寄り道
声を掛けられたので、聞き返してしまうも、フレアは、にっこりして答えてくれた。
「フレアさん? またなんでここに?」
「たまたまです、自分探しの途中です」
やはり物腰の柔らかさは言葉だけでなく、表情にも出ている。
不思議と何度も会っている雰囲気はそのせいだろうか。
光喜はフレアに言う。
「俺は新しい棚を買いに」
「その付き添い」
この辺でお暇しようとするフレアだったが、丁度誰かが声をかけて来た。
「あまりこの辺に居ると目立つのでそろそろ……」
「フレアさん! ……に如月先輩とゼフォウもいた」
理美だ、彼女もまた何か買い物をしていたのか、色々買い込んでいる。
フィンはいつものノリで理美の頭を撫でた。
「おぉ、理美ちゃん! てか知り合いなのフレアさんと?」
これも身内だからこその気を許しているのがよく分かり、なんとなく嬉しそうにしているが多分他愛のないものだろう。
それにやはり冬美也が居ないのに気になっていた。
「うん、ちょっとこの前にお世話になりまして、冬美也は?」
「車に酔って、即帰宅した」
「うわぁ……冬美也そんなタイプじゃないのに坂本さんの車でも乗った?」
坂本の運転は悪いのかと光喜が思う中、フィンは話がややこしくなるので、フレアに世話になったのかと聞けば、変な男に絡まれたのを助けてくれたそうだ。
「まぁそんなとこ、それでお世話って?」
「一昨日の変な男に絡まれてたので、ちょっと追い払っただけです」
聞いた本人よりも光喜が心配してくれたが、やはりそれだけで終わっていない。
「大丈夫だったのそれ!?」
「実際あまり大丈夫じゃない……」
顔色もやや悪くなるのを見て、もしかしたらその変な男とはアンドレ•ガナフと言うのではと思ったが、光喜はまだ会った事も無ければ、見た事も無いのでなんともだ。
ちなみにフィンが頼ってとばかりに構うが有料とはこれ如何に。
「有料だけど、俺を頼って良いのよ」
「頼ったら最後なんで絶対にヤダ」
無論、どう言う人間か分かっての断りなので自業自得だ。
「ですよねー」
「皆も居れば大丈夫だろうし、ぼくはこれで」
「待って、はいっこれ」
取り出したのは無糖の缶コーヒーとサンドイッチだ。
慌てて断ろうとするも、理美はフレアの為にわざわざ買って来てくれた物だ。
「いや、ただたまたま座ってただけだし」
「良いのこれ好きでしょ?」
「ありがとう、頂いて行くよ。ぼくはこれで」
そう言って、フレアは申し訳なさそうに貰って、立ち去った。
フィンはあることが気になり、理美に聞く。
「理美ちゃん、牛乳入りじゃないと飲めないでしょ君?」
砂糖が無くとも牛乳が入っていないと無理なのを知っていたので聞けば、お礼の時に知ったとの事。
「偶然見かけたから、前にお礼にって奢るって言ったらこれが好きだって聞いてそれと多分あの人あんななりに少食なんだよねぇ」
この状態は昨日とさほど変わらない状況を見て、同じ事を理美にもぶつける。
「理美ちゃんや、あまりそういうのすると冬美也が愛想つかしちゃうよ?」
フィンには冬美也と同様の反応を期待してたのだが、理美はそれとは全く違う反応を示す。
少し考え、頭を振って諦めたような笑みで言う。
「……そうだね」
フィンと光喜はあまりの衝撃で声ではなく心で驚く。
『反応が!?』
『薄い!?』
一体どういうことだと2人はあーだこーだ言い合っていると、理美が2人に対して少々引きながら言う。
「何話してるの?」
フィンと光喜は各々で予想と感想を述べ、つつ1歩、足を後ろへと滑らす。
「い、いやぁもっと嫌だとかなんかないのかなと?」
「理美ちゃんの反応の薄さに自分達が驚いてるんだよ」
慌てて距離を開けて再度話し合いだ。
「薄い訳じゃないんだけど、なんか感じがぁ」
「やっぱり、あれじゃね? 春日谷の件」
「俺もそれ思ってるんだよねぇこの反応の薄さは」
「もしや、もう薄れつつあるのか!?」
お前らは乙女と声を上げたい約1名は、仕方が無いので事情を話す。
「いや、そういう訳じゃなくって、冬美也最近他の子や如月先輩達と話していると明るいし距離も近いから、私といる時はね気を遣ってばかりで疲れさせてる分いっそ解放した方が良いんじゃって思ってて、てか先輩早くしないと売り切れるんじゃないんです? 安売り期間は売り切れが当たり前なんですから」
驚きたい半面、かなり深い何かを感じ、なんて声をかけてあげればいいか分からない。
「理美ちゃん、帰ったらすぐにアイツにラリアットかましておくから、そう言わないの」
「フィンも暴力で解決しようとしない。確かにもういい時間だし早めに行かないと、じゃ」
「うん、気を付けて」
光喜は行こうとは思ったが、これだけは言っておかないと後悔しそうで、思い切って言う。
「ねぇ理美ちゃん」
「なんです? 如月先輩」
「冬美也は多分、好きな人の前にいると下の鼻伸びるタイプだから気を引き締めたいだけだから気にしないで」
流石に理美もフィンも間が開いたと思えば、吹いてしまった。
「ちょっ、確かにその部分あるけど……!」
「……先輩、それ冬美也に聞いていい?」
もう弾け飛ぶ勢いで本気で光喜は言った。
「おう! 聞いてあげて! 多分喜ぶ!」
「アウトじゃねぇかそれ」
フィンも笑い堪えながら必死だ。
その後は理美と別れて、ホームセンターでお目当ての棚をなんとか購入した後、送ってもらう事にし、ついでとばかりフィンも色々と物を購入した。
帰り道、フィンにこの荷物はどうするのかと聞く。
「これ、こんなに買ったけど、あの部屋に置くの?」
両手にいっぱいの荷物、一体どういう風に使うのかと気になっていたが、どうやら違う所で使うとの事。
「んにゃ、これは別の所に行くから、光喜は真っ直ぐ帰りな」
「いや、大丈夫だよ、ついでだから付き合うし――」
普通に言ってしまったが、フィンの場合普通では無い場所が普通だと思い出し固まった。
フィンも光喜の態度ですぐに否定する。
「そこ、しまった裏の方とか思うけど、違うから違う場所に行くのこれから」
一体どこに行くのかと思ってついて行く事20分、そこは児童養護施設ひだまり園と書かれた古びた施設だった。
「ここって?」
「気まぐれ、たまたま雇った子が孤児だったんでその施設に行ったらまぁ貧乏で、気まぐれに来ては色々ねぇ」
そう言っている間にここに住んでいる子供達がフィンに気付いて囲い出す。
「フィンだ」
「フィン、お菓子ちょうだい」
「おもちゃある⁉︎」
まるでと言うか、もうタカリだこれ。
フィンは荷物を漁るなとばかり上げて、怒るもすぐにここの園長はどこか聞く。
「お前らは俺が何でもかんでも金で解決すると思うなよ。ところでばーさんは?」
「園長は中でお仕事してる」
「先生も」
他を尋ねれば、子供はそれ以降ないとの事を口にする。
「客とかは?」
「ううん、フィンが来てから来なくなった」
もしやこの園には多額の借金があり、闇金融もうろついているのではと勘繰れば、やはり金に関してだった。
「……フィン、借金取りとか?」
「いんや、ここに金貸してたって言う親族だったな、確かに借金というか、善意で貸してた人が亡くなったのを期に借金返済を分割じゃなくて一括で、出来なきゃ立ち退きって場面を見ちゃって、成り行きで前払いしちゃったから雇った子辞めれなくなりました」
確かに辞めれないだろうが、成り行きとは言え、金を返済してくれただけではなく、この様子だとちょくちょく顔も出しているに違いない。
「……なるほど、お人好しだったのか悪なくせに」
「はいはい、お人好しの悪だよ」
玄関口まで行くと、60代位の眼鏡を掛けた女性が出て来た。
「あら、フィン君いらっしゃい! また来てくれたのね」
「前に壊れたって言っていたの直しに来たんだよ、こっちは友達の」
「如月光喜です、初めまして」
「まぁ、ここの園長しています、多井中知恵です初めまして」
自己紹介もそこそこにすぐ中に入って、フィンは片方の荷物を田井中に渡す。
「どの辺だっけ壊れたの? 後これ差し入れ」
田井中はその袋の中を見て申し訳なさそうにする。
「いつもありがとうね、そんな気を遣わなくても」
「良いの良いの、節約してほしいから買ってきてるの」
「じゃこれ冷やさないとね」
フィンはこれといって気にもせずに、中へと入っていくと帰ろうかと思ったが、こうなると最後まで付き合う空気になったので、光喜も一緒に行く。
廊下を歩きながら、何を直すのか聞けば棚との事。
「それって直す為の?」
「そっ、久々に来てみたら、棚壊したらしくって、ホームセンター行くって聞いて序だから買うより直した方が早いと思ってね」
実際ある部屋に入るとその壊れた棚を見れば、確かに一部破損しているので、今買ってきた道具や木材だけで済みそうだ。
フィンは予め用意していたタオルを頭に巻く。
小1時間位で直せそうなので、一緒に手伝うことにした。
「これなら俺も手伝うよ」
「助かる」
それならと予備のタオルを光喜に渡した時だ。
とんでもないものが発生する。
「フィン、ブランコぶっ壊れた」
子供がそう言い残して、立ち去ってしまう。
これから棚を直して終わりだというのに、次から次へとどうして物を壊すのか。
「ふぁ!? ちょっと待てこら!」
フィンも捕まえようとしたがもう外へと出て行ってしまったらしく、途方に暮れる。
「とりあえず……棚から直そっか」
「……だなぁ」
棚は読み通り小1時間で済んだが、ブランコは座るための板が破損と紐も引きちぎれているもののなんとか板と紐は交換だけで済む……筈だったが、他も壊れたわ、ここも壊れたわで本当に人使いのあらい子供達だ。
結局終わったのは午後3時半で、そういえばあの朝食のおかげで昼は食べずにいたが、流石に腹が減って来る。
「もう買ってもらえば?」
「ここ最近の物価高と予算見直しくらって金ないんだよこの園」
本当に1番必要とする施設には何故こうもお金が流れないのだろう。
とにかく、何か口に入れたい。
「えぇぇ……と言うかそろそろ何か口に入れない? 腹が減って死ぬ」
フィンは目が笑っていない本気な状態で笑いながら言った。
「大丈夫! 1日2日程度抜いても死なない!」
「お前、本当にどんな環境に居たんだよ!?」
本当にあの時の帰り道を思い出してしまう。
ただフィン曰く今いるマフィアではちゃんとご飯をもらえているとの事だ。
「ちなみに、今いるファミリー飯食え派なのでそういうことしないよ」
「いや身内だからだろそれ?」
そんな話をしていると、田井中が冷えたラムネとお菓子を持ってきた。
「お疲れ様、ここまであの子達壊すとわ……きっと私の知らない間に壊してたの隠してたわね」
「かもしんない、ラムネじゃん、お菓子も別にわざわざ開けなくても他の子達にあげて」
「良いのよ、さっき貰ったのあげたから、こっちは先生用のだし」
「お、おう、ありがとうございます」
「それじゃゆっくり休んで行ってね」
「あーい」
田井中が居なくなってから、フィンについて少し知っておこうと思って聞いてみると案外あっさり教えてくれた。
「ねぇ、フィンってどういう経緯で来たの?」
「俺、物心ついた頃にテロなんだから内戦なんだかで巻き込まれてて、慈善団体だと言う男に騙されて臓器売買か売春宿の2択しかなかったし」
「それ、普通に話す?」
流石に引いてしまうも、光喜の反応見たさで笑うフィンだったが、少し懐かし気に語る中で少々罰当たりが入る。
「いやぁお前の反応見たくて、ただまぁ生きたいから売春宿を選んで……その後色々あって日本に流れ着いて、祠ぶっ壊しちゃって」
この瞬間で光喜の目の色が変わった。
「さてはおめぇ祠壊したんか!?」
「おう! 神様に怒られて、直したぜ! フィリアと共に」
なんか色々突っ込みたいが、それ以上にフィリアも巻き込まれているのにも驚きだ。
「フィリア先輩、ただの巻き込まれ!」
「あはは、でも直した後のラムネがおいしくってさ、このビー玉もまだ取ってあるんだよね、と言うか本当に荷物ないから、挨拶次いでに持って行くのビー玉とディダ神父からパクったサングラスだけ」
「さりげなく窃盗してるし!」
その時の思い出を語っているフィンは本当に遠い過去を見ているように思えた。
その後は田井中に挨拶し、家路へと帰る中、フィンはどうしてマフィアなんかに入ってしまったのだろうと考えているとフィンが笑って答えてくれたのだ。
「普通はさ、自分生きるのに手一杯で自分だけ生きればいい考えしかない筈なんだけどね。まぁ、俺も自分だけでだったら多分見て見ぬフリだ。ただあの時仲間が居た。死んで行った仲間、置いて行ってしまった仲間、その都度考えて、ボスと再会した時に子供達を救いたいってこと言って今に至ると」
マフィアに居る理由が子供を救う事と知るもまだ理由があった。
「それがマフィアにいる理由?」
「まぁそういう事、後は身を守る為の自衛手段、言ったでしょ、売春宿に居たって」
もう1つが自衛手段として身を守っていると知るもどうしてそうしなくてはもう冬美也や自分よりも確かに華奢で小柄な部分もあるものの身長だって170はある。
ついつい聞き返せば、未だに狙っていると言うのだ。
「……売春宿にって?」
「まだ元客共が狙ってんのよ、それ含めて表より裏に居ることを選んだんだよ」
「流石に身長伸びたし、忘れているんじゃ」
既に前例があった。
「前例がありますゆえ、無理! 後、去年だったかで騒いだおっさんがおりまして……」
この話はあまり聞きたくもないし、ただでさえ変態がより際立って危険視するレベルだ。
「怖っ!! 変態怖っ!!」
「って事で、自分がやるべき事と自衛の為にいなきゃならんのよ」
「分かったけど、怖い」
光喜の怖いはやっぱりマフィア怖いのと変態怖いだ。
漸く住んでいるマンションに着くと、冬美也と優紀が買出しだろうか外に出て来ている。
その直後だった。
「冬美也ー!」
「ごふっ!」
「兄ちゃん⁉︎」
まさか本当にラリアットをかますとは思っても見なかった。