ハーフ
狭間のバーは一時閉店して再開するまで小1時間ようした。
普段なら時間固定されいるらしく、そのおかげで異世界との繋がりが安定していたらしいが、今回目を盗んである場所に入られ、少々時間が狂ったそうだ。
どうしてそんな事をしたのかと言えば、たとえ捕まえても同じ時間帯では出てこれない。
その為時間を動かせば容易に捕まえられると考えたそうだが、何故ザフラをと思って聞けば、どうやらこいつらテロ組織のメンバーであらぬことを考え、狭間のバーに向かうと口にしていたのが盗み聞きされ先回りされた形だ。
で、結果、異世界人がつい時間固定の話をしてしまい、このありさまと言った感じだ。
勿論、ここは管理者達の御用達でもあれば、その場所を知るに足る凄腕達の集まり、それを知らないのが運の尽きだった。
「というわけで、後は任せる透馬」
一が運送業者に扮した透馬に捕まえたメンバーをトラックに運び入れて、全て終わった後に逃げた他のメンバーは警察等に任せる事にした。
「逃げ出した他のテロメンバーは、公安連中と警察に任せます」
「お願いな、こっちもアミーナが随時連絡入れてくれてたから未然に……いや最小限の被害で抑えられたそれじゃ後頼むな」
バックにお怒り山田五郎の姿に言い換えはしたが、被害は被害だ、仕方がない。
「はい」
そうして透馬はトラックを出発させた。
改めて中に入ると、客の皆が皆、大掃除を完了させ終わったところだ。
店に戻ったキャサリンを見つけザフラが謝罪した。
「すまん、自分のせいでキャサリンのお店を、弁償する」
「いいのよ、最初に入った奴はその代価が支払い終わるまでこき使うのがここのルール、絶対に外に出さないわよ……!」
お怒りのキャサリンのカウンターには先ほど入った大馬鹿者と書かれたゼッケンが付けられている男の姿ある。
他にもいただろうが、最初に入った者だけがこうなると周りにも圧力が増し、結果として誰もしないのだが、きっとその異世界人は分かってて話したっぽい仕草で掃除の手伝いしていたように見えた。
理美が不思議そうにキャサリンに聞く。
「でも、キャサリンは自分の力でやってるのに部屋ぐらいで崩れるの?」
「こっちはスタッフルーム、理美ちゃんとかは別段アタシの許可もらってるから良いけど、許可なしはズレちゃうからダメ、いたずら半分で入ったらこうなるから絶対にダメよ!」
ルールを持つ事で秩序が生まれ、安定しているのだろう。
そのルールを今回破られてしまい、キャサリンは未だにお怒りのまま、他にやってみろ次はないと殺意むき出しだ。
で、どうしてフィンが肝に銘じていうのだろうか。
「うすっ! 肝に銘じておきます!」
再開店時に坂本と日向がやって来て、一度何が起きたかを説明する大人組はなんとも呑気そのもの、いや余裕だろう。
「で、皆、大変だったねぇ。私もびっくりだったよぉ」
「坂本は来てないだろうが!」
「自分も来たばかりだが、時間帯がリアルタイムに一時なってしまったせいでおかしくなったな大分」
キャサリンがビールを持って来ながら、もう大丈夫と言うが、その影響は意外な所に出ていた。
「大丈夫、今の時間で設定し直したから、最初に入った時刻出て来れる筈よ。ただ、怒られるわねぇあの子」
フィンがスマホ越しでめちゃくちゃ怒られている、しかもわざわざ正座している。
「だからすいませんでした! 分かったから! 一応遅れるって言ったじゃん!」
そんな状態で放置して、光喜達は奥の角で話をする事にした。
第二の正座して謝っている冬美也を除いては――。
「本当にすいませんでした……!」
理美が1番困惑している。
「いや、私に謝られても」
「でも、理美だって知らせたくない話なんだろう?」
あの話をしてしまった事についての謝罪だろうが、当人からすれば少々困惑もしているし、実際遅かれ早かれ分かる話だ。
「そうだけど、如月先輩だっていずれ知るだろうし別に、それに結構異世界同士の結婚ってあるんだよ? ただ表立ってやってないだけで」
何より、異世界人同士の結婚は表立って出ていないが実際にある話でもあると、理美の口から出て、光喜の方が驚いた。
「そうなの?」
