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帰りのドライブ

 琴の乗って来たのは、嘉村家の車らしく乗った中で凄い上質のある車だ。

 何より5人乗りで、後ろに光喜と理美、間を挟んでナイチンゲール、そして前は勿論、琴が運転席で助手席にもう1人乗っていた。

「――でなんで諸葛も乗ってんだよ! ジャンヌはどうした!」

「俺も乗りたいからってお願いしたら、日向さんの方でOK貰ったんで変わってもらったんですよ! いやぁ持つべきものは友人ですね。それにどうせ、冬美也君だろ? 幼少の頃君が面倒みてたんだから、見に行く前にその間の事や色々聞きたいんだろ? 自分も聞きたいなと」

 まさかの亮だ。

 実際、ジャンヌが乗り込もうとした時、亮に話しかけられ、断るも結局日向の方が折れてジャンヌは日向の車で帰る事となり、2人としてはショックがでかく声すら出なかった。

 本来ならもっとジャンヌが間を入ってくれたりして話が進む、筈だったのにと思うがこうもなると何も言えない。

 ナイチンゲールは亮に対して苦手意識と言うのか或いは嫌いのようで既に嫌がっている。

「あんたは1番掴みづらいから嫌だ、さっさと策に溺れろ策士」

 そんなやり取りをしている中で理美の心は既にピークに達しているのを誰も知らない。

『辛い怖い、吐きそう……』

 光喜と言えば、こっちはこっちで辛そうだ。

『どうしてこうなった、なんか……怖い!』

「知ってますか、ゴリラはとっても繊細で徳川家康みたいなものです」

「多分、違うと思うよ」

 実際、徳川家康が驚いて脱糞をやってしまったのを絵に残したという逸話は嘘に近いそうな。

 それよりも、ナイチンゲールとしてはゴリラと言う言葉が頭に引っかからせ、琴を問い詰める。

「ちょっとどういう意味よ、琴!」

 一々反論してはダメと分かっていて放置を決め込み、琴はずっと運転に集中し、亮が宥めると言うか所々で煽っている節が見え、そのせいか光喜も理美もこの状況があまりにもストレスで、早く帰りたくて泣けてきた。

