっぇ!?』
優紀もそういえばこういう奴だったとばかりに言う。
「言っても無駄だよ。こいつ初日からこうだったし」
「おぅ……!」
光喜が絶望しきっていると、心配してなのか由梨花がくっつくと優紀は由梨花に言った。
「由梨花ちゃんは、どういう経緯でこっちに来たかは知らないけど、勝手に死にたがらないでよ。誰も1番望んでいないんだから」
「……でも、私は奴隷だから奴隷は人の言う事を聞かなきゃダメ、私は買われたから言う事を――」
「由梨花! 由梨花は奴隷なんかじゃない! あなたは私達の!」
「……異世界に行けば大丈夫って言っていた人も、管理者に見つかってはいけないって言っていた。でも、私は絵梨花には慣れない、言われた通りに出来ない……ダメな奴隷は死なないとダメって商人が言っていた」
この瞬間、この子は未だ囚われている、その商人と言う者の言葉に。
回りもどう言う意味か分からないだろう、恵麻も必死に話そうにも、どういう経緯で来たか知っている以上余計な事が言えないし、言葉が喉に詰まって出てこない。
この状況で何を言ってもダメな気がする。
それでも光喜は言った。
「由梨花ちゃん、そんなもん、信じちゃダメだよ」
「えっ……」
「前は前、今は今、君はここの子になったんだ。絵梨花ちゃんにならなくたって、お母さんもお父さんも由梨花ちゃん、君を愛してるんだ。だから消えちゃダメだ」
こう言っても、分かってくれるかは分からない。
いや、こんな自分が言う権利が無いに等しいんだ。
崩落事件以降の出来事で両親も離婚、回りからの白い目、愛情とか言う柄ではないし、結局叔母である咲が来なかったら結局自分がどういう末路かも薄々分かってしまう程、相手の為にこういう事を上っ面な言い方は正直良くない。
でも、由梨花が欲しいのはきっと今の自分を止めて欲しいんだ。
今と前の葛藤をこんな小さな子供が抱えている。
だからせめてその荷を下ろしてあげたい。
恵麻が漸く由梨花に近づき抱きしめ言った。
「……由梨花、ごめんね、もう良いんだよ。由梨花は由梨花なの。これからどうしたいのか一緒に考えましょう?」
どうして管理者を知っているのかとか、色々聞きたい事もあるが、今は良い。
由梨花はまだ状況を理解できていない分、これからもっと生きたいと願い、由梨花として生きて行ければと願う。
「ほう、お前は盾側になるか少年」
その声に、悪寒が走った。
どうして中にいるのか、一体いつからそこにいるのか、目を疑う。
「クライヴ何故……⁉︎」
次の瞬間、クライヴが動き、光喜も手に力を込める。