フィンが戻って来て、話がどこまで行ったか聞いてきたので、理美が答える。
「あーとりあえず、テロの話も含めて後で始末書書いてねって事で解放されましたが、何処まで話たの?」
「異世界人同士結婚はマイナーです」
「マイナーって、でもそういうのはあるんだぜ社長」
「物語やなろう系とかだけかと思った」
流石にその辺のノベル系は知っている光喜に対し、冬美也が突っ込む。
「おい、実際にある話だ」
「国際結婚ならぬ異世界結婚かぁ、って事はここの世界の人と異世界人とのハーフなんだね」
光喜が納得していると、まるでそれ自体が間違いと言いたげにクライヴがやって来た。
「ふん、汚すだけならまだしも、コイツは――」
まるで全てを否定する言葉を吐こうとするクライヴに対して誰かが止めに入る。
「それとこれとは別では? クライヴ」
「あっ理事長!」
なんとアダムだ。
「アダム来てくれたの?」
「冬美也経由で口滑らしたと聞いてな、ディダも呼んだのは私だ」
どうやら冬美也が自分の責任と色々な人に呼び掛けてくれたようで、しかもどうしてかディダも呼んでいた。
「なるほど、あの異世界とのハーフのドラゴンを呼んだのはお前か、アダム」
「そうだ、何か問題がある訳ではないだろう」
アダムとクライヴは歪み合い、今にも戦う気だと分かる殺気だ。
しかしその状況を瞬時に行動に移しキャサリンが間に入って、頼んでもないメニューを出してくれた。
「普通に喧嘩するなら外でやんな! ほら、これ手伝ってくれたサービスよ」
こればかりは本当に自分のせいなのにとザフラが申し訳なさそうに言うと、キャサリンはずっとしょぼくれたまま仕事をしている男に指差す。
「迷惑かけた側なのにすまないキャサリンさん」
「良いのよ、全部ソイツ支払わせるから」
冬美也と光喜があの男の自業自得ではあるが、自分らもしないよう絶対に気を付けようと思った。
「増えたな額」
「うん、増えたね額」
「でも、ディダって異世界との繋がり無いよな?」
「確かに、東洋と西洋の龍のハーフってだけで何にも」
冬美也も理美もよく知らないが、まさかのディダ自身出生が分かっていなかったのだ。
「僕だって知らないよ、絆さんから聞かされた位で、異世界から来た龍だったとは聞いてないもん」
キャサリンが去り際に教えてくれる。
「ただ異世界同士で産まれるた子のオリジナルと言う確率が高いのは知っているわよ」
「キャサリンは知ってるんだ」
「えぇ、勿論、この仕事していればね?」
「やっぱりここって情報共有とかに一番ですね」
笑って話している間にアダムとクライヴが再度殺気立つのを感じ、キャサリンが怒る。
「あんたらも喧嘩するな、コイツと同じ目に遭わせるわよ!」
喧嘩の仲裁をキャサリンがやってくれる間に、光喜はオリジナルとはなんなのか聞く。
「とのことでオリジナルって?」
ディダが教えてくれる事となった。
「僕が聞いた話で良いのなら」
「はい、お願いします」
「全ての世界において、ダブとオリジナルってのが存在しているんだ。ダブは文字通りのダブりから来ている言葉で、どの世界にも似たような人間、動物、種族が存在する。ただ、逆に全く存在しないたった1つだけの存在をオリジナルと呼ぶ」
「なら理美ちゃんも?」
料理を食べている理美を見て言うと、理美が自分の話と理解し、異世界でも自分達の姿に出会ったのを教えてくれた上で、ディダだけは会うことはなかった。
「それはないよ、異世界の1つで似てるからって手伝ってほしいてお願いされた事あるし、冬美也っぽい人や他の人も居たけど、ディダだけは居なかった」
「ねっ、オリジナルはその世界だけ存在する存在、異世界同士のハーフだから全部が全部オリジナルって訳じゃない」
ここでもっと話が盛り上がるだろうが、クライヴが邪魔をする。
「どの道、厄災の存在なんだ、どうして生かす理由がある?」
「クライヴ、お前はこっちだ! 来い!」
一がクライヴを連れて行こうとするも、クライヴはその手を振り払い、声を出す。
「そもそも、こいつは番人とイビトのハーフなんだぞ! それなのにどうして生かす必要がある! このオリジナルに至っては色々と騒動の種をまき散らした厄龍だ!」
