明日の予定
バイトが終わって、早々に冬美也達の部屋に行ってみると、出て来たのは優紀だった。
「すいません、兄ちゃん今バイトで居ない」
「そうなんだ、意外まだコーヒーショップだったのか」
「おう、社長どうないしたん?」
フィンも光喜と知り、出て来て早々どう言うわけか訛っている。
「急に訛るな、いや冬美也に話しようと思ってほら部活で話した後、光照先輩に聞いて」
「なるほど、確かにあの人ならアドバイス位くれるもんな。とりあえず中入りなよ、話聞くから」
「うん、ありがとう」
中に入ると、前まで無かった家具やゲーム機まで置いてあるのに気付くと、これは優紀のだからとフィンが言う。
「これねぇ、優紀の、ほら暫く置いてもらうのに無いと困るからって色々気付かぬ内に家具が増えていた」
総一か衣鶴がわざわざ買い足して持って来たようで、これは返って一種のありがた迷惑だなと思って口にはしなかった。
「あぁ……なるほど」
納得だけしたけど、やはり優紀もそこまで要らないと口にしてしまう。
「無理矢理泊まってるんだから寝具だけで良いのと他要らないって言ったんだけど、聞いてくれなかった」
確かに男子が使わないようなクッションまであり、これは流石に困っているようだ。
「そっちもかぁ」
「で、どうしたの?」
とりあえずフィンにだけ話そうとするも、優紀に話しても良いだろうかと考えていると、優紀の方がわざわざヘッドホンを付けて、ゲームを初めてくれたので助かるも、内容はえぐいのが付くのであえて伏せながら話す。
「いや、アレの話で冬美也に触れてもらって、それをアミーナ先輩に見てもらえばって話、でもよくよく考えるとアミーナ先輩、理美ちゃん触れて見えてたんだからそうはしなくても……」
話していて、途中でそれなら最初からアミーナに見て貰えば良いだけのことだと気付いてしまうが、そうも行かないようで、フィンが説明するもややこしい。
「それは人が見た映像をそのまま見てるだけ、データが生きていれば多分見えるだろうと思って聞いたけど、あくまで現状を見るが正しくて、理美ちゃんの過去を覗いたって言うより、理美ちゃんが見てきたモノを見たが正解」
「またややこしい話だなぁ」
「分かる俺もだ」
フィンも同意する程で、知るも一緒ではと考えるもまた違う。
「知るも一緒じゃないの?」
「知りたいのを見れるんだからまた違うらしいぞ? 正確な過去を見るには知るに愛されし者が的確だって」
「こうなると、真実って人が生きていればなぁ」
一瞬だけフィンの顔が驚いた気がしたが、すぐに戻って話そうとすると、流石に聞こえていたらしく優紀が全ての内容を一言で纏めて来た。
「何、また厨二病な話?」
フィン、面倒になって全てをその言葉に同意するので、光喜は突っ込むしかない。
「そんな感じ」
「おい、そんな話にするな」
鍵を開けて冬美也が帰ってきたと同時に光喜が居てつい聞くも、逆にフィンが聞き返す。
「ただいまーって、光喜がいるじゃん何してるの?」
「冬美也、おかえりーと言うか最近遅くね?」
普通の顔だった冬美也の顔が面倒な表情へと変わり、事情を言った。
「あぁ、店長命令で、バイト仲間の女子である春日谷を駅まで送っているから」
今のご時世仕方がないとは言え、彼女持ちの男に女性を送らせるのは如何なものか。
フィンもそれを同意して送っている冬美也に対し、愛想尽かされてしまうのも時間の問題ではと感じてしまう。
「お前、理美ちゃんにその内愛想尽かされるぞ」
冬美也の顔色があっという間に青ざめ、動揺し、話はしているからと言うがかなりの焦りも感じ取れてしまう程だ。
「……! だ、だい、だい大丈夫。い、一応、その、話は、し、して、してるから」
『素晴らしき動揺っぷり』
言った本人もアホくささに呆れ、優紀も言いはしないが、断る位出来ただろうと思っている。