『早く――』

『――帰りたい』

 琴がバックミラーで後ろを確認したら、光喜と理美の暗い表情に気付くも酔ったようにしか見えていない。

「両方とも具合悪そうなので何処かに止めます?」

 現在医師として活動をしているナイチンゲールは心配してどちらも診ようとするも、直ぐに光喜が断った。

「ちょっと診ようか? 三半規管そこまで悪くないだろ? 生きは平気だったのに、疲れか?」

「お、お構いなく」

 ただ2人は心に閉まって置くしか出来ない。

『い、言えない』

『ただこの状況が嫌だったなんて……』

 ますます暗くなる2人を見た亮は言う。

「絶対、この環境が嫌だから顔色悪いだけですって」

「諸葛は黙ってなさい!」

 意を決して理美が話しかけ、それに釣られて光喜も反応するとナイチンゲールとしてまるで警告するかのように話し出す。

「あ、あのそれで、何故私と?」

「俺?」

「まぁ新人らには一応話するのも礼儀だし、ちと釘も刺しときたいと思ってね」

「釘?」

 その言葉に怪訝な顔になる2人だったが、すぐに理解してしまう。

「まず、理美だ。あんたはあまりにも覚悟が無い」

「……それってどういう?」

「そのまんまだ。あの小僧、冬美也は普通とは違う」

 この辺は全て分かった上で一緒に居ると自負していたが、どうもそうではないようだ。

「知ってますそんな事」

「いや、あんたはもっと小さい頃の冬美也を知っておかなくては行けない」

「小さい頃の?」

 一体どういう意味かと思っていたが、それすら意味が分からない。

「アイツはね。あんたが思っている程、優しくなんてないんだ」

 ただあまり追い詰めるような言い方に光喜は納得行かず、食い下がる。

「流石にそれは小さい頃でしょ? 環境の変化で性格が変わるってあるでしょうが」

「そう思って様子を見て来たし、丸くはなっているとは思うが、万が一何か起きたらお前じゃ対処できないって言いたいんだ」

「なんでそういうの言うんですか! 冬美也はずっと理美ちゃんの事を思っていたしなんならどうしたら救われるか必死で――」

 ナイチンゲールは食い下がる光喜と言うよりも黙ってしまっている理美に対しての物言いだ。

「でもアイツは言葉にしたかい? 特に理美の方で」

 これだけは言えない、言っていたかどうかも理美氏から知らないから、押し黙るしか無い。

「……!」

「如月先輩、十分です大丈夫ですから」

「でも!」

 理美はなんとなく察しているのが、どことなく申し訳なく思ってしまう。

 しかしこの状況は前の席にいる琴もあまりよろしく無いのが痛い程伝わり、琴が和らげたいのか煽りたいのかとんでもない事を言い出した。

「怒ったところで、地雷系ですからどうしようも」

「聞こえてるぞ琴!」

「わざとなんですから、至極当然です」

 挙げ句の果て、亮まで参加だ。

「知ってますよ、確か――」

「いい加減にしろ!」

『なんとなく、物理的な喧嘩になるのを止める為にわざわざ来たんでしょうね諸葛は』

 ここでどうして亮がやって来たのか分かった琴はこのまま暫く煽って話をはぐらかすかと考える。

 だがこれ以上は無理なようだ。

 すぐに話をナイチンゲールが戻す。

「冬美也と出会ったのは彼が3歳の時、アイツは体が非常に弱く、長期入院していた中一応表向きとは総一君から実際何度かユダに頼まれていたが、他の患者もいたんで断っていたけども落ち着いた所に総一君が来たので行ったのが正解」

 理美は冬美也と知り合ったと言うか、なんと言うかの感じで、ジルに聞かされるまでほぼ同い年とまで思っていたのも今では懐かしい。

 琴に至っては冬美也との出会いが言葉で表せないので、そこは濁す。

「本当に子供の時のって、こちらは知っているのは理美様が拉致られた冬美也様を熊に乗って追いかけている時に出会っているので相当古い知り合いなんですねぇ意外」

 知らない人間では無いナイチンゲールも話は入っている。

「こっちでも話が入ってる、随分丸くなったんで別人じゃ無いかと思ったくらいだ。勿論あの変化する金属の姿も知っている。実際に見た、まぁ琴のお陰で普通に暮らせるようになっているようだがな」

「前の職場の雇い主がクビにしてくれたお陰ですよ」

 未だ根に持っているのか、ハンドルを握りしめる手に力が入り、ほんの少し凹んだように見えた。

「あんたも苦労してんだね……」

「まぁその後は理美様のご家族からスカウトを受け雇われようかと思った所、前の雇い主が戻って来るように呼び出され、一度辞表を持って話し合いましたがもつれていた所、第一秘書さんが改めてスカウトしてくれたのであちらも諦めて下さり助かりましたよ」

「その間、翼園ではもっとごたごたしてたんだよねぇ、ゼフォウ連れ去られたりして」

「流石に不意を突かれたと申しましょうか」

「えっ!? でもアイツ、去年って」

「うん、去年は去年で凄かった」

「あれはもう始末しようって言っていた位でしたしね」

「なんかフィンには幸せになってほしいんですけど」

「だよねぇ」

「あんたらそうやって話を逸らすな」

 直後に琴と理美と光喜は舌打ちをして白けてしまう。

 実際フィンには幸せになってほしいと言う気持ちは本当だ。

 だが、やはり今の話は冬美也に関しての事なのは変わらず。

 結構話を戻され嫌気が差してしまった。

「やっぱりダメか」

「だから覚悟が足らないんだ、アイツは頭が良いから言い負かす位ならまだ可愛げがある。アイツは人格的にも相当手を焼いたが何らかの異能があった」

「あった? 過去形?」

 光喜からすると過去形なのが少々気掛かりだったが、ナイチンゲールはそのまま話を続ける。

「性格も相当捻くれていて、ちょっとでも気に入らないと停電なんて当たり前で、たまにコイツ嫌いってなると行方不明とかになっていたりとかなり癖が強くてこちらの骨が折れそうだった」

 理美からすれば、一度もそう言ったものが無く一切被害が無い。

 亮はナイチンゲールが言っていた過去形の言葉からして封じたのだとすぐに理解出来ていた。

「……一度もそんな事起きてませんでしたけど?」

「んーきっと封じ込めたんでしょ話的に」

 興味ばかしの軽い問いには何故かナイチンゲールは機密事項とばかり教えてくれない。

 信用の足らない新人という訳ではなさそうだが、あまり良い気分では無かった。

「どうやって?」

「こればかりは機密事項なんでね」

「なんで今そんな話するんですか?」

 最近の悩みもある冬美也を思えばこそもあるが、万が一再度異能が活性化した時、対処するのは非常に難しいと言うのがあり、絶対に阻止したいのが分かるものの他人が聞いても不快な内容だ。

「あいつ、今心の不安定になっている状況のままだと何が起きてもおかしくない、不安定要素のアンタがまずどんな奴か分かった。覚悟のない甘ちゃんだ。そんな奴が冬美也の不安要素にしかなりかねない」

 遠回しに別れろと言っているのがひしひしと伝わり、理美の顔が歪んでいく、流石に光喜が怒鳴ってしまう。

「どうしてそういう風に言うんですか‼︎」

「あんたも、覚悟が足りないようだね。万が一何か起きた時あんたは何が出来る? 狼狽えてるだけじゃ何もできないんだぞ?」

「そんなの分かっています。でももし別れる原因がこちらならこっちに向かって来ますので、バレた時を考えての言葉でしょうね? 私なら不安要素を枯らした方がはやいでしょう?」

「それが出来てれば良いんだけど、こっちもそれと言い争いすると今後がねぇ」

「所詮今世の一時でしょう? やっちゃいましょうよ?」

「流石琴は本当に怖いもの知らず過ぎてこっちが怖い。でもそれはどのような人物なんです? そもそも人ですか? そんな人物にあなたですら頭が上がらないとかないでしょう?」

 ここに来て、そういえばあの時ユダの奢りで情報を貰った時に冬美也の欲しがっていた情報で彼が一瞬で固まったのを理解し弱みがあった冬美也にはどうしようもできない相手、アンドレ•ガナフではないだろうか。

「……あっ」

 理美が光喜の溢れた声を聞き逃さなかった。

「何か知ってるんです如月先輩?」

 こればかりは知っていると言いたかったが見たことがない相手の名を出すのもなんだし、とりあえず昼間の出来事を思い出して話す。

「い、いやなんとなく察したというか、きっとその変な奴に絡まれていたって言っていたでしょ、きっとそいつじゃないのかなって」

「あの……アンドレ•ガナフって人ですか?」

 まさか理美も知っていたなんて、どうしたものかと思えば、すぐに琴が反応する。

「消しますか? 出来ますよ」

「あんたは! 秩序どこやったんだ!」

 ナイチンゲールが言うように、本当に皆が思っている事だ。

「彼女は別に別れろとは言ってないので、腹を括って覚悟を決めるのも良いでしょうが、今のままだと君が壊れてしまうのはあまりによろしくない、でしょフローレンス?」

「……そうだけど」

「理美様はナイチンゲールと聞きどういうイメージありますか? 軽く説明した時には新選組の片っぽとか言ってましたが?」

「姉ちゃんを病気だって言って学園に滞在して姉ちゃんを怒らせた人」

 この瞬間に弱っているようには見えず、寧ろ煽っている。

 つい光喜は吹いてしまい、同時にナイチンゲールを怒らせた。

「ぶっ!」

「やっぱり相容れない!!」

 一度姉はそのせいで険悪にはなったがちゃんと理解してくれて仲直りはしています。


 そうして先に理美の方から帰す事となり、中等部寮へと到着した。

「送ってくれてありがとね、琴」

「いえいえ、後ほど呼び出し集合させた一辺りに臨時で飲み会する事になっておりますので、ちなみに彼の奢りですので詳細分かりましたら教えて差し上げます」

 理美は未成年だが、結構楽しいようで行くと言い、逆に知らないナイチンゲールが反応する。

「まじで、行く!」

「今知ったんだけど、ズルくない!?」

「一経由の人限定です。あなた医師なんですから、あと孔明も違う経由なんで無しです」

 一応残念そうな顔はするも亮は分かっていたようだが、同時に理美に声をかけた。

「知ってました、で、理美君」

「何? 怖いんだけど……」

 コイツもかと言う目で疑った理美に対して、にっこり微笑み亮は言う。

「俺はあなたの味方なので大丈夫です」

「はっ?」

 本気で疑う目に変わる理美が面白いのか、ずっと笑う亮に呆れつつ琴は出発する。

「もう出発しますね。おやすみなさい理美様」

「うん、おやすみ」

 理美は見送りつつもすぐに寮へと戻った。


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