理美とディダに対してとんでもない事を口走るクライヴに一が怒鳴るも返ってクライヴは鼻で笑う。
「もう一度言ってみろ!」
「あぁ言ってやるさ――」
しかし、ここでもう喧嘩は止まる、いや後ろから声がしたと同時にもっと怨念に等しい何かが纏わりつき皆が押し黙るしかなかった。
「全くくだらない喧嘩をしていますね、またお前かクライヴ、今度はここで粗相して暫く出てこないようにしたら良いんじゃないんですか?」
クライヴも重くなった空気に口を震わせながらも開く。
「な、デリートなぜ貴様がここに?」
「このろくでなしからの連絡で」
どうしてかディダがそっぽを向く。
この様子だと、ディダがバートンを呼んだようだ。
またくだらない喧嘩になる前に、フィンが一通り話をまとめつつこれ以上輪に入れないようにした。
「はいはい、もう喧嘩はやめましょうね、元々光喜に異世界人同士の子供もいるんだよって話をしたかったのと、そういうのもアースにとって関係なく繋がるって分かってもらう為に開いたんとディダを連れてきたのだって、本当はハーフにもたまに生まれるって言いたかったんでしょ?」
「そうだが……」
アダムがそう口にすると、フィンはクライヴも腕を掴む。
「後、俺出るから、クライヴさんも一緒に出ましょう! じゃ、俺はこれで」
「おい、離せ! 小僧!」
「自分も行くわ、こいつをお前の店で面倒見てもらえ」
一も一緒になってクライヴを掴み、お代はあの男からと言う事で免除してもらい、無理矢理クライヴを連れて店を出て行った。
皆一度静まり返ったが、すぐに盛り上がる。
キャサリンも本当はこうなると出禁等の対処も出来るがクライヴはこう見えてトラブル対応をしてくれている分あまり対処出来ない。
「本当は出禁って手もあるけど、狼藉働いた奴だけ捕まえてくれるから無下に出来ないのよねぇ」
かなりどう対処すれば良いのか悩んでいるようではあるが、坂本からすれば、度が過ぎると酔っ払いながらやってきた。
「ただ世界の秩序の為だからと言って暴走されても困るんだけどねぇ」
「僕はあなたが苦手ですので向こうで飲んでて」
ディダとしてはあまり坂本と関わりたくないの一心で追い出した。
「えぇ! せっかく呼ばれて来たのに〜」
「本当に向こう行って!」
「はいはーい、理美ちゃんは大丈夫?」
意外と頑丈だなと思っているとそうでもなかった。
「そこまで気にしてないよ」
「いや、そこはもっと気にして」
「それよりも色々悩んでて誰かに話したいけど、こうも盛り上がると話しづらいと言うべきか」
やはり成績で悩んでいると冬美也は知ってはいるがどうすれば良いのかと本人も悩んでいる。
きっと他にも悩んでいるに違いない、それに対しても悩む冬美也としてはどうすれば良いのかと考えていると光喜が意外な話をした。
「理美……」
「悩みって誰に言えば正解か分からないよね、だから俺結局部屋に閉じ籠るしか方法無くって、本当は誰かに見つけて欲しいってのが本音だけど、難しいよ欲しい言葉があるけどくれるとは限らないから、でも本当は聞いてくれるだけで言葉はいらない、ただ受け入れて欲しいだけなんだから」
光喜もまたあの頃を考えると、全てがめちゃくちゃになり、今こうしてあるが、下手すれば本当に死んでいたかもしれないし、運が良くても今も引き篭もっている可能性もあった。
でも、本当はきっかけが欲しくても欲しい言葉なんてくれないのが本音だ。
あの時、咲がやって来て、ただただ連れ出す選択をしてくれただけで、これ程嬉しいものがない。
だから、多分理美も誰かに話だけ聞いて欲しいのだ。
なんなら連れ出して欲しいと思っている。
それに気付いて欲しいが、言葉にして否定されたらと思うと言えない。
他力本願で動いてはいない、ただ恐怖心で時が過ぎているだけだ。
光喜はそれを全て理解しての言葉に理美がボタボタと涙が溢れた。
あまりの姿にジャンヌが心配する。
「理美どうしたんだ大丈夫か?」
ザフラとアミーナが変な事を言い出し、バートンが乗る始末となり、光喜の方がパニックを起こす。
「あー、光喜が泣かした!」
「先生、光喜が後輩を泣かせました」
「今現場を見ました」
「なんで⁉︎」
本当にどうしてこうなったのだろうか。