『兄ちゃん、そうなるくらいなら断れば良いのに……』
しかし、光喜は違った。
「春日谷って春日谷が……⁉︎」
『そっちは、そっちで地雷だぁ』
最近中学の頃の同級生とは会わずに過ごしていた為、大分本調子だったのにお陰で元に戻ってしまう。
しかも冬美也はこういうはぐらかしが苦手で、ダンマリだ。
慌ててフィンが話を戻しに持っていく。
「そういうの良くないって言ってるでしょ冬美也! もっと自信を持って違うって言いなよ! 社長も一々クヨクヨしないの! そうだ、とりあえず話を戻そうそうしよう!」
空気を読まずに冬美也謎の返事をして、フィンを怒らす。
「……ぅん」
もうこの状況を打破したい時に余計な事を口にするも光喜は光喜でまさかと青ざめたままだ。
「そこ! 少しは話の内容聞け!」
「居るの、そこに?」
「あぁぁもう!」
完璧にフィンは怒り任せで大声を出す。
その全てを見ていた優紀は大変そうだなと思いながらも口にはしなかった。
『なんかフィンさんって苦労人だよなぁ』
暫くして、優紀も面倒になって先に寝た辺りで皆が冷静に戻り、卑弥呼からのアドバイスの話を始め、冷静に戻った冬美也が言った。
「まーた、オレかよ、たまたま見取り図は見ていたけど、どうしてあの時見たのかサッパリだぞ?」
「もう遅いし、明日お互い休みだろ? 行ってみようぜ?」
フィンも乗り気で光喜も冬美也からの同意無く勝手に事を進めてしまうが1番大事なのを忘れている。
「アミーナ先輩に聞いたら、明日なら午前中空いてるから行っても良いそうだよ?」
「待て待て、話が進んでいるが、これ警察が事件捜査の為に監視している如何やって掻い潜る気だ?」
そう、こればかりは捜査が終わるまで監視を置くだろうからまず一般人は入れない。
フィンは如何入ろうものかと考えた末の答えはコレだ。
「……金?」
冬美也もそれはダメだろうと裏社会の話として場を収める。
「こらこら、裏社会の学を披露するな」
光喜としてはもう中に入らなくても良いのではと思い、ビルにだけ触れば良いと思って口にするも、場所特定するにはアミーナが苦労するのではと冬美也に返されてしまう。
「ビルの壁だけ触るとか?」
「それだと、アミーナが1番苦労するだろう?」
冬美也の言う通りだが、実際廃ビルだった訳で、活動している場所が特定出来る筈だ。
「でもそれなら活動してたのはあそこだけな分、騒いでいる場所を特定は出来るだろう」
ただやはり警察の目を掻い潜るのはと冬美也が言おうとしたが、フィン、まだ金を引っ張る。
「後は金で」
「まだ金を引っ張るな!」
「とりあえず行ってからだね、明日10時に廃ビルの近くのパンダ珈琲店でってアミーナ先輩からの直々集合場所で」
「おう、明日な」
ここで話は終わり――では無かった。
「ところで、本当に春日谷もそこバイトしてるの? 冬美也の」
光喜の表情がとても冷たい、そしてその目線が痛い。
冬美也もこのまま終わってほしかったと願わずにはいられずにいたが、渋々今働いているバイトと一緒だと白状する。
「まだ言うか、そうだよ、ほらこっから30分歩くとあるエンバの」
大分落ち着きはしたが、それでも人気のあるコーヒーショップだ。
しかも歩けば着いてしまう程の距離に居ると分かるや否や光喜はその周辺に行かない宣言した。
「マジか、もうあそこ行かない」
フィンも言われるまで気付きはしなかったが、どうやらほぼほぼバイトが決まってから居るようだ。
「会いたくないのは分かるが、いつから居んのその子?」
「いや、ほぼ同時期に入ったから、でも度々用事で抜けるから穏喜志堂関連じゃないかって皆噂しているけど、仕事は真面目だし仕事場に勧誘したり客を勧誘したりしないからって放ったらかし」
抜ける時はやはり穏喜志堂関連と噂されている以外は冬美也や他の人から真面目な印象を受けているみたいだが、やはり彼女持ちに送るのは間違いではとフィンは再度言う。
「おいおい、それなら冬美也はダメだろう? 彼女持ちなのに」
「断った、でも行き先近いのがなぁ、駅前まででと言うし、同じ日じゃない様に組んで貰いたいと頼んでも」
冬美也としても断っても近いからやシフトについても懇願しても中々通してくれないくて困っているようで、そんなお願いを聞いてくれないバイト先に光喜の第一声だ。
「もう辞めちまえそんな場所」
未だに恨みという訳ではないものの拒否反応が凄い。
「戻って来て社長」
それでも冬美也は春日谷が気に掛けてるのを教えた。
「まぁ、でもアイツ、お前の事気に掛けていたぞ?」
「気に掛けるって?」
「引き篭もってないのか、今は楽しんで学校に通っているのか?」
前の事を悔やんでの事かと疑うも、側から見れば心配してくれているようだったが、自分の話を全てしたのかと疑って掛かる光喜に、冬美也はその辺は有耶無耶な状態で詳細は一切話していない。
「もしかして話した?」
「話すか! なぁなぁにして終わらせてるけど、昔話を良く聞かせて……止めとく嫌だろそういうの」
ただ昔話を良くしてくるようで、でもそれも嫌だろうと話すのを止めた。
光喜もあまり噛み付き過ぎたと反省する。
「……ごめん、そんなつもりじゃなかったから」
最初に会った当初の回りの空気を読まない自分は味方とばかりの状態から良く仕事がとフィンは言うとたまに有るらしいが、基本的に光喜の話になると生き生きするような普通な女の子だそうだ。
「しっかし、あの宇宙人っぽいのに仕事ちゃんと出来るんだ」
「たまに宇宙人になるけどな、でも光喜の話になると凄く生き生きしてるんだ、普通の女の子って感じ」
「俺の話? でも、正直関わりたいとは」
光喜は無事だっただけであり彼もまた被害者だ。
それなのにあの状態で仲直りなんて出来ないし、光喜ももう関わって欲しいとは思っていない。
冬美也は春日谷もそれに関しては分かっていて、関わる事を避けてくれていたようだ。
「良いんだよ、関わらなくて、本人はその方が良いって言ってたし」
もうこの話を掘り返すんじゃなかったと後悔した光喜はもう飲み込むしかなく、そのまま帰る事にした。
「そっか、それじゃ明日パン珈で、おやすみ」
「うん、おやすみ」
フィンは少しでも和らげようとしたのだろう。
「社長、俺らが遅刻しそうになったら起こしてね!」
「誰がするか! 冬美也だけは起こすけど」
「それは助かる」
「どうして、どうして俺は省かれるの⁉︎」
結果自分だけ酷い目に遭っただけだった。
そうして朝――。
深夜近くまで起きていたのに、光喜は7時起きだ。
「ん゙っ……! 早く起き過ぎた」
二度寝しても良いが、これだと遅刻するに違いない。
そこでもう起きて、早いうちにパン珈で朝ごはんを食べてしまおうと考えた。
でもあの2人は起きるのだろうか。
とりあえず、冬美也に電話を入れて見る。
すぐに出たと思えば、優紀だ。
「もしもし、冬美也朝早くに起きちゃったからパン珈に行かない?」
「まだ兄ちゃん寝てるけど? 起こす?」
驚き、まだ寝ているのだから今回は無しにしようとしたが、優紀もその話をちょっと聞いていたらしく行きたいようで、それなら一緒でも良いだろう。
「優紀君だったの⁉︎ お、おはよう、でも起きれないなら」
「大丈夫起こすよ、ぼくもパンダ珈琲行ってみたいし」
「そう、お願いしていい、フィンはそのままで」
「分かったそのままで」
「……ぅぐっ!」
優紀は兄である冬美也をダイブしながら起こしに掛かり、鈍い声が電話越しにも若干聞こえたが気にしないでおこう。
ノリで言っただけだが、まさか本当によりにもよって冬美也もフィンをそのままにするとは思ってもみなかった。
8時半頃、フィンが凄いドタバタしているのを聞くまではあの兄弟に冗談を言ってはいけないと肝に銘じる事